第48話 G

 再開リスポーンポイントへと戻った、祐一、アンジェ、セルフィ、ユーリの四人。


「まさか即死するとは……。不甲斐ないメイドにお仕置を願いますマイロード」


 ユーリは路地裏の壁に手を付き、腰を突き出す。


「ユーリ、その個人的な性癖は後にして」


 ゴミを見る目で侍従を見る王女セルフィ


「とりあえず足裏が弱点なのはわかったので、次はいけますわ!」

「そ、そうですね。姉上のバリアで片方の弱点は潰せますけど、問題はもう片方ですよね。ユーリ、悪いけど囮になって踏み潰されてくれない? その隙にアタシと姉上で攻撃するから」

「姫様、誰かを生贄にしてゲームクリアを目指すのはどうかと……」

「クリアできたら多分桧山さん褒めてくれるよ」

「わかりました。適当な場所で寝転んでおきますので、その隙に攻撃して下さい」

「ありがと。手榴弾わたしておくから、助けるの間に合わなかったら踏まれた瞬間自爆してね」

「かしこまりました」

「メイドに爆弾持たせて、容赦なく死ねって言える王女様怖ぇよ」


 これが王の器かと戦慄する祐一。


「作戦が決まりましたわね。皆さん、わたくしの美しい背中に続きなさい! 打倒サイクロプスですわ!」


 わーっと走っていくアンジェ、セルフィ、ユーリ。

 楽しそうに攻略してて祐一はよかったよかったと頷く。

 ゲーム自体は彼女たちの言う通り、恐らく次でクリアするだろう。

 多少のアドバイスはしたものの、ポンコツたちでも一回全滅を経験するくらいでクリアできる、良いバランスだと思う。


「しかし、響風達どこいったんだ?」


 戦闘狂の妹と静かなるサイコパス委員長が、ゲーム途中にログアウトしてから音沙汰がない。

 首を傾げていると、祐一の目の前に電話マークのホロウインドウが出現ポップアップする。

 これはVRJOYハード本体に搭載インストールされた通話LINEアプリで、電脳世界没入ゲーム中にスマホが鳴っても対応できるように、アカウントを紐付けしてある。

 しかし通話に出るにはゲームを一時停止しなくてはならず、急用でもない限りいつもは後で対応していた。


「誰だ?」


 呼び出しIDを見ると、なぜかそこに映っているのは響風のものだった。


「なんだ? なんであいつLINEで電話かけてきてんだ?」


 不審に思い通話に出ると、悲壮感の漂う声が聞こえてきた。


『……兄者やばい』

「どうした?」

『Gが出た』

ギガントモンスターボスか? 俺たちも今第3セクターに入ってやりあってるところだが」

『いや、そのGじゃなくて……』


 ボソボソと言う響風にかわり、いろはの声が聞こえる。


『チャバネGが配信部屋に出たの』

「…………ゴキの話かよ」

『たまたまトイレ行くからログアウトしたんだけど、その時見つけちゃって』

「お前Gくらいで……。ってか委員長ならスリッパでパーンできるだろ」

『私だって女なんだから、Gアレは嫌いよ。あっ……ちょっ! 出てきた!』

『ギャアアアアアアアアアア(←響風の悲鳴)』

『Gが王女のスカートに入っていったわ! もう王女にパーンするしかないわ!』

「待て委員長、王女にパーンはまずい! 下手すると外交問題になるぞ!」


 祐一の頭にVステゲーム実況者、アルテミス王国王女をスリッパでパーンし国際問題へ。と不吉なネットニュースが頭に浮かぶ。


「そんなツッコミどころの多い記事を作らせてたまるか」

『ギャアアアアアアアアアア! 飛んだああああああああああ!! 兄者ガードーー!!』

「お前俺の体で何やってんだよ!?」


 どうやら響風は、現実世界で動けない祐一を盾にしているらしい。


『(パーンパーン!) 当たらない! あっ、奴またスカートの中に隠れたわ!』

『兄者ああああああああああああ!! 早くパーンしに帰ってきてえええええ!!』


 リアルが阿鼻叫喚になっていることを察っした祐一は、すぐさまゲーム画面へと戻り、三人に伝える。


「お前たちに教えることはもう何もない! 俺はちょっとパーンする用ができたからログアウトする!」

「あっ、それじゃあアタシ達も一旦休憩にします?」

「そうですわね。紅茶でも淹れてから……」

「用意しとくからもう一回ボスと戦ってきてくれ!」


 祐一は時間稼ぎの言葉を残すと、ゲームをログアウトしていく。


「どうかされたのかしら?」

「さぁ? パーンってなんでしょうね?」

「恐らくマイロードは我々の力を認め、自分たちの力でやってみろと言っているのでしょう」

「なるほど、さすが祐一さん深いですわ」


 ポンコツ共の深読みのおかげで時間稼ぎは成功。

 その後祐一はリアルに戻ると、目隠しして王女のスカート内に入ったGをパーンしたのだった。



 数日後――


「ぐっ、浦鉄99年耐久がこれほどきついものだとは……」


 配信部屋から這いずりゾンビ状態で姿を現すセルフィ。

 セーフハウスの洗礼を受けて、グロッキー状態になっていた。

 階下からは朝食の香りが漂い、ゲーム内で醜い貧乏神のなすりつけ合いをしていた荒んだ心に染みる。


「全員飯だ、降りてこい」


 祐一の声が響き、ぞろぞろと這いずりゾンビが出てくる。

 食卓には湯気を上げる山盛りご飯と海苔、豆腐とわかめの味噌汁、真っ赤な焼き鮭、ふっくら卵焼きが並ぶ。

 味噌汁のカツオと昆布の合わせ出汁の香りが漂い、胃袋が飯の時間だあああ! と騒ぎ出す。


「あぁ……美味しそう……。毎日アタシ達の分まで美味しいご飯ありがとうございます」

