お出かけ
あの日から一週間が経った土曜日。
香月も、それなりに俺の家に溶け込んで、まるで自分の家のように過ごしてくれている。
それを見て、どこか嬉しさを感じる自分もいる。
香月とは、この一週間でそれなりに仲良くなれたとは思っている。
言わば、親友。いや、ソウルフレンドと言っても差し支えないだろうか。
まあ、それなりに思えるほどは、仲良くなれたと言えるだろう。
この一週間は、特に何事もなく過ごすことが出来ている。
音山や、真彩に俺の家に香月がいると言うことは伝えてないが、はてさて、いつ言えばいいのだろうか。
タイミングがなかなか来ない。
一ノ瀬にはなんか気づかれてそうだったけど。
まあ、いいか。
考えても無駄だ。どうせ、いつかは言わなきゃいけない日は訪れるのだから。
* * * * * *
ピピピピと、目指し時計が鳴り、俺は目を覚ます。
時計を見れば、7時15分。いや、早いだろ。
もっと寝かせろ。土曜日だぞ?って、目覚ましをセットしたのは俺か。
まあいい、二度寝は休日のスパイスともいうしな。
言うのか?まあ、いいや。寝よ。
そう思い、俺は手探りで布団を探す。
……?布団がない?あれ、どうしてだ。
「さっさと起きろよ翔。もう朝ごはんが出来てるぞ」
眠い目を擦りながら、俺は前を見るとそこには、俺が探していた命よりも大事な布団を手に持つ香月がいた。
「嫌だ。寝る。布団を返せ」
「それはお断りだ。天谷先輩の後輩として、先輩命令は絶対だからな」
「なんだその昭和の考えは」
「いいから起きろ!このゆとりが」
「俺はゆとり世代ではないんだけど」
「ごちゃごちゃうるさいぞ。さっさと起きろよ。遅れるぞ」
「遅れる?何に?」
「は?今日は二人で出かけるって言ってたでしょ」
「言ってたっけ?」
「は?忘れてたの?あり得ないんだけど」
「え、いや、忘れてない。覚えてたよ!?」
うわー、完全に忘れてたわ。
いや、忘れてたと言われても、まだそういう約束をした記憶がないんだけど。
なんか、怖いんだど。
「じゃあ、起きてね。朝ごはんも作ってくれてるから」
「お、オッケー」
「じゃ、よろしくー」
そう言って、香月は部屋から出ていく。
なんだろうか、香月がだんだんと姉貴に似てきている気がするんだけど。
何それ、嫌なんだけど。いや、姉貴のカリスマ性やらが似るのは、それはもういい事なんだろうけど、姉貴特有の横暴さや強引さが似てしまったら、もうほんと、申し訳ないと言わざるを得ない。
まあ、それに関してはもうこれ以上突っ込まないでおこう。
なんか怖いから。
* * * * * *
時計を見れば、10時を過ぎ、もうそろそろ出かける時間が来る。
朝ごはんを食べ、シャワーを浴びて外出用の服へと着替える。
俺はあんまりオシャレへの興味がない故、服装もどこが単調になってしまう。
ダサくもないけど、決してオシャレとも言われないような。
まあ、実際それが一番良いのかもしれないな。
そうだ、なんでも普通が一番。
普通最高。シンプルイズベストってやつだな。あってるか?あってるよな。
そんな事を考えながら、俺は出かける準備をする。
そういえば、どこに行くとか聞いてなかったな。
まあ、ここら辺で出かける所と言えば限られているか。
「おや、二人とも。今日はデート?」
準備をしているうちに、いつの間にか香月の近くにいた俺たちを、ニヤニヤながら見つめる姉貴が言う。
「んなわけ……あるのか?」
この問いに答えるには、デートというものの定義について考える必要がありそう。
まあ、異性と遊ぶ事をデートと言うのだろうけど、ってことは今日の俺たちはデートをするって事になるわけで。
「まあ、世間一般的に見れば、デートなんじゃないですか?」
うーんと頭をひねる俺を尻目に、香月は姉貴に言う。
「ま。なんでも良いけど、んじゃ楽しんできてねー」
そう言って、手を振りながらリビングへと消えていく姉貴。
なんだろう。なんか腹立つな。
「よし、準備できたな。じゃあ、行くぞ」
俺の格好を見て、準備ができてると判断した香月が陽気なテンションで言ってくる。
