虚無の世界
意識の無いケイルの
そして対峙した悪魔騎士ザルツヘルムを自身の『
それを止めた『青』はザルツヘルムを捕縛し、未来のユグナリスに自分達の知る
すると帝国が滅びていない事を未来のユグナリスは知り、出産後に死ぬはずだったリエスティアや
こうしてザルツヘルムに対する敵意と憎悪を僅かに静めた未来のユグナリスに対して、『青』は改めて捕縛したザルツヘルムを見下ろす。
そして彼を捕縛した理由について、改めて周囲に居る者達に伝えながら問い掛けた。
「――……ザルツヘルム。この男はかつて、元ルクソード皇国の第四兵団の師団長であり、ウォーリスの母親であるナルヴァニア=フォン=ルクソードの従騎士だった」
「……」
「エリク、そしてマギルス。お前達の介入によってこの男は皇国で死亡し、死後には遺体を回収され死霊術で蘇り、このような悪魔となったようだが。……こうして捕らえる事に成功した以上、お前の知る事を喋ってもらうぞ」
「……私は主君を裏切らない。殺せ」
光の枷を手足と首に嵌められ、その周囲を光の檻で囲まれているザルツヘルムは
それに対して涙を引かせたユグナリスは厳しい表情を浮かべたが、それを制止するように『青』は続く言葉を向けた。
「我々は未来において、何も分からぬ事が多かった。……ウォーリスの目的、その正体も」
「……」
「お前達を『敵』として討つ事は、至極単純な目的だった。……しかし未来のアルトリアが行おうとしていた事を『黒』が止めようとした事で、我等もまたウォーリスの目的が世界の掌握するのが最終目的ではない事を知り得た」
「……どういう事だ?」
『青』の口から未来のアリアに関する話が出た時、エリクが腰を降ろした姿勢のまま問い掛けの言葉を向ける。
すると『青』はそれについても語り始め、自分自身が今まで抱いていた情報を明かした。
「
「……ああ」
「だとすれば、未完成だった私の
「……?」
「分からぬか? アルトリアが
「なに……?」
実際に未来のアリアと対峙し戦ったエリクは、そうした情報を聞いて疑問の表情を強める。
すると隣で聞いていたマギルスは立ち上がり、首を傾げながら『青』に問い掛けた。
「その思惑って、なんなの?」
「恐らく、世界の
「世界の、
「この世界には、我々のように生命を持つ者達が暮らす『
「二つの世界が、循環?」
「『生』と『死』という概念は、言わば生命を循環させる為に必要な状態。二つの世界は互いに
そうした事を語る『青』に、エリクは記憶にある『
未来のアリアが死霊術を解いて死んだ後、『
それと同じ話をしている事を理解したエリクは、理解しようと悩むマギルスを横目にしながら『青』に向けて口を開く。
「……死者であるアリアが、多くの人間を殺したからか?」
「そうだ。本来の『死』とは、『生』へと移る為に設けられた
「……どういうこと?」
「『生』ある者が『死』へ至らせる事はあっても、『死』へ至った者が『生』ある者を殺すのは循環の逆転させる行動。それは世界の
「うーん……。……なんとなく分かるけど、それがどういう話になるの?」
「もし仮に、
「どうって……みんな死んじゃうだけじゃない?」
「そうだ。しかし瘴気に侵され『輪廻』に
「消滅……!?」
「『生』と『死』という概念は世界から失われる、どちらも存在しない『
「……ッ」
『青』はこの世界の概念を教え、二つの世界によって
それを聞いていたエリクは、
そうして各々が理解の差が生じながら考える様子を見せる中で、『青』は再びザルツヘルムを見下ろしながら確信染みた言葉を向ける。
「だが、自分の記憶を失った
「!?」
「そして乗っ取った魔導国で
「……まさか……」
『青』は未来のアルトリアとウォーリスが秘かに結託し、『
それを聞いていた未来のユグナリスは、何か思い当たる節を抱きながら表情を強張らせた。
そして改めて『青』は、拘束したままのザルツヘルムに問い掛けを向ける。
「ザルツヘルム、貴様の
「……お前達が何の話をしているのが、まるで理解できない」
「
「……殺せ」
今まで『青』達の話を拘束されたまま聞いていたザルツヘルムだったが、未来の出来事を知らない彼には理解できずにいる。
しかし主と仰ぐウォーリスの目的を明かすのを頑なに拒絶し、自らの死を勧める視線と声を向けた。
そんな時、エリクが不意に言葉を零す。
「……奴は、この世界が
「!」
「そんな不完全な世界を、許せないとも言っていた。……そして世界を滅ぼし、新たな世界を作る。だから、
「……それは、ウォーリス自身から聞いたのか?」
「ああ。……それを聞いた時には、よく分からなかった。だが『
「永遠の世界?」
「それが何なのかは、俺もよく分からない。……だが、
「……なるほど。
エリクは未来のアリアと現代のウォーリスが述べていた言葉で重なる部分を思い出し、そこから彼等が共有させていた目的を導き出す。
それを聞いていた『青』は納得を浮かべようとしたが、それに対してザルツヘルムは強情だった表情を僅かに緩ませながら口元を微笑みに変えた。
それに気付いたマギルスは、首を傾げながら微笑むザルツヘルムに問い掛ける。
「なんで笑ってるのさ?」
「……お前達には、分かるまい」
「?」
「あの方が、どうしてこのような凶行に及ぶのか。そして本当は、何を望んでおられるのか。……我々以外に、誰も理解できるはずがない……」
「……新しい世界を作るだけが、目的じゃないってこと?」
「そんな
「壊す、権利?」
「……あの方の為に、十分な時間稼ぎは出来た」
「!」
「今頃、あの方は
ザルツヘルムは頑なに閉じていた口に綻びが生まれたかのように喋り始めると、最後にそうした煽りの言葉を向ける。
それを聞いていた『青』とユグナリスは表情を強張らせ、エリクとマギルスに視線を向けながら問い掛けた。
「ウォーリスは何処ですっ!?」
「あっ、多分……あのデッカい門の向こう側だね。僕が来た時に、半分だけ
「もう
ウォーリスが既に神殿内部へ侵入している事を聞いた未来のユグナリスと『青』は、互いに表情の強張りを強める。
そんな二人の焦るような表情を見上げるエリクは、身体を起こしながら問い掛けた。
「あの
「……マナの樹です」
「マナの樹……。……確か、人が生き返る実を生やすという……?」
「
「!?」
「しかもアレは、この世界で『生』と『死』の循環を司る
「なにっ!?」
神殿内に何があるかを知る『青』と未来のユグナリスは、そこに『マナの樹』が存在している事を明かす。
それを聞いたエリクは驚愕を強めたが、更にその
そうして焦りの表情を浮かべる三人に対して、『青』は冷静な面持ちのまま指示を飛ばす。
「お前達は、先に
「分かった」
「マナの樹ってのを、壊させなきゃいいんだね!」
「俺も! 俺がもう一度、ウォーリスを倒しますっ!!」
傷と体力が回復したマギルスは走り出し、僅かに遅れた白髪のエリクも再び大階段を駆け上がる。
それに付いて行くように未来のユグナリスも走り、『生命の火』を肉体に灯しながら二人を追い越すほどの速力で駆け上り始めた。
こうして互いの知る情報をすり合わせた四名は、ウォーリスの目的とその手段に改めて辿り着く。
そして世界を破壊させない為に、最後の『マナの樹』を守るべく三人はウォーリスを追い始めたのだった。
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