第16話 手にしたGノートは……。

 夕方に『突然のラブストーリー』を読んでいるとです。壁掛け時計を見るとぼやけて見えます。視力が落ちたなー。わたしは最近、作った眼鏡をかけます。


 うん?


 『突然のラブストーリー』も主人公が眼鏡をかけています。ミーサが服を脱ぎだすと眼鏡がくもるとのことです。眼鏡を外して拭き終わると新しい服に着替え終わっているのです。


 白い上下がぼやけて見えたと素直に言う主人公はバカです。


『ご主人様は一回死んだ方がいいです』


 やはり怒られた。わたしが眼鏡をかけて読んでもお約束です。


『ご主人様、もう直ぐ『危機の一週間』です』


 おや?シリアスモードか。


『わたしは核の持てないこの国の最終兵器です。この身と引換に世界が守られます』


 うん、うん。ミーサは自分の右手を見て、悲しそうに話続けます。それは兵器である事を確信している様子であった。


『ご主人様は反物質と言う言葉をご存じですか?反物質とは素粒子で反対の性質がある物質の事です。反物質と物質のこの二つが当たると消えてしまいます。そしてわたしは核燃料の反物質です。つまり核燃料と反応して消える性質がわたしです』


 難しい物理用語ですがミーサは核燃料と相殺して消えるらしいのです。この国の最終兵器か……。


 ド、シリアスです。


 貧しいアフリカの国の内戦で核戦争ですか……そして、ミーサの存在……。


 ドキドキして読むのでありました。


『そして、わたしは死神兼天使です、試しに触ってみます?』


 むにゅ……。


『あぁ……ん』


 だ・か・ら……!この微妙なシーンは必要なのでしょうか???わたしが戸惑っていると『最終章』の文字が書いてあります。終わりか……わたしは時間を忘れていました。


 翌日、わたしはシフト時間に図書館に行くと眼鏡の偉い人に控室に来るように言われた。ビクビクしながら部屋に入り、椅子に座ると。眼鏡の偉い人が封筒を手渡してくる。


「今までの給料だ」


 はぃ?


「君がダメにしてくれた本にかけてあった保険金が下りたのだよ。色々とオプションなどややこしい保険のかけかたをしていたから、下りるので遅くなってね」


 これはもしかしてバイトから解放されるのか。わたしが喜んでいると、偉い人は眼鏡を光らせてわたしを観察している。


「そこでだが、バイトをこのまま続けてはどうかと思うのだよ」


 ここで働く……。辛い事ばかりだけど生きている実感は持てる様になった。わたしは……。


「この場で即答してくれると助かるのだが」


偉い人の眼鏡が更に光るのであった。


「はい。働きます」

「快諾してくれてお礼を言おう」


その後、わたしは給料の入った封筒を開ける。おーーー。わたしはこのお金でGノートを買おうと思う。蹴り壊した間の時間はわたしの運命を変えていた。図書館の帰りにショップに寄っていき。Gノートを買うのであった。生体認証を幾つかしてインすると……。メッセージの山が来ていた。しかし、わたしはほとんど読まないでいた。


 うん?この課題って、まさか高校の授業で出された物だ。

見なかった事にしよう。


 それから、家に戻り自室でオンラインメッセージを七瀬とする事になった。白い犬と柴犬が立体映像で喋りだすのであった。机の上に置かれた『突然のラブストーリー』を見て七瀬と楽しんだ後で読もうと思ったのです。


 そして、わたしはベッドに座り『突然のラブストーリー』を読み始めます。


『ご主人様はどちらを選びます?灰になった世界でわたしと二人で生きる。それともわたしが消えた元の世界で、一人で生きる』


 この主人公はミーサがいないとダメになるタイプです。主人公の決断はどうなるのでしょう。


『取りあえず、味噌汁を作ってですか……』


は?


『ご主人様らしいです。衛星軌道から貧しいアフリカの国の核を無効化しました』


 は?『危機の一週間』は?

 流石、三流小説です。


『わたし達の技術は成功です。核戦争のシュミレーションは一年前に行ったものです。一年でこの国の科学は大きく伸び、衛星軌道から反物質を送り込み核の無力化に成功したのです』


 なんだか、丸く収まったようです。エピローグがあります。


『ご主人様の望んだ、この世界は守る価値があるのでしょうか?』


 確かに、この世界はギスギスして息苦しいです。わたしもGノートを蹴り壊しました。ミーサのセリフが胸を打ちます。わたしはプラスチックの髪飾りを見直します。大人になって本物のサンゴの髪飾りを買うと誓っていました。どんな世界でもわたしはわたしらしく生きると改めて思うのでした。


 わたしはこの世界から逃げていました、Gノートを手にしてこの世界で生きる事にしました。わたしは読み終えた『突然のラブストーリー』を鞄にしまい図書館に返そうと思います。


 ふふふ、味噌汁作ってか……。


 わたしは母親に味噌汁の作り方をききます。


「なんだか、歌葉が急に大人になったみたい……」

「えへへへ、そうかな」


 ありきたりの毎日でも少しの事で世界は変わります。わたしの髪にはサンゴ色でハートの髪飾りが輝いていました。

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蹴り壊しGノート 霜花 桔梗 @myosotis2

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