蚊帳の外でも
同じ
しかしそうして向き合う二人の間に現れたのは、魔大陸に君臨する怪物達の王、【覇王竜】ファフナーと【魔獣王】フェンリルだった。
二匹は巨大な姿を人間大陸に現し、多くの
その光景は同じ聖域付近で退避していた
『――……なに、あのデカいの……!?』
「あの黒い鱗、それにあの巨体……。……まさか、ファフナーか?」
『……それ、どっかで聞いた事あるかも。なんだっけ?』
「【
『あっちには、大きな狼も見えるよ。銀色の』
「大きな
『フェンリル? それもなんか聞いた事あるかも』
「【
『……あっ、思い出した!
「そう。世界三大魔獣の内、『
そうして驚愕するバルディオスの傍では、妖狐族クビアが回復用の魔符術で負傷者している三人の手当を続けていた。
しかも【
「フェンリルってぇ、マジなのぉ……!?」
「ん? ……そういえば、
「そうよぉ! だから
「……どちらにしろ、アレに気付かれん方が良いじゃろうな。マギルス、
『はーい!』
そして
すると機体を覆っていた
「――……みんなの怪我、どう?」
「三人はぁ、とりあえずは治りそうだけどぉ。……やっぱり問題はぁ、
「……お母さん……っ」
クビアに対してそう問い掛けたマギルスは、バルディオスの腕から降ろされたリエスティアとその傍に付き添うシエスティナが目に入る。
【
しかし魔力を受け付けないリエスティアには、同じ魔符術の治癒が施せない。
それでも『黒』の肉体を持って大人となり聖人に達しているリエスティアは、辛うじて生き永らえていた。
そうした四人の中で、最初に瞼を開く者がいる。
それは最も負傷と疲労の少なく、『生命の火』を纏い
「――……ぅ………っ」
「ケイルお姉さん!」
「……マギルス……? ……ア、アイツは……ッ!?」
目覚めたケイルは朧気だった意識を覚醒させ、自分達が陥った状況を思い出す。
そして上体を起こしながら周囲を見て、自身の身体に張られた幾つかの紙札と、その傍に倒れるアルトリア達を見た。
それにマギルスは、微妙な面持ちで応える。
「お姉さん達の代わり、エリクおじさんが戦ってたんだけど。……ちょっと、色んな事が起きてるみたい」
「エリクが……。……コイツ等は、無事なのか……!?」
「アリアお姉さんも、そっちの
「……!」
応えているマギルスは視線を動かし、ケイルもそれを追うように顔を動かす。
するとその先で横にされているリエスティアの姿を確認し、クビアの紙札が施されず治癒がされていない様子を見ると、その状況を理解しながら言葉を向けた。
「そういや、魔力が効かないんだったな。……クビアの
「うん。……どうしよう」
「……どうしようっつったって、どうしようも……」
「――……ケイル……」
「……アリア!」
重傷のリエスティアに対して治癒の施しようがない状況に、その場の全員が表情を悩ませる。
そうした最中、上体を起こしたケイルの横から呼び声が掛かった。
それは瞼を開き目覚めたアルトリアの声であり、横になったまま顔と視線を向けている。
すると
「……ケイル。貴方の持ってる、
「!」
「貴方の
「
「それと似た方法で、私もリエスティアを治した事がある。だから、貴方にもできるはず……」
「……やるしかないか」
ケイルは表情を渋らせながらもそれに応じ、腕と足に力を込めながら
するとその傍で不安気な表情を浮かべるシエスティナは、ケイルに問い掛けた。
「お母さん、治る?」
「……さぁな。……まぁ、精一杯……やってみるさ……!」
確約はせずとも懸命に行う事を告げるケイルは、全身に
そして高めた
『
本来は自身の肉体を回復させ傷や疲労を癒す
しかし魔力を用いた回復魔法や治癒魔法とは違い、自分の
自身の
それでもケイルとリエスティアには、『
ケイルもその言葉を信じ、『
そして額から血と別に流れる汗を滴らせ、大量の
すると十数秒後、その効果は
メディアによって受けた左肩の
それを見たマギルスとシエスティナは、喜ぶ様子を見せて顔を向け合う。
「お母さん、治ってる!」
「治ってるね! ケイルお姉さん、凄いじゃん!」
「お姉ちゃん、凄い!」
「話し掛けんな、気が散る……!」
喜ぶ二人に対して
そうした傍らで両腕を支えに上体を起こすアルトリアは、傍に座るクビアに問い掛けた。
「……今、どうなってんの……?」
「よく分かんないけどぉ、貴方の相棒が戦ってるみたい……だったんだけどぉ……」
「……?」
「なんかぁ、フェンリルとかファフナーとかぁ、かなりヤバそうな
「……フェンリルとファフナーって……。……魔大陸に居るっていう、伝説の怪物じゃないのよ。どうなってんのよ?」
「だからぁ、私も知らないわよぉ。……ちょ、ちょっとぉ! まだ立っちゃ駄目よぉ!」
「……エリクが、戦ってるなら……私も……っ!!」
まだ癒し終えていない身体のまま立ち上がろうとするアルトリアだったが、胸に響く痛みによって膝を崩し倒れ掛ける。
それを両腕と身体で支えるクビアは、溜息を漏らしながら横に戻して留めた。
「その身体で行ってもぉ、邪魔になるだけよぉ。……それにもぉ、私達なんかじゃ立ち入れない
「……っ」
「今はともかくぅ、待ちましょうよぉ。……それでもどうしようもなかったらぁ……」
「……なかったら?」
「足掻くか逃げるかぁ、どっちかにすればいいわぁ。まぁ、私は逃げるけどねぇ」
「……ふっ、そうね……」
割り切るようにそう話すクビアに、アルトリアは嘆息を漏らしながらもその言葉を受け入れる。
そして瞼を閉じながら意識を集中し、亀裂が走り傷付き過ぎた自身の魂へ意識を向け、それを補強する為に精神を集中しながら周囲の魔力を呼吸で取り込み始めた。
こうして更なる異常事態に対して、それぞれが自分の出来る事を進め続ける。
しかしそうした思いとは裏腹に、新たに現れた二匹は自身の目的を遂げる為に動き出そうとしていた。
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