第13話 闇を見通す眼

 熱い。体が、重い。


 俺は倒れ込んだ床の上で、ぎゅっと体を縮める。

 ──まるで前世でかかったインフルエンザみたいだ。辛い。


 明らかに先程のセフィから渡された食べ物か飲み物。もしくは両方が原因の高熱。

 胃から始まった熱はすでに全身を蝕んでくる。


「これ、どうしろと……。安静にしてろとか、言ってたよな」


 漏れる呟きが真っ黒な虚空に消える。


 確実に上がり続ける熱。無い気力を振り絞り、俺は試しに意識の中の闇属性の扉──属性戸──を開けようとする。


 ……全く動かない。


 すっかり意気消沈してしまう。横たわったまま、ただただ、目の前の闇に眼を凝らす。


 その時だった。闇の中で揺れる、尻尾が見えた気がした。


 俺は自分の目を疑う。

 気がつくと目の前には一匹の黒猫が座っていたのだ。


「クロ、なのか?」


 だるい体を必死に起こし右手を伸ばす。俺の伸ばして手のひらに、体をくねらせるように擦り付けてくる、その黒猫。それは、俺が前世で子供の頃に飼っていた猫と同じ癖。


「クロ、どこ行ってたんだよ。探したんだぞ……」熱で朦朧としすぎて、思わず前世の子供の時の思いがあふれでてしまう。

 ──そう、歳をとってきたクロは、ある日突然居なくなってしまったのだ。


「さんざん探したんだ。こんなところに居たんだな……」


 俺の火照った顔をチロチロとなめるクロ。

 そして、気がつけば辺り一面に、無数のクロが居た。

 まるで、世界を包む闇が、無数のクロに変化したかのように。

 そこにも、あそこにも。

 見渡す限りの黒猫で、世界は埋め尽くされていた。


「ああ、クロ、独りじゃなかったんだな」


 俺は何故かそんな世界のあり方に疑問も抱かず、ただただクロに仲間が居たことだけが嬉しかった。

 そしてそのまま、熱にうかされるようにして、意識を手放してしまう。


 ◇◆


「ぉきて……。レプリ、起きて」と肩を揺さぶられながらセフィの声がする。


「ぅうん」俺はいまだに少し痛む頭を抱えながら、揺さぶられるままに目を覚ます。


「クロは……」辺りを見回しながら呟くのは、クロのこと。


 そして俺は気がつく。世界が一変していることに。


 闇が見えるのだ、無数の猫として。

 そこに居るのはクロに似た何か。死んでしまった前世の俺の飼い猫を模した、なにか、だ。


「どうやら無事に『闇を見通す眼』が開いたみたいね」と話しかけてくるセフィにも無数の黒猫がまとわりついていた。

 黒猫の存在しない空間として、セフィの姿を見ることが、出来る。


「セフィ! ねえセフィっ! これは何! 何でこんなにクロがいっぱいいるだよっ!」思わず叫んでしまう俺。


 そんな俺に、セフィは優しい口調で説明を始めた。


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