「いや、むしろこんな家庭食で申し訳ない」

「いえいえそんな。この数日、食べ過ぎで太った気がします」

「兄者が作るのはなんでも美味い」

「で、なんでこいつは拗ねてるんだ?」


 祐一はメイド服姿で膝を抱えているユーリを指差す。


「一応ユーリも料理得意なんですけどね。完敗だそうです」

「マイロードより料理が下手なメイドなど、生きる価値がありません……無能としか言いようがなく動く産業廃棄物でしょう」

「今に始まったことじゃねぇだろ」


 祐一がトドメを刺すと、ユーリは「あぁぁ、マイロードわたしをもっと口汚く罵って下さい♡」と恍惚とした声を上げる。

 この数日でユーリは性癖に磨きがかかっていた。


「ただアタシも正直、桧山さんからこの料理が錬成されるのはなんとなく腑に落ちない感じです」


 苦笑いするセルフィ。


「兄者は悪人面以外ハイスペックだからな」

「あんだとコラァ!」


 祐一は響風の頭を両拳でグリグリと締め上げる。


「褒めてる! 褒めてるのに!」

「それなら素直に兄者の料理美味いだけでいいじゃろがい!」

「素直に褒められない乙女心だろ!」

「お前が乙女心とか片腹痛いわ! 寝癖くらい直してこい!」


 その様子をじっと眺めている王女。


「ほら兄者がうるさいから、王女ビビっちゃってる」

「すまん、完全に平常時のノリだった」

「いえ、そういうわけでは決して。ただ騒がしい食卓って良いなって思っただけですので」

「うるさいだけだぞ」

「それがいいんですよ……兄妹、尊い、無理、好きって感じです」

「よくわからん」

「なんか王女様も変な日本語覚えていってるよね」


 祐一たちが首を傾げていると、玄関から誰かが入ってくる音が聞こえる。

 インターホンも無しに入ってきたのは、無敵の生徒会長レオ・ブルーローズだった。

 ここ最近家で用事が多いらしく、あまりセーフハウスに戻ってこれていなかったが、朝だけは皆と時間を合わせ朝食を囲っていた。

 全員が食卓について朝食を食べ始めると、祐一は顔色の冴えないレオを見やる。


「会長大丈夫か? 具合悪そうだが」

「大丈夫だ。最近会談が立て込んでいて、王女を任せっきりですまんな」

「こっちはゲームしてるだけだから全然構わんが。そんなに忙しいのか?」

「招かれざる来客が来たりと、ここしばらく面倒なことに巻き込まれている」

「大変そうだな……あれ? アンジェは来客対応とかしないのか?」

「フフッ、わたくしがいると仕事が増えるから、大体来客が来るときはわたくし外に放り出されますの」

「酷いけど、会長が賢い」


 全員が朝食を終えると、レオは「少し話がある」と言って、祐一を地下プールへと呼び出した。


「どうしたんだ会長? まさかこの時間から泳ぐのか?」

「セルフィのことだが、彼女の滞在期限が迫っている」

「あぁ、もうそんなになるのか。じゃあお別れパーティーで何かゲーム大会を……」


 盛大にやろうと言うが、レオは小さく首を振る。


「それが少しまずいことになっていてな。彼女の姉がとある組織に襲われた」

「姉って、次期王女候補の?」

「そうだ。命に別状はなかったが、アルテミスは警戒を強め、日本に配置されているブルーローズの人員も警護に回っている」

「そういやここ最近、家の周りにいる黒服が少ないと思ってたんだ」

「人員がとられていて、日本は若干手薄になっている」

「そうなのか、犯人捕まりそうか?」

「絶対に捕まらん」

「絶対? 珍しいな」

「ああ、正確には捕まえられん。諜報の話によると、姉を襲ったのは99%兄のグランツで確定している」

「兄が身内を襲ったのか?」

「そういうことだ。前々からかなり怪しい挙動はあったが、今回初めて荒事に出た。一応まだこのことはセルフィには伏せられている」

「ショックを受けるだろうしな。そんな状態で王女様帰すのはまずいだろ」

「こちらもそれを危惧している。最悪、彼女にも危害が及ぶだろう。まぁ日本にいるのも絶対安全とは言い切れんがな」

「…………」

「今後の彼女の身柄についてはブルーローズと、アルテミスのごく一部の関係者で協議している。帰国させるかはまだはっきりしていない」

「王女様こんなところに置いておいて大丈夫か? 日本も安全じゃないならブルーローズの家に移動させたほうがよくないか?」

「いや、ここは逆に良い隠れ蓑になっている。向こうは王女の行方を探しているようだが、まだここは掴めていない」

「そうか。王女様はもう外に出さないほうが良いか?」

「変装させれば構わん。逆に押し込めてセルフィに勘付かれると、帰国すると言い出すかもしれん」

「そりゃまずいな。確かに姉のことが気になって、そう言う可能性は高そうだ」

「私はまた度々留守にすると思うが、しばらくセルフィを頼む」

「わかった」


 二人が地下から出ると、響風と楽しげに満天堂swiitのリングエクササイズアドベンチャーで遊んでいるセルフィが目に入る。


「「ん~ビクトリ~!」」


 リングコントローラーを天井にかざす、響風とセルフィ。

 守りたいこの笑顔。


「こんな可愛い妹を傷つけようとするとは、許せん兄だな」

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ヤンキーゲーム実況者はお嬢様のゲーム教師にされました ありんす @alince

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