勝利の女神
『
その圧倒的な
しかし世界の存亡については、
それは大陸の中央にて衝突し、その衝撃によって周囲を破壊しながら殴り合う老騎士ログウェルと傭兵エリクだった。
「――……ゴッ!!」
「ガッ!!」
二人の右拳が
それでも浮き上がった両足を割れ砕ける地面に踏み締めると、互いに首と顔を
こうした退かず避けずの殴り合いが数分以上に渡り続いており、二人の周囲には千切れた皮膚や砕けた歯と共に流血が撒き散らされている。
その拳や
二人の激闘を最も近くに居るのは、
更にその内部に在る
「――……もう、どれぐらい殴り合ってるんだ……」
「
ユグナリスとバルディオスは映像で見る二人の戦いを捉えながら、その勝敗の行方を見守り続けている。
すると
「……おじさん、マズいかも」
「!」
マギルスはそう口にすると、他の二人もエリクを凝視する。
すると
「こ、これは……」
「まさか、鬼神様の
「……おじさん……っ」
顔や肉体を覆う赤い皮膚が徐々に崩れて剥がれ落ち、エリク自身の顔が徐々に浮彫となっていく。
対するログウェルも血だらけながら動きが衰える様子は無く、拳や肉体に纏う『生命の風』がエリクの
そして数秒後、違いの交差した
エリクの放った右拳を纏う赤い皮膚が完全に崩れ落ちながら態勢を戻すのが遅れ、それより先に振り戻ったログウェルの左拳が相手の
「オォオッ!!」
「ガ、ハ……ッ!?」
「おい、マズいぞっ!!」
「押し負けたっ!?」
初めてエリクの
しかも態勢を立て直せないエリクにログウェルは容赦の無い拳と蹴りを放ち当て、その場に踏み止まっていた二人はログウェルが殴り勝ちすることで位置を動かし始めた。
凄まじい速さで顔面や肉体全てを殴打されるエリクは血飛沫を撒き散らしながら身体を浮かせ、その場に踏み止まれなくなる。
それと同時に肉体にも纏わせている赤い皮膚が更に崩れ落ち、エリクは反撃や防御すら出来なくなっていた。
そんなエリクに対して、容赦せず打ち込み続けるログウェルは怒鳴りを向ける。
「どうしたっ!! それがお前さんの限界かっ!!」
「ガ、グァアッ!!」
「お前さんの
叫び怒鳴るログウェルは成す術なく殴られるエリクに対して、更なる
しかしウォーリスと殴り合った時と同等以上に
そして次の瞬間、ログウェルの下顎を貫く
エリクは真上に首を伸ばしながら顔を仰け反らせた瞬間、白目を見せながら意識が薄れた。
「――……」
その時のエリクに視えたのは、自分が生きた四十年余りの
今まで彼が経験した様々な
そうした
『――……どうした、その程度かよっ!!』
『……っ!!』
『その程度の根性で、俺に勝てると思うなよッ!!』
それはエリクが経験した、鬼神フォウルとの殴り合い。
今現在の状況と似たような殴り合いを
まだ聖人として覚醒してから間もない時期であり、
そんな不完全な実力のまま鬼神フォウルと殴り合うという経験をしたエリクは、精神内部の地面へ膝を着きながら倒れていた。
『ハァ……ハァ……ッ』
『立て、根性無し。そんくらいでヘバるんじゃねぇよ』
『……少し、休ませてくれ……っ』
『あぁ? まだ
『っ!!』
容赦の無いフォウルは、そのまま凄まじい勢いで疲弊するエリクの顔面に凄まじい蹴りを放つ。
それを辛うじて回避しながら身体を転がして上体を起こすエリクは、膝を立たせながらフォウルと向かい合った。
そんなエリクに対して、フォウルは厳しい視線を向けながら言い放つ。
『テメェ、
『……お前には、勝ちたい』
『だったら、もっとやる気だせ!』
『……だが、お前と戦っていると……分からなくなる……』
『ああ?』
『俺が、目指すべきモノは何なのか。それが、分からなくなってくる……』
『……?』
『俺は、アリアを守りたい。だが守る為には、もっと
『そんなの、当たり前だろうが』
『なら俺は、どこまで強くなればいい? ……いったい、どれだけ強くなればいいんだ……』
様々な戦いを経験し
すると
『そんなん知るかっ!!』
『!?』
『どんだけ強くなればいいかだと? そんなのは、俺より強くなってから言いやがれ! この
『……ッ』
『テメェなんざ、この世界の中じゃ
『……お前は……』
『あ?』
『お前は、どうしてそんなに強くなれたんだ? ……どうしたら、俺は……お前のように強くなれる……?』
怒鳴るフォウルの言葉を聞いたエリクは、思わずそう尋ねる。
すると苛立ちの表情を僅かに引かせたフォウルは、鋭い眼光を向けながら真剣な言葉を口にした。
『決まってんだろ。強くなけりゃ、殺されるからだ』
『!』
『この世界は弱肉強食。弱い奴が強い奴に喰われる。どの世界でも、それは変わらねぇ』
『……だからお前は、強くなれたのか?』
『当たり前だ。強くなりてぇと思っただけで強くなれたら、誰も喰われたりしねぇんだよ。……第一、テメェと俺とでは根本的に違う』
『違う?』
『強くなる理由だ。
『……ッ』
『だから、俺とテメェは違う。……テメェはテメェで、勝手に強くなって戦う理由を見つけやがれ。――……ほら、休憩は終わりだ!
