第43話 夜空
5:00 a.m.
ぺし、ぺしと何かが優しく頬を叩いていた。目をゆっくりと開く。そこには薄着の影静が俺の顔を覗き込んでいた。「おはよう」俺はぼんやりとしながらも影静に挨拶する。「おはよう恋詩」と影静は微笑んだ。外を見ると、薄っすらと日が昇りかけていた。
「修行しなきゃ」と俺は意識朦朧のまま服を脱ぐ。
「恋詩、今日は修行ではないでしょう? 友達と朝から勉強するのでは?」
「……あっ」
少しづつ意識が覚醒し、思い出す。そうだ、今日も柊子たちと共に朝、勉強するのだった。そんな感じで俺は朝起きた。影静に起こされた後、朝風呂に入り着替え学校の準備をした。
「そいや、今日体育あったっけ?」と俺はスマホで時間割を確認する。あった。
「体育着どこに置いたかな」と探していると影静が「はい」とそれを渡す。赤いラインの入った体育着。どうやらもうどこに何があるかは俺よりも影静のほうが知っているらしい。
「ありがと。じゃ行ってくる」
「はい、いってらっしゃい。勉強頑張ってください」
そう言って、エプロンを着た影静に見送られた後、俺は柊子達との待ち合わせ場所に向かった。少しだけ薄暗い町中を歩く。車が数台通るくらいで、人は少ない。ちなみに、待ち合わせ場所は一ノ瀬の家の近くのコンビニ。このまま歩いていけば、15分程度で着くだろうと思う。
町は静かだった。なのでイヤホンをつける必要も特にない。むしろこの静寂が心地よいものに思えた。そう歩いていると、後ろからたったたと小走りで駆ける音が聞こえた。
「おはよっ」と肩を叩かれる。振り向くと柊子が制服姿でそこにいた。柊子に昨日の様子はなく、いつも通りのように見えた。いや、昨日結構怖かったって。
「うぃっす」と言って柊子と並んで歩く。適当に会話をしながら一ノ瀬との待ち合わせ場所へ向かう。時折、話すことがなくなって、沈黙があるものの柊子とならば別にそれも気まずくはない。中学校時代からの友達。彼女がいなければ俺は今頃どうなっていたんだろうと毎回思う。
「そういえば、はちみつアイスパフェ新発売だって」と、柊子がスマホを見せる。そこには今日の日付が書かれたファストフード店の新発売商品の写真があった。はちみつがたっぷりかかったパフェ。素直に美味しそうである。というか不味くなりようがない組み合わせだ。
「え、ウマそう」
「でしょ? 絶対食べなきゃ」と柊子は言った。
そうしてしばらく歩いていると、気づけば待ち合わせ場所のコンビニについていた。コンビニの近くで一ノ瀬が既に待っており俺達は合流した。
*
その日も、そのファストフード店で朝勉強した後、俺達は学校へ向かった。
校門では2学年の先輩方が左右に並んで朝のあいさつをしており、うぃーすと軽い感じで校内に入った。うちの高校だけなのか、別の高校でもやっているのかはわからないが、うちの高校ではクラスごとにああいった挨拶の日が決められており、担当の日になれば10分程度、挨拶を行わないといけない。
「あれしてると、校門結構通りづらいよね」と一ノ瀬が言う。
「特に上の学年だとね」
玄関フロアに入ると、同じように今登校する生徒が多く割と混雑気味だった。
だが、慌ただしい雰囲気は一切なくいつも通りだ。そんなとき声が聞こえた。
「朱里、昨日どうしてこなかったの?」
「ごめん、体調が悪くて」
階段近くで朱里が友人と一緒にいた。意識しないようにしても自然とそこに意識がいってしまう。柊子も一ノ瀬も朱里に気づいたようだ。柊子は途端に無表情になった。
「あっちから行かない?」と柊子が朱里のいるほうとは別の方向を指差す。
「そだね」と一ノ瀬も頷いた。
「別に気を使わなくても「あっちから上がりたい気分なの」と遮る柊子。
うちの高校は玄関フロアから教室へ向かうルートが大きく分けて2つある。
中央側の階段と外側の階段。距離も中央側が少し近い程度でそれほど変わらない。
「……」
「恋詩?」
「いや、行こうぜ」
外側の階段へ向かう途中どこかから視線を感じた。
少し振り向くと朱里と目があった気がした。
*
「じゃ、今日から球技を始める」体育館の舞台前に立った若い体育教師が言った。そう今日から体育は球技なのである。体育館内には学年の半分、3クラスの男女両方の姿がある。選択できる球技はバスケや卓球、サッカー、バドミントンなど多岐にわたり以前の持久走と比べると結構楽しみだったりする。
「なにする?」体育着姿の柊子が言った。俺達は当たり前のように、一緒にいてどの球技を選択するか相談していた。
「私は二人に任せるよー」
「俺も正直なんでも、って一ノ瀬中学バレー部じゃなかったっけ?」
「そうだけど、あんまりみんなの前でバレーしたくないな」
「えーなんで」
「だってなんか恥ずかしい……」
「なにそれ」と少し笑った。
「じゃ、とりあえず今日はバドしよ?」と柊子が言う。
「おっ、じゃ勝負しようぜ」
「恋詩、一人だからね。私たちは二人」
「えぇー」
そんな感じでバドミントンが始まった。ちなみにボコボコにした。
*
8:00 p.m.
