見上げる空には
ヴェネディクト=サーシアス=フォン=ベルグリンドの手によって再編されたベルグリンド共和王国は、再びフラムブルグ宗教国家からの庇護を受ける。
そして二国間の国交を任される使節団を率いる黒獣傭兵団の副団長ワーグナーは、自身の引退と共に帰還したエリクに使節団を任せたい事を伝えて来た。
それをローゼン公セルジアスから聞いたエリクは、アルトリアの見張りをケイルに任せて一時的に
この話を行った翌日、
その見送りをする為に、アルトリアやケイルも同行している。
すると彼等は、こうした会話を行った。
「――……
「当たり前でしょ。
「走って行っても、いいんだが」
「検問はどうするのよ。しかも国境を超えるわけだし、貴方の足でも何日か掛かるわ。
「そうか。……分かった」
「行先は、操縦席に座ってる
アルトリアは
するとそれを隣で聞いていたケイルは、訝し気な様子を浮かべながら問い掛けた。
「……何なんだよ、その便利な
「未来で造られてたのは強襲用に兵器や機銃を搭載してたけど、この
「その
「
「……」
「止めてよ、その顔。今回は別に悪用する為に作ったわけじゃないし。第一、この
「テクラノス? そういや、アイツが
「元々、テクラノスは新型の
「!」
「だから
「……死者の魂か。じゃあ、
「マシラ一族の秘術。死者の魂と交信し、掬い上げる事も出来る
「それでかよ。……でも、そんなテクラノスに手伝わせて危険じゃなかったのか?」
「『青』もそれを危惧してたけど、未来の私が連れて来るよう言ったわ。協力する代わりの、交換条件を出してね」
「条件?」
「テクラノスがやりたかった事をさせたのよ。死者である未来の私の魂を使った、
「!!」
「お前……!」
それを聞いたケイルとエリクは驚愕し、それを咎めるような視線を向けた。
しかし口元を微笑ませるアルトリアは、その実験結果を伝える。
「結果は失敗したわ。一時的に魂を憑依は出来ても、完全に
「……」
「だからテクラノスも、死者の魂を
「!」
「代わりに私が提案したのは、未来の私も研究してた
「!?」
「一定の命令に従い思考回路に沿う形で自律行動できる
「……まさか、その
話を聞いていたエリクが、何かを思い出しながらそうした言葉を向ける。
それは未来のアルトリアが居た黒い塔に存在していた、
それに頷きながら、アルトリアは話を続ける。
「そうよ。やっぱり貴方が倒してたのね」
「ああ。……奴は、未来の君を守ると言っていた。……なら、あの
「
「!?」
「取り付けた
「……」
「テクラノスにはその事を教えたら、喜々として協力してくれたわ。その御礼代わりに、未来の私が憑依する為の
柔らかくも微笑みを浮かべるアルトリアを見て、二人はそれがマシラ共和国から脱出しようとした時だと思い至る。
元マシラ闘士達と共に襲って来たテクラノスを相手にした当時のアリアは、敢えて彼だけは殺さなかった。
それは彼の魔法技術が賞賛できるモノだったからであり、それが無ければ他の闘士達と同様に殺していただろう。
こうした事柄すらも現在に影響を及ぼしている事を改めて知る三人は、ある一人の人物がそれを画策したのではないかと思い至った。
「……これも、『黒』の言っていた運命ってやつかしらね。
「まさか『黒』は、そこまで予知していたのか?」
「そんな、まさか……」
「あり得るわよ。私達が生まれる前から動いていた奴だもの。マシラ王の起こした
「……おいおい、頭が痛くなってきたぞ。どんだけ仕組んでやがるんだよ、『
「さぁ、一応アレも神様みたいだし。何を考えてるかなんて分かる人なんて、そうはいないんじゃない?」
「……そりゃそうか」
『黒』の予知によって画策された
同様に苦笑を浮かべるアルトリアとエリクは、再び互いの顔を見ながら別れの挨拶を交わした。
「そろそろ出た方がいいでしょ、御昼には到着してたいだろうし」
「そうだな。……出来るだけ早く戻る。ケイル、頼んだぞ」
「おう、行って来い。ついでに、ワーグナーや皆によろしく言っといてくれ」
「ああ」
長話の末に短い挨拶を交わした三人は、そうして話を終える。
そしてエリクは乗り込み、それから地面に着いていた
それを見上げながら見送る二人だったが、ケイルは腕を組みながらアルトリアへ問い掛ける。
「――……それで、何を隠してる?」
「!」
「昨日の様子といい、お前また何か気付いて隠してるだろ。だからエリクを遠ざけて、自分で解決しようとしてる。違うか?」
「……察した良いわね」
「エリクには言えなくても、アタシには言えるだろ。……話せよ。内容次第じゃ、協力ぐらいはしてやる」
「……そうね。……分かった、話すわよ」
改めて二人だけになった事で、ケイルはアルトリアを問い詰める。
そして隠している問題について、改めて彼女は話した。
それを聞いたケイルは一様に驚きを浮かべ、互いに
「――……マジなのかよ、それって……」
「多分ね。どちらにしても、魔大陸に行く必要があるわ。……そして私達は、『白』の言っていた彼女に会う必要がある」
「……間に合うのかよ、それで……」
「間に合わないかもしれない。でも、それでも間に合わせないと。――……世界が、滅ぼされる前に……」
二人は新たな問題に関する情報を共有し、深刻な表情を浮かべながらそう話す。
それは彼女達にとって、限られた時間の中で果たさなければいけない事だと考えさせられていた。
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