第14話 お祝い

「レプリは、クロと言うのが見えているのね。闇を見通す眼は、闇を何か別のものとして見ることで、闇がない所を把握する闇属性魔法なの。闇がどんなものに見えるかは、その人次第なのよ」とセフィ。


「……セフィは、闇が何に見えるの?」


「私はイタチよ。聞いたことないでしょ。私も本物のイタチは見たことがないわ。闇が変化して見えるものは、かつてこの世界に在りしもののエコーだと言われているの」とセフィの説明は続く。

 荷物をごそごそとしているセフィ。


 俺はすっかり熱が引いて軽くなった体の動きを確かめる。

 ──うん、もう大丈夫そうだ。


「レプリ、これを」とセフィが何かの胃袋製の水袋を差し出してくる。

 ちゃぷちゃぷとなる、液体の音。


 俺は恐る恐るそれを受けとる。何せ、前回飲み食いさせられたものがものだ。慎重にもなる。


「それは、大丈夫よ。精がつくだけ。一口づつ、ゆっくり飲んでね。闇を見通す眼を得るために、体が弱ってるでしょ」


「……わかった」俺は渋々と口をつける。

 ──甘い!


 それはこちらの世界で初めてといって良いぐらいの甘さ。

 俺は言いつけを思いだし、ごくごくと一気に飲んでしまいそうになるのを、何とか自制する。


「甘い。何これ?!」


「薬湯よ。貴重品なんだけど、闇を見通す眼を得て、正式に闇属性カーストの一員となったお祝いよ」


「えっ」


 俺はすっかりこの集落での暮らしに親しんでいたので、改めて言われて初めて自分の立場に気がつく。


「さあ、それを飲んだら今日のお仕事はなし。砂風呂屋もお休みにします」そういって俺の手を引いて、外へ向かうセフィ。


 闇を見通す眼を得てはじめて見る外の世界。世界が一変していた。


 前世の昼間のように細部まではっきりと様子がわかる。

 リコの放つ光だけを頼りに、闇の中で見た集落はどこか陰鬱な印象だった。

 しかし、目の前にそびえる崖は偉容を示し。そこに螺旋状に刻み込まれた階段は見事な造形。

 各住居となる穴も、規則性を感じさせる幾何学的な美しさがあった。


 目の前の風景に気をとられていた俺に、リコが飛び付いてくる。抱き止め、前を見るとガッソ。そして集落に住む闇属性カーストの人々が何人もいた。

 各人の手にはそれぞれ食べ物が。


 ガッソが口を開く。

「おう、坊主! おめでとさんだなっ。皆、坊主のお祝いに集まってくれたんだ」と言ってガハガハと笑うガッソ。


 それが合図だったかのように、俺を出しにして宴会が始まった。

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