二つの信仰
老騎士ログウェルとの生死を賭けた対峙によって急激な成長を見せるエリクは、一方的な防戦から徐々に反撃を始める。
それに対してログウェル自身も歓喜を高め、更にエリクを追い詰め成長させるように接戦を繰り広げていた。
そうした一方で、マナの
しかしその理由は、メディアが投影させているログウェル達の
「――……おっ、ようやく戦いらしくなってきたみたいだね」
「……嫌味のつもり……!?」
「ん? あぁ、違う違う。
「……ッ!!」
微笑みながら映像を見ているメディアに対して、その先で倒れているアルトリアと話を向ける。
圧倒的な実力差を誇る
ただ
そんな
更にそれをメディアへ浴びせ放つも、
しかしメディア本人はそれを気にすらしなくなり、映像越しに見るログウェル達の戦いに注目している。
それを見たアルトリアは再び苦々しい表情を深めると、何かを思い付く様子をメディアは見せた。
「く……っ」
「あっ、そうだ。どうせだったらこの
「!」
「自分達の命運を決める戦いでもあるんだから。地上の皆にも、視る権利くらいは認めてあげよう」
メディアはそうした言葉を見せ、自身の
そして一定の操作をした後、それと連動するように地上の人々にメディア達以外のもう一つの映像が投影された。
それは今まさに衝突している二人の
『――……やぁ、皆にも視えてるかな? 二人の戦い』
「!」
『天気、晴れて良かったね。
「な……っ!?」
『あの
「……!!」
『コレは魔法師の皆には常識だから、傍に居るなら対処法を聞いてみるといいよ。――……さて、皆に見せてるもう一つの映像だけど。この二人の中で、
「っ!?」
『逆に
地上の人々は先程まで浴びていた
更にもう一つの映像に映し出された二人の戦いが、自分達の命運すらも賭けた
大多数の者達にとって、その二人は見ず知らずの他人でしかない。
しかし
「――……今度はコレ、団長じゃないか……!?」
「えっ!?」
「……速く動いてて、顔がよく視えねぇけど……
「そして団長と戦ってるのが、あの
「あの爺さん、敵側だったってことかよ!?」
「じゃあ、最初から俺達も……いや、帝国の連中も騙してたってことなのかよ……」
ベルグリンド共和王国の
それに動揺し慌てる様子を見せる団員達に、椅子に腰掛けながら映像を凝視する副団長ワーグナーが怒声を向けた。
「お前等、少し黙れっ!!」
「!?」
「……エリクが言ってたのは、こういう
「ふ、副団長……」
「それより、さっきの話を聞いたろ。この
「!」
「お前等そういう連中を探して、医者がいる
「は、はい!」
今自分達が出来る事を真っ先に考えるワーグナーは、副団長として団員達に指示を飛ばす。
それを聞きあまりの事態に動揺ばかりしていた団員達もやるべき事を見出し、急いで班別けしながら王都内の状況を確認に向かった。
それを見送る形となった中で、ワーグナーとその傍に座るマチスは会話を始める。
「マチス、エリクはあの爺さんに勝てるか?」
「……俺からすれば、どっちも化物みたいに強いからな……。……でも、まだ
「そうか。……エリク、負けんじゃねぇぞ……っ」
映像越しに常人では追えぬ程の速度で剣戟を交え合う二人を見て、ワーグナーとマチスはそうした言葉を見せる。
そして
一方その頃、ガルミッシュ帝国領の北方部分に位置する港町付近にて、多くの者達が集まりながら付近の街まで移動している様子が見える。
それは大津波によって被害を齎された住民達であり、住んでいた港町を喪失し最寄りの街に避難しようとしていた。
そんな彼等を率いているのは、帝国兵達と共に扇動しているある傭兵団。
十数人と少数ながらも避難民達を守りながら同行しているのは、背に
「――……あと一時間もしたら
「は、はい」
スネイクと彼が率いる『
しかも団長であるスネイク自身は、その背中に
そして代わるように背負われている老人は、スネイクに感謝の言葉を述べた。
「……すいません。医者である私が、御世話になってしまうとは……」
「魔力中毒なんだろ? なら仕方ねぇさ。あの
「はい……。……貴方は、平気なのですか?」
「生憎と、
「そうですか……」
背負われている老人は港町から避難していたマウル医師であり、先程まで起こっていた暴風に晒されたことで魔力中毒へ陥る。
辛うじて意識を保ちながらも、魔力適正が無い為に自力では立ち上がれないほど衰弱していた。
避難民の中には
そうした者達を率いて避難する中、スネイクは遠く離れた海側を見ながら呟いた。
「それにしても、出航するって時にこんな
「――……スネイク団長。この人等を連れて行った後は、どうします?」
「そうだなぁ。……俺が
「分かりました」
スネイクと隣を歩く団員はそう話し、自分達の今後について話す。
ローゼン公セルジアスの依頼によって四大国家の同盟に属さない小国群に海路で移動しようとしていた『
しかしスネイクと
更に逃げ遅れ津波に巻き込まれた者達の救助も手伝ったことで、避難している港町の住民達や帝国兵達からも信用を得るに至った。
それにはスネイク達なりに打算や贖罪の意味もある行為であり、帝国兵と共に避難する民間人達と同行する。
するとそうした会話に、背負われているマウル医師は聞き覚えのある名前に反応した。
「エリクと、アルトリア……。……
「なんだ、アンタ知ってんのか? あの二人」
「はい。私と出会った時には、親子として偽名を名乗られていましたが。後から来た帝国軍の方に、本当の名前と素性を知りました」
「親子ねぇ。まぁ、それくらいの年の差はあるか」
「彼女の素性が、魔法師として噂に名高い公爵家の御令嬢だったと聞いた時には、本当に驚きましたが。……それと同時に、私は彼女の言葉を誇りに出来ました」
「誇り?」
「彼女に言われたのです。魔法で人を癒せない私が学んだ医術も、必要なのだと。……治癒魔法師として最高の名誉を持つ彼女にそう言われたのだと知った時には、医者を続けていた事を誇りに思えました」
マウル医師はそう語り、過去に出会ったアリアとの会話を思い出す。
それを聞いていたスネイクは意外そうな表情を浮かべると、口元を僅かに微笑ませながら呟いた。
「親子だってのに、
「え?」
「あの
「夢、ですか?」
「誰もが必要としない
「……必要としないモノで……。……素晴らしい夢を御持ちですな」
「そうだろ。いつか
「そうですか。……その夢も、そして私達が生き残る為にも。彼等の勝利を、今は祈るしかありませんな……」
「ああ、爺さんは祈ってろ。その間に運んでやるから」
「ありがとう、ございます……」
そう話す二人の中で、マウル医師は背中で魔力中毒の疲弊でそのまま意識を途切れさせる。
そしてスネイクは
「……頼むぜ、
スネイクもまた
そしてそれは人間大陸の各国でも同様であり、誰もが自分達と周囲の者達が生きる為に、エリクの勝利を願っていた。
逆にそれは、対峙するログウェルへ
しかし相反する二つの願いは、二人の
こうして地上において、ログウェルとエリクの戦いが人々の目に触れてしまう。
それを意図して見せるメディア自身も、
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