香月も、もう既に着替えており、準備万端だ。
フードにウサ耳がついている黒色のパーカーを着て、頬には怪我もしてないはずなのにガーゼを付けている。
なんだろうな、こいつのファンションはどこか中二病が抜けてないような気がするな。
「それで、どこに行くの?」
俺は、当初から気になっていた事を聞く。
まあ、大まか予想はできているけど。
「ここらへんで、出かけるって言ったら……ねー、あそこしかないでしょ」
察してくれと言わんばかりに、香月は俺に言う。
そのセリフで、どこに行くのか分かってしまうのが、ここら辺の田舎さを象徴しているような気がする。
街並みはそこまで田舎じゃないんだけどなー。
田んぼとか畑とかないし。
「あー。ショッピングモールね」
俺は、曖昧にしていた目的地をちゃんと言葉にする。
最近、なにかとあそこに行っているような気がするな。
いや、そこまででもないか。
「そ。だから、ほら行くぞ」
そう言って、俺の背中を押す香月。
「はいはい。分かったから、押さないで」
活気のいい香月に押されながら、俺は靴を履く。
トントンと、その場で靴を整え、俺はドアを開ける。
すると、同時に向かいの家のドアも開く。
「「あ」」
中から出てきた人と、声が揃う。
というか、真彩だった。
「あんたもどっか出かけるの?」
靴を整えながら、俺に聞いてくる真彩。
「ま、まあ、そんな感じだ」
何故だろうか、今俺の後ろにいる香月を見せたら行けないような気がする。
俺の危機察知センサーに反応がある。
「何よ、なんか意味深な答え……」
だんだんと、真彩の視線が後ろに寄っていく。
「よーし、翔!行くぞ」
そう言って、元気100倍で言ってくる香月。
真彩の顔が、どんどんと暗くなる。
やばい、怖いよ。殺されるよ。
「あーまーや。これは、どういう事なのかな?」
一文字一文字に、殺意や憎悪やら、悪が持つ感情全てを込めてきて言った真彩に、俺は少しのけぞってしまう。
「ま、まあ、色々あったんだよ」
冷や汗をかきながら、俺はそれとなく誤魔化す。
「ふーん。色々ねー。どんなことがあったら、朝から女の子と一緒に家を出ていくのかな?」
目を見開いて、俺をギラッと睨んでくる真彩。
怖い。怖いよ真彩さん。なに、なんで女の子がそんな目をできるの?っていうか、香月に本性バレちゃいますよ?ってか、もう既にバレてそう。
「おや、誰かと思えば長谷川さんじゃないか」
俺の背中から、ヒョコッと顔を出して香月が言う。
「ってあれ、香月さん?なんで、香月さんとこいつが一緒に……」
「なんでって……僕今、翔の家に住んでるから」
瞬間。場が凍る。
うおおおおおおお、言ったよ?この人言っちゃったよ?それで案の定空気が凍ってるじゃないか。どんな冷凍庫よもり早い冷凍だったぞ。
「す、住んでる?それに、翔って呼んで……」
「ほら、さっさと行くぞ翔」
呆然と何かを呟く真彩を尻目に、香月は俺を連れて歩き出す。
「ちょっと待って!」
直後、真彩が俺らに向けて叫ぶ。
「なんだよ」
「私も一緒に行く!」
「「は?」」
俺と香月の声が、綺麗にハモる。
「行くって、お前もどっか行くんじゃないのか?」
「良い。別に、適当に散歩に行くだけだったから」
「まあ、僕は良いけど、翔は?」
「え、お前が良いなら、俺は良いけど」
それに、この状態の真彩を断ったら、めっちゃ残酷に殺されそう。
「それなら、私が一緒に行っても良いわね」
そう言って、俺たちの方へ歩み寄る真彩。
途端に、香月と一緒に歩き出す。
すれ違いざまの真彩の表情が、ざまあみろと言ってるような気がした。
「はは。これはまた……」
がっくりと項垂れる俺に構う暇なく、真彩と香月は話しながら進んでいく。
Stargazer 神村岳瑠 @tskt0808
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。Stargazerの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます