夢の目覚め
その一人であるユグナリスに対しては
それはアリアとエリクが共に旅をして来た、女剣士ケイルだった。
「――……それにしても、まさかケイルまでそうだったなんて……。……ルクソード皇族の血筋で三人もいるとか、どういうことよ……」
アリアは理想郷に飲まれて以後から意識が戻らないケイルの顔を見て、そうした言葉を漏らす。
しかしそうした因果を今は考えるよりも、アリアはすべき事を考えながら右腕を軽く上げる。
そして意識の無いケイルの額に右手を開きながら置くと、瞼を閉じながら意識を集中し始めた。
「……やっぱりケイルの精神は、
ケイルの精神が
すると今度は結界内の近くに落ちている小枝を拾い、意識の無いケイルが横たわる地面の周囲に複数の魔法陣を囲むように書き込んだ。
それを書き終えた後、アリアは小枝を落としながら両手を叩くように重ねる。
更に書き込んだ魔法陣へ両手を重ねると、書き込んだ魔法陣の線を通じて七色の魔力が迸らせた。
アリアは自身の魔法陣が成功した事を確認し、ケイルを見ながら再び呟く。
「こうなったら、無理矢理にでも起きてもらうわよ。ケイル――……!!」
「……っ!!」
そうした事を述べるアリアに対して、魔法陣から放たれる七色の奔流を浴びるケイルは表情を僅かに強張らせる。
それは同時に、深層意識に沈んでいるケイルの
『――……もう御目覚めの時間よ。ケイル』
「……え?」
それは身体を発光させながら薄く身体を透けさせているアリアが、何故か真横から話し掛けて来た光景だった。
「……」
『ちょっと、無視するんじゃないわよっ』
しかしそれを引き留めたのは、真横まで迫りながら詰め寄って話し掛けて来るアリアの声だった。
『この
「……昨日の酒、飲み過ぎたかな……。……変なのが視える……」
『変なのって何よ! ……なに? もしかして私の事も忘れてるわけ? そこまで
「……後で、姉ちゃんに酔い覚ましを貰おう……」
自身の
それを聞いたアリアは、
『汚染がここまで酷いなんて……。……
他者の精神が肉体に介入し持ち主の人格に接触しようとすれば、互いの精神が反発して損傷を負ってしまうか、逆に精神同士が強く干渉し人格が破壊されてしまう。
アリアやアルトリア、エリクやフォウルのように同一の魂から生み出された精神であれば多少の干渉を行っても問題ない。
元は同じ
しかしケイルはアリアを幻覚な何かだと認識したまま、まともな態度で取り合おうとはしない。
逆に現実の心象を中途半端に感じ取っているのか、嫌悪感を強めながらアリアを忌避する表情すら窺えた。
それでもアリアは許される時間の限り、強気な態度でケイルに呼び掛け続ける。
『ケイル! 私の話を聞きなさいっ!!』
「母さん。羊の乳、持ってきたよ」
『もうすぐ世界が破壊されてしまう! それを阻止する為には、貴方の
「父さん。言われた通り、弓の弦を張り替えて置いたから。今度は切れないようにね」
『そんな
「姉さん! 今度さ、機織りの仕方を教えて欲しいんだけど――……」
『……ッ』
ケイルは呼び掛け続けるアリアの意識を無視するように、
それはケイル自身が望み続けた理想の光景でもあり、その支配は非常に強い事をアリアは悟り始めた。
そうして姉レミディアの
『エリクが、一人で戦ってるの』
「!」
『今も彼は、一人で戦い続けてる。……私や貴方を守る為に』
「……エリク……?」
『エリクをお願いって、私は貴方に御願いしたわよ。
「……!!」
『そんな貴方が、こんなところで在りもしない
そう告げた後、アリアの意識体は時間切れとなってケイルの
そんなケイルに対して、後ろから
「リディア。どうしたの? またぼーっとしちゃって」
「……姉さん」
「ほら。時間が出来たから、機織り教えちゃうよ。一緒に行こう」
そう言いながら微笑む姉レミディアに手を引かれるケイルは、それに抗うように踏み止まる。
するとレミディアは不思議そうな首を傾げ、動揺した面持ちを浮かべるケイルに話し掛けた。
「リディア?」
「……ごめん、姉さん。……アタシ、行かなくちゃ……」
「行くって、どこに?」
「……分からない。……でも、行かなきゃいけないような……そんな気がするんだ……。……アイツの、ところに……」
そう言いながら僅かに後退るケイルに、レミディアは僅かな驚きを浮かべる。
しかしその後、微笑むような表情でこうした言葉を送った。
「そっか。……ねぇ、リディア」
「……?」
「ちゃんと、幸せになってね」
「……姉さん?」
「私は、それだけが心残りだったから。――……貴方の大好きな人を、守ってあげて」
「……!!」
優しく語り掛けながら抱擁する姉レミディアに対して、ケイルは動揺した面持ちを浮かべる。
するとレミディアは抱き締めた
それは厳しき幼少時代に師事を仰いだ、
そして無言の
「……そうか。アタシは……
そう言いながら自らの姿を現実と同じ
それを微笑みながら見つめる師匠達もまた淡い光と共に消え崩れると、ケイルは振り返ることなく
すると現実世界において、ケイルの瞼が重くも開かれ始める。
そして濃くも赤深い瞳を見上げると、膝を着きながら見下ろす人物の顔を確認した。
「――……チッ。この世で一番、見たくない
「あら、私はそうでもないわよ」
ケイルは真横に座るアリアの姿を見ながら、そうした言葉を零す。
するとアリアもまた嫌味を含んだ微笑みを浮かべ、ケイルの目覚めを確認していた。
こうして本当の意味で
これで
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