『っ!!』
それから精神内部で行われる
その時から自分が強くなる為の理由を探し続けていたエリクは、ログウェルとの
その
しかし次の瞬間、意識が
「――……エリクッ!!」
「……!」
その呼び掛ける声で意識を戻したエリクは、声が聞こえた方へ視線を動かす。
するとかなり離れた位置ながらも、ある人物達の姿が見えた。
そこに居たのは、ケイルに肩を貸されているアルトリアの二人。
そして倒れそうになるエリクに対して、アルトリアは魔法を用いた拡声で精一杯の声を届かせた。
「エリク、必ず
「――……ォオオオッ!!」
アルトリアが届けた
それと同時に左足を下げながら地面を踏み噛み、上体を大きく前へ傾けて倒れるのを防いだ。
それと同時に向かって来るログウェルの左拳を右顔面で受け止め、血塗れだった右拳が黒く変色しながら相手の顔面に浴びせる。
その
「ォオオオッ!!」
「そう――……来なくてはなっ!!」
吹き飛ばされたログウェルは鬼気迫る笑みを浮かべ、右足を軸に踏み止まりながら右拳を振り向ける。
そして黒に変色したエリクの右拳が同時に放たれ軌道で重なり、互いの拳が激しい衝突を起こした。
二人の拳は血を吹き出し皮膚を裂きながら砕け、右腕の骨ごと折れ砕ける。
それでも二人は怯まず踏み込み、今度は逆の左拳を振り抜き衝突させた。
「グヌゥッ!!」
「ォオオッ!!」
またしても黒に変色したエリクの左拳とログウェルの左拳は粉砕され、腕ごと折れ砕ける。
それでも更に一歩踏み込んだ二人は、互いに頭を振り抜きながら頭突きを衝突させた。
すると二人の額が裂けながら血を溢れさせ、大きく首を仰け反らせる。
それでも踏み止まるログウェルは血の掛かった両目を開いたまま、エリクの首を刈り取るように右脚の
それに反応するエリクは、迫る
するとその
「なにっ!?」
「グォオオオオッ!!」
両腕で防御できず
そして噛み止めた
それと同時に両膝を僅かに静めたエリクは、その場で凄まじい
姿勢を崩し背中を晒したままでいるログウェルの真下から、凄まじい勢いでエリクの巨体が突っ込んで来た。
「ヌゥッ!!」
「オォオオ――……ッ!!」
「……ゴ、ぁ……ッ!!」
次の瞬間、跳躍したエリクの頭突きがログウェルの背中に激突する。
それと同時にログウェルの背骨が砕け、その口から息と共に血を溢れさせた。
そしてそのまま二人は破壊された地面へ落下し、瓦礫から舞う土埃に姿が隠れる。
しかし数秒後、その激闘によって放たれていた
「――……はぁ……はぁ……っ!!」
立ったのはエリクであり、荒い息を零しながら全身を血塗れにさせたままで視線を下ろす。
その先には地面に倒れたままのログウェルが存在し、立ち上がる様子が見えなかった。
そんなログウェルに対して、エリクは意識を朦朧とさせながら告げる。
「……俺の、勝ちだ……っ!!」
立ち上がれず動けないログウェルに対して エリクは自らの勝利を宣言する。
そして顔を沈めながらその場で尻を地面に着け、その場に座り込んだ。
こうして
その勝敗を分けたのは、勝つ為の理由をエリクに与えた
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