死闘の執念
激しくも短い二人の戦いは
その決着から時間は僅かに遡り、神殿内部の
『――……お待たせ』
『!?』
『アリアッ!!』
『……ケ、ケイル……』
『ケイルさん、お願いね。じゃ、私は
『!!』
目の前に現れた『黒』と服や髪を乱したアルトリアの姿を見たケイルは、そのまま走り寄る。
そして肩を貸すケイルにアルトリアを預けた『黒』は、メディアの相手をする為に姿を消した。
呼び止める間も無く去った『黒』を他所に、ケイルは口から血を垂らすアルトリアに呼び掛ける。
『おいっ、大丈夫なのかよ?』
『……ちょっと、無理し過ぎたわ……』
『当たり前だろ。ったく、勝手に一人で突っ走りやがって』
『しょうがない、でしょ……。……でも、なんでリエスティアが……?』
『アタシもよく分からねぇよ。でも状態的には一時的なモンで、外の戦いが終わったら元に戻るらしい』
『外……。……そうだ、エリク……!!』
『
そして貸されている肩から離れようとすると、それを引き寄せ留めながらケイルが強い口調で呼び止めた。
『待てって。……
『はぁ……!?』
『止めても意味が無いってよ。
『……ッ』
『そんで、もう一つ。――……止めるんじゃなくて、エリクを応援してやれってよ』
『!』
『お前の姿と声を聞けば、
愚痴を零しながらも『黒』に伝言を頼まれたケイルは、それを伝える。
するとアルトリアは渋る表情を強めながらも僅かに顔を伏せ、落ち着く為に一呼吸を漏らしながら顔を上げた。
『……分かったわよ。……なら、行きましょう』
『ああ。――……クビア。お前は
『言われなくてもぉ、あんな
傍に控えるクビアはそう述べ、その
それにケイルは頷き、肩を貸していたアルトリアをそのまま背負った。
するとそんな三人の傍に居るシエスティナは、不安気な表情を見せながら光の渦を見ている。
それに気付きケイルは気付くと、その心境を察しながら声を向けた。
『
『……お母さん、大丈夫?』
『ああ、
『……うん』
それを振り払いながら走り始めたケイルは、背負うアルトリアと共に神殿の外へ向かった。
その途中で閉まる入り口の大扉へ視線を向けると、アルトリアに声を向ける。
『おいっ、お前の
『……扉の前になったら、止まって。操作してみるから』
『分かった』
荒い息を零すアルトリアは辛うじて意識を保ち、そう伝える。
そして凄まじい速力で十秒も経たずに辿り着いたケイルは立ち止まり、それに反応したアルトリアは右手を真横に
すると二人の真横に一つの
しかし次の瞬間、アルトリアは胸部に凄まじい痛みを感じ、急な咳き込みと僅かな吐血を見せた。
『ゴホッ!! ガハ……ッ!!』
『おいっ、どうしたっ!?』
『……私の
『お前、それ……。……まさか、
『……まだ、大丈夫……。……
咳き込みながら口から顎下に血を滴らせるアルトリアは、魂に及ぶ
そして必要な情報を入力し終えると、
ケイルは渋い表情を強めながらも開いた大扉を見据え、熱風にも似た
そして大扉の外へ出ると、両腕で挟むアルトリアの両脚をしっかりと固定し、注意を呼び掛けた。
『しっかり掴まってろよっ!!』
『……ッ!!』
その言葉に応じるアルトリアは、両腕をしっかりとケイルの首を通して
すると走り続けるケイルは、下まで続く長い大階段を飛び降りるように駆け下り始めた。
凄まじい速度ながらも正確に足場へ両足を着けながら加速し、二十秒にも満たぬ時間で
更に足を止めることなく走り続け、凄まじい
それから二人は、エリクとログウェルが殴り合う姿が見える場所まで辿り着く。
そして背から降ろし左肩を貸しながら立たせたアルトリアに、ケイルは呼び掛けた。
『アリア!』
『……ケイル。私が
『は?』
『私じゃ、やっぱりダメよ。……私は、
『お前、まだそんなこと……!』
『私は、違うのよ。……私の声じゃ、
二人の
そうした弱音にも似た自虐を漏らすにケイルは苛立ちの表情を強めながら、右手で
『お前、いい加減にしろよっ!!』
『!』
『昔がどうとか、今は違うとか、そんなのは関係ねぇっ!! お前はどうしたいんだっ!?』
『……私は……』
『エリクはな、昔だろうが未来だろうがそんなの関係ねぇんだよ!
『……!!』
『だったら、今のお前がそれに
ケイルはそう怒鳴ると、胸倉を掴む右手を離しながら鋭い眼光を向ける。
それを言われたアルトリアは僅かに頭を下げた後、一息を漏らしながら顔を上げて表情を引き締めながら口元を微笑ませて呟いた。
『……相変わらず、説教だけは上手いわね』
『あぁ? ――……!!』
『!?』
小言を零すアルトリアに対してケイルが悪態を漏らそうとした瞬間、その視界に収めていた
ログウェルの殴打に対して反応が遅れたエリクは、そのまま防御も反撃も出来ずに一方的に打たれ始めた。
それを見たケイルは、隣のアルトリアに強い口調で呼び掛ける。
『アリアッ!!』
『分かってるわよ、やればいいんでしょっ!! ――……エリクッ!!』
『――……!』
『エリク、必ず
痛みを堪えながら振り絞るように発したアルトリアの声は魔法によって
そしてその声が届くと同時に、エリクは上体を起こし前へ踏み込みながらログウェルへの反撃を開始した。
二秒にも満たない衝突によって二人の両拳は、両腕と共に破壊され折れ砕ける。
それでも止まらない二人は頭突きを衝突させながら血を溢れさせると、エリクの喉元を狙ったログウェルの脚撃が跳ね上がった。
しかしエリクはそれを口で掴み止めながら噛み止め、ログウェルを大きく
それに合わせて身を沈めて屈んだエリクは、凄まじい
その直後、二人は動かぬまま地面へ落下する。
そして瓦礫と化した周囲の
それを見た二人は言葉も無く、示し合わせたように再びケイルはアルトリアを背負う。
そして座るエリクへ駆け寄ったケイルは、アルトリアを背から降ろしながら声を向けた。
「――……エリク!」
「……ケイル……アリア……。……ッ」
「おいっ!!」
呼び掛ける二人の声を聞いたエリクは、そのまま起こしていた上体を地面へ傾ける。
それを支えるようにケイルは屈みながら傍に駆け寄り、倒れそうなエリクの
そして見るからに瀕死となっているエリクに対して、ケイルはアリアへ呼び掛ける。
「アリア、
「……やってみるけど……多分、無理よ」
「
辛うじて瞼を開きながらも朦朧としている瀕死のエリクを、二人は回復しようとする。
そんな彼等から離れた位置に、滞空していた
そして開いた
「――……ログウェルッ!!」
エリクの容態を心配するアルトリア達と違い、倒れ伏すログウェルの安否をユグナリスは懸念して名前を呼ぶ。
その声がログウェルに届いたのか、壊れた右手の指を微かに動かした。
すると次の瞬間、地面に突っ伏していたログウェルの顔が緩やかに動き始める。
そして微かに除き見えるその瞳が、エリクを見ながら声を発させた。
「――……まだ、じゃよ……」
「!!」
「コイツ……!?」
「まだ、儂は……死んでおらんぞ……。……傭兵、エリク……」
「……ッ!!」
両腕と噛み持たれた右脚は折れ曲がり、背骨がほぼ全て砕かれた状態にありながらも、ログウェルは意識を戻して
そして無事な部分と砕かれた両腕と左足を這うように動かし、エリクの方へ進み始めた。
こうして二人の戦いは、再び望まれた決着へ進もうとする。
その周囲に居る者達は表情を強張らせ、互いにそれぞれの対応を見せようとしていた。
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