他薦と、レビュー御礼

 城の方に向かってしばらくは、まだ両側に商店や宿屋が続く。夕飯の煮炊きの時刻である。家々の煙突からは煙が立ち昇り、街路には肉を焼く音が漏れ、煮込み野菜の香りが鼻先をかすめる。

 その中で、一際甘く芳しい香りが漂ってきた。一行が、おや、と香りの出所である横の商店を見やると、入り口から店主が顔を出す。


「殿下に姫様、窓から見えたもので」


 店はパン屋であり、時たま王宮にも品を運ぶことがあった。料理長と腕自慢のためだ。


「ちょうど良かった。今、すごいのが焼けたのです。これ、すぐ召し上がって」


 差し出されたのは、格子模様が上についた丸いパンである。受け取った王女が促されてパンをちぎり口に運んだ。すると見る間に王女の顔が綻び、目を閉じて満足げに言う。


「ふっかふかで上のところは甘くてかりってしてて美味しい! こんなの初めて食べた!」

「気に入っていただけましたか。それはよかった。試行錯誤したのですよ。ある国で作られたパンで、メロンパンと言います。これを作ることがいかに大変で、いかに大事で、究極のこのパンを作るという理由とその後にもたらされるものといえば……」

「随分奥が深いのね!」

「この書を手本にしたのです」

 古川奏様「俺の脳内にメロンパン職人の魂が転生してきたんだが」

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054893815744/reviews/1177354054893956304


 パン屋の主人は満面の笑みを浮かべて話を続けた。

「菓子の方も頑張ろうと思っているのですよ。外国ではもう少しで女性が意中の男性にチョコレートを贈るという風習がありましてね。それも店で取り入れてみようかと」

「素敵! そんな習慣、シレアにはないもの。女の子にはすごくいい機会ね」


 年頃の王女は、その話にすぐに目を輝かせた。しかし、王女の感想に主人はいささか顔を曇らせる。


「それが、男性には辛いところもありまして……苦い思いをするのではと不安になるあまり、奇怪な行動をとる若者も出てしまうらしい」

「……あら……それは気の毒だわ」

「こんな話もありますよ。女性にチョコレートを貰えないというのは若者には屈辱的なのでしょうか。年寄りから見てしまうと、もう……ふふ、吹き出して…くく……しま」

 言葉の最後は笑いになってしまい、主人が何を言いたいのかよくわからない。先の料理本の下にあった書物をロスが取り上げて、王女に題名を示した。


 薮坂様「バレンタイン・カプリチオ」

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054893863721/reviews/1177354054893921427


「うーん、若い男の子の行動はよく分からないわ」

 王女は特に何もしていない若い下男をちらと一瞥してから(俺は違う! という非難の視線が返ってきた)、兄様も召し上がったら、と王女はカエルムにパンを渡そうとした。


 その時である。


 突如、物陰から見慣れない姿形のもの——齧歯類であることは間違いない——が敏捷に飛び出すや、王女の手からパンを奪い、信じられない速さで反対側の茂みの中へ入っていった。その手には何か、機械のようなものが握られているの確認された。


「あ、ちょっと!」

「待て姫様!」


 伸ばした王女の手を下男が止めた。


「あいつは関わらない方がいいです。外国からの報で、人語を解するようになった齧歯類が人間のところに現れ、とある人の一日を滅茶苦茶にしたとか……」

「人語を?」

「ええ、しかも機械まで操り、情報を世界中に拡散するという。それなのに憎めないのがまた危険だそうです」


 初耳の話に、カエルムが問うた。


「それはどこの情報か」

「これです」


 えーきち様「よろしく、齧歯類」

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054893726929/reviews/1177354054894001663


 下男から受け取った伝達にざっと目を通し、カエルムはそれをロスに回した。渡された紙を懐にしまうと、ロスは困惑を露わに述べる。


「もう困りましたね。結構な知らせが多いことで」

「シレアの面々は、どの官も城の者も皆、有能だから助かる」

「大臣は口うるさいけれど。あれがやってみたい、ってお願いしてもいつも却下されるのだもの」

「姫様の要望が酷いのではないですか?」

「そんなことないわよ。先日読んだ本のお嬢様は、もっと突飛で楽しいお願いをしていたけれど、非常に優れた執事がどんなものでも実行しようとしていたもの……ちょっと変わったやり方かもしれないけれど」

「それ、俺、読みました。姫様、あれはダメです。あんな面白い切り返しできる者はシレアにはおりません。その前にあの令嬢のような、あんな酷い無茶言わないでください」


 宇部松清様「アデレナお嬢様はやってみたい」

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054892995366/reviews/1177354054893982113


 下男は、流石にこっそり読んで大笑いしたとはいえず、諭すところだけさとしておいた。


 カエルムは騒がしい面々の中で一人、星が先ほどよりも輝きを強くした空を見上げた。天空の理に思いを巡らす。星が瞬いている光が自分たちのいる地上に届くまでの時間は如何程なのだろう。そもそも、時間は人にどれだけ与えられているのか。死はその終わりなのか、それとも終わりなどはなくて永久なのか。

 その永遠の時空の中で、ある一定の限定を知っていたら、自分たちは何をしたいと思うのか。


 途方もなくも見える思いを巡らす。天の星々を見ていると、無数の輝きの中で自分たちの存在が何か、考えさせられる。

 下男の持っていた書物の一覧にも、そのような思考を誘うものがあったはずだ。


 一式鍵さま「たとえば永久に」

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054892545705/reviews/1177354054893866543


 ***


 すみません、雑になってしまいましたが、おすすめ他薦! 

 新たにレビューを書いたコンテスト参加作品は大体紹介できたと思うのですが。


 自作へいただいたレビューも。ありがとうございます。大感動です。


 ゆうすけ様から。

「いつの世も変わらないもの。それは人智を超えたものの力かもしれない。」

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054891239087/reviews/1177354054894003942

 ゆうすけさんもおっしゃっていますが、わたしの「天空〜」は普通のファンタジーには括りにくいですね。自分でも「ファンタジー」と書く時に「?」と思います。作品世界の虜! この上ないお言葉です。

 旅行記のようなというご感想、とても嬉しいです。至らないところも多かったでしょうが、ゆうすけさん、読了もありがとうございます!


 如月芳美様から。

「人は標を求める」

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054891239087/reviews/1177354054893969624

 長文レビューいただきました。レビューそのものが高尚で考えさせられるもので、恐縮いたします。

 一気読みしてくださいまして。如月さんはコメントもたくさんくださったのですが、作者とのシンクロ率もすごい書き手さんでした。


 すみませんもう1時なのでそろそろ寝なくては明日が……。他薦、無理矢理感になってしまいましたが、僭越ながらわたしのレビューへのリンクを貼りました。

 魅力的な作品ばかりなので、ぜひぜひ。


 コンテスト期間終了まで間際。良い! と思った作品は、上へ登ってもらうためにも積極的にレビューを書きたいと思います。拙くても。 

 そして長編、去年より読めてるのですが……。やはりここまでも同時進行でたくさんはなかなかに追いかけられず。私がたくさんの方に読んでいただいたので、申し訳ない!

 そしてただいま、さらに完走作品数を足すのは難しいかも……。読み切れそうな短編は(どこまでできるかわかりませんが)、気になる作品、作者様のお邪魔したいと思います。


 それでは。(人気投票やってみたいのですが、そこまで書けなかった!)




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