学校が終わり、自宅に帰った後俺は教科書と睨み合っていた。
テーブルに広げられた教科書とノート。学校から帰るとすぐに勉強し始めたため割としているほうだろう。俺が教科書と戦っている横で、影静はお茶を飲みながらのんびりと恋愛ドラマを見ている。
「……飽きた」
俺は教科書をベッドに放り投げた。もう無理文字が読めない。なんかすげぇぐにゃぐにゃする。悪い点をとると教えてもらっている柊子に悪いので割と頑張っているがそろそろ今日は限界だ。というか、毎日修行だったので、身体が鈍っている感覚がある。
「恋詩? 少しあちらの世界へ行きますか?」
「おっ、修行?」
「いえ、息抜きに散歩でもどうかと」
「おー」
身体も動かしたかったので、ちょうどいい機会だと思った。俺は影静の誘いに躊躇わず乗った。
*
あちらの世界も、元の世界と同じく夜。
満点の星と共にその世界は俺達を迎えた。
清廉な空気が通り抜け、虫の囀りが微かに聞こえる。
「やっぱ、いいなこっちは静かで」
「ええ」
影静と二人並んで歩く。普通の人間であれば、光がないため何も見えないであろうが俺と影静には見えていた。どこまでも、はっきりと。影静と手をつなぎながら、この世界を散歩する。夜風も涼しく、どこまでも心地よい。
「星が綺麗ですね」
「あぁ、久しぶりに見た、こんなに綺麗な星」
大空を覆う星々が世界を満たす。
俺はスマホのカメラで夜空を撮ろうとしたが、取り出す寸前で止めた。
どこか無粋な気がしたのだ。
「星は変わるのかな、あっちとこっちで」
「どうでしょうか……同じようにも見えます」
しばらく夜空を楽しみながら散歩して、俺達は元の世界へ帰った。
『あとがき
皆さん、こんにちはきつねこです。少し報告したいことがあって、あとがきに書いています。本題から話すと頂いているコメントに返信することをしばらく休みたいと思います。
感想、応援コメントを頂いているのに、本当に申し訳なく思います。ここ数話の展開について様々な意見を頂いています。鋭いコメント含めて、どのコメントも本当にありがたいと思っています。
返信をやめる理由として、①一つ一つのコメントに返信すると中にはどう返してもネタバレになる返信しかできないものがある、②ある読者さんにコメントを返すことによって別の読者さんの意見を遠回しに否定するような意見になってしまうことがある、③作者が今どんな情報を開示しているのかわからなくなりやすい、といったことが挙げられます。なので適当にコメントを返すよりかは返信しないという選択をするほうが良いと感じました。
もう本当に申し訳ないです。展開を予想するコメントをやめてほしいのではなくて、作者的にこれ返信難しい!という感じが主です。
頂いた質問等についてはできるだけ本文中でその答えを書くようにしますね。
最後になりますが、きつねこの作品にコメントを書いて頂いて本当にありがとうございます。今後は返信は難しいと思うのですが、頂いたコメントは必ず全部見て小説の参考にするので宜しければ今後も「彼女にフラレて山を彷徨ってたら妖刀拾った」にお付き合いください』
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