脅迫の選択
二日目の
憎悪すべき
気を失ったリエスティアを連れて
そこでリエスティアの目覚めを待ちながらも、ゲルガルド伯爵領地に戻る準備を整え始めていた。
『――……アルフレッド。明日、リエスティアが目覚めなくても
『
『ああ。ジェイクの事も気になるし、ここで私が逃げてもお前の本体がどうなるか分からないだろう』
『……私の心配まで?』
『当たり前だろう。お前は大事な、私の
ウォーリスはそう語りながら荷造りを整え、それを聞くアルフレッドは義体の表情を僅かに微笑ませる。
そして燃え焦げている
『……火傷の
『そうですね。ゲルガルドの実験の記録にも、ここまで綺麗に治った前例はありません』
『ということは、コレはゲルガルドにも不可能だということだな?』
『
『だとしたら、あの少女が持つ癒しの
ウォーリスは
しかしルクソード皇国に搬送したカリーナを再びガルミッシュ帝国まで戻し、秘かにあの少女に治癒させるのは難しいとも考えていた。
更にそれを行う為にも、【結社】の構成員と通じ合える
しかしその
そうして考えるウォーリスは、ある一つの決断をする。
『……明日。
『!』
『ジェイクが拘束されているようであれば救出し、領地から逃がす。そしてどうにかして、あの少女の生家であるローゼン公爵家と繋がりを持たせ、カリーナを治療してもらえるように頼むつもりだ』
『……しかし、それは……』
『分かっている。もしゲルガルドに
『手勢?』
『知っているか? 敵の敵を味方にするというのは、意外と有効な手段なんだよ』
口元を微笑ませながらそう話すウォーリスに、アルフレッドは首を傾げながらその方法を聞く。
最初こそ僅かな驚きを見せていたアルフレッドだったが、それに納得しながらリエスティアの護衛について承諾した。
その日、アルフレッドはウォーリスに頼まれた物を市民街で買う。
そして翌日となってリエスティアが目覚めぬ中、予定通りウォーリスとアルフレッドは馬車に乗って帝都を出立した。
その道中、ウォーリスだけが馬車から降りる。
しかしその姿は普段着とは異なる、黒い
『――……それじゃあ、アルフレッド。頼んだよ』
『お任せください。そして、御気を付けて』
『ああ』
リエスティアを託すアルフレッドに見送られながら、ウォーリスは凄まじい走力で駆け出す。
その常人の目でも追い切れぬ速さであり、森を駆ければ凄まじい突風が吹いたように舞う木の葉を置き去りにした。
各所に設置されている検問なども易々と跳び越えながら、ウォーリスはその身のこなしによって帝国兵士達に気付かれない。
そして時折立ち止まりながら帝国領の地図と方位を確認し、ある場所を目指すように走り続けた。
すると一日も経たない夜間に、ウォーリスはある領地へと辿り着く。
そしてその領地を治める貴族家の屋敷を探し出し、深夜にその領地の当主が眠る寝室へと侵入して見せた。
『――……起きろ』
『……ぅ……っ!?』
寝室に寝ていた中年太りをしている初老の男は、突如として目の前に現れた黒い姿の者に驚愕する。
しかし大声を出される前に初老の男の首を抑えながら僅かに締め上げたウォーリスは、腰に携える短剣の刃を目の前に突き付けながら低い声で呟いた。
『やはり
『……ぉ、お前……は……!?』
『お前達の
『……!!』
『だが既に、お前達の
『な、なぜ……それを……!?』
『そして帝都からの帰路でも待ち伏せし、ウォーリスを襲うつもりだろう。……だが、そんな事をしていていいのか? お前がのんびり寝ている間に、全てが終わってしまうかもしれんぞ』
『……っ!!』
ウォーリスは
そして
『既にエカテリーナの凶行は、ゲルガルド伯爵家の当主に証拠を掴まれている。このままではエカテリーナもジェイクも処分され、その罪はお前自身にも着せられる事だろう。……そうなれば、お前は汚名に塗れたまま人生を終える事になる』
『……ッ』
『今更になってウォーリスを
『……何を、言って……っ!!』
『その努力をするのならば、私も今ここで刃を振り下ろすつもりは無い。……さぁ、選べ。拒否してこのまま死に、家の名誉すらも潰されるか。承諾して生き永らえ、多少の汚辱を覚悟するか。……どちらを選ぶ?』
『……ッ!!』
ウォーリスは更に刃先を近付けながら、脅迫による選択を迫らせる。
そして自分の首を掴む
するとウォーリスは首を掴む左手を離し、右手で突き付けていた短剣の刃を上げて離す。
凄まじい殺気と緊張感を感じながらようやくまともな呼吸を出来るようになった初老の当主は、咳き込みながら顔まで覆う黒服のウォーリスに問い掛けた。
『ゴホッ、ゲホォ……ッ!! ……お前は、いったい……何者だ……!?』
『ゲルガルドと敵対する者であり、ジェイクの味方とだけ言っておこう』
『孫の、味方……?』
『私にとって、ジェイクは失うに惜しい人材だ。出来ることなら、可能な限り生き延びて欲しい。……だからこそ、その祖父でもあるお前の手を借りたい』
『……
『お前の領兵を、ゲルガルド伯爵領地内に侵攻させろ。私がジェイクとエカテリーナを救出し、お前に届ける』
『!』
『お前は二人を回収し、領兵を囮にしてルクソード皇国辺りにでも逃げるといい。ジェイクならば、お前達を保護できる伝手を知っている』
『……儂の領地も、先祖から引き継いだ
『自分と家族の命がそちらの天秤よりも軽いと言うなら、そうするがいい。……そうなれば結局、お前達は何も残せるモノが無くなるだけだ』
『ク……ッ!!』
『こちらの提案を断るのなら、好きにしろ。……だが待っているのは、惨めな最後だけだぞ』
『……わ、分かった……』
威圧と殺気を放ちながら短剣の刃を再び向けるウォーリスに、初老の当主は怯えを浮かべながら領兵を赴かせる事を承諾する。
そしてウォーリスは指定の場所を指示したゲルガルド伯爵領地の地図を渡し、そのまま
すると翌日まで屋敷周辺で身を潜めながら監視し、
そうして朝方に屋敷に務める従騎士と幾人かの領兵が私服で身を包みながら馬に乗り、領内の兵士達を掻き集めながら移動しているのを確認した。
ウォーリスもまた彼等の速度を超える走りで、自身の目的を遂げる為に向かい始める。
そして
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