No.02 「唄いアヒル」

「二人ぼっちのリサイタル」

収容人数15000人。

アリーナの観客席は半分ほど埋まっている。


アリーナを歩くスタッフたちは、

手際よく飛び込み客を観客席へとさばいていき、

次から次へとやってくる客は指定された席へと腰掛けていく。


スポットライトの当たる中、

ギター片手に歌う男。


男はあごひげを生やしたゆるい長髪で、

黒い小さな眼鏡をかけているせいか、

なかなか表情が読み取れない。


そして彼はこちらを向くと、

ギターの演奏を不意に止めた。


「よお、ひどいもんだろう。

 ラブ&ピースには程遠いよな?」


観客から文句は出ない。

いや、出るはずがない。


男はその様子を一瞥し、

静かに首を振る。


…そこは、アリーナでありながら、

死体置き場と言っても差し支えない場所だった。


あるものは頭部がなくなり、

あるものは干からびたミイラのようになり、


男も、女も、老人も、子供も、

分け隔てなく席に置かれた死体たちは、

なすすべもなく放置されて腐臭を放ち崩れていく。


どこっ


そこに、また新しい死体。


席に置いたのはギザギザの歯を持つ猫の着ぐるみで、

置かれた女性は喉元を大きく裂かれて死んでいた。


このアリーナには、

そんなキャラクターが数体来ていた。


「…安心しな。ここではナンバーずは人を傷つけない。

 傷つけないよう、あいつらに命令されているんだ。」


そう言って、ギターを下に置く男は

背中越しにステージの奥を指差す。


「俺に、聞きたいことがあるんだろ? 

 そう願わなければ、この場所には来られないからな。」


そうして歩き出す男。


「来い、あいつらへの対抗手段を教えてやるよ。」


その眼鏡の奥が、

かすかに笑っているようにも見えた…

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