正体by音澤 煙管さん

立冬を過ぎたある日の朝、

こたつで横になったまま目が覚めた、

寒さのあまり寝てしまったのだった。

風邪は引かないものの、

とても寒くなり着替えを取りに

部屋へ行き、戻ってからまたこたつへ入る。

足腰もなかなかの寒がりで、

暫くしてからそのまま着替えをすることに。

こたつで横になり、

下着やら上着やらを替えていく。

ロンTの袖や頭が通せずもがいてる最中のこと。

綻びや穴を見つけて動きが止まり、

ふと思う。


「あ、これは真っ暗な宇宙の中……

そして、この穴やら隙間の朝陽の光は

月や星たちだ……


そうかぁー、

宇宙ってぇー、

こう言う仕組みだったんだぁ……」


と、思いながらまた寝てしまった。


宇宙の正体は、

遅刻という代償に替わった日になった……

(引用ここまで:https://kakuyomu.jp/works/1177354054892191713/episodes/1177354054892191715


 

 というわけで、今回はこちらの作品を取り上げさせていただきました。

 まず全体を通しての概観ですが、

「とても寒くなり着替えを取りに/部屋へ行き、戻ってからまたこたつへ入る。」

「こたつで横になり、/下着やら上着やらを替えていく。」

 の部分に象徴される小さなつまづきと、

「あ、これは真っ暗な宇宙の中……/そして、この穴やら隙間の朝陽の光は/月や星たちだ……」

 の部分にあらわされた、大きな発見があり、しかもそのどちらもが個人の精神の動きによって表明されている点で、ある種「模範的」ですらある作品ではないか?と感じました。


 加えて、結びに小さなユーモアがある点も見逃せません。

 このユーモアとしての「遅刻」が、「宇宙」をめぐる形而上的な発見の圏内から語り手が脱出し、ふたたび「こたつ」のある世界へかえっていく、という構成は非常に端正に整っていると思います。


 個人的に読んだ感想としては、〈正体〉という言葉について思いをめぐらさざるをえませんでした。

 今回の作品では、宇宙の正体というものが服の「綻びや穴」の中に発見されていますが、ひるがえって考えるに、正体という概念は、それがどのようなものの正体であれ、本質的に些末なものであり、空虚なものでさえあるのではないか、ということです。


 で、そのような些末さ、空虚さ、もっといえば小ささを、あえて大きさと取り違える……間違いとしてではなく、積極的な愚行として取り違えていく……というのが、何かを書くときの視点として大事なのではないか、ということを考えました。

 書く対象が現実にあるものかどうかではなく、実はこういった視点への心持ちにこそ、書かれたものの現実味というか、実感のようなものの担保となるのかなあと思います。


 なんか最終的に自分の話になってしまいましたが、それにしても今回、この作品にある種の啓蒙を受けたことは事実なので、感想というよりその記録として、この文章を残しておこうかなと思います。ありがとうございました。

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