化物の少女
二歳の頃に起きた事件で、
しかしそれが友達である黒髪の少女クロエオベールを傷付け、両手と身体の正面に重度の火傷を生み出した。
幼い私は思わぬ事態に無我夢中で思考し、
それを実行しクロエオベールの負った傷を完治させながらも、分け与えた為に衰えた生命力を回復する為に深い眠りに落ちた。
それから幾日か経ったのか、その時の私も詳しく分からない。
しかし次に目覚めた時、私はローゼン公爵領地の屋敷である自分の部屋に寝かされていた。
『――……ここは……』
私は虚ろな意識のまま瞳を開け、映る景色に見覚えがある事を悟る。
僅かに首を左右に動かして周囲を確認すると、そこは自分の部屋である事を思い出した。
そして上半身を起こそうとした時、歩み寄るような足音を聞く。
そちらに視線を向けると、見覚えのある侍女達が私が居た
『――……御嬢様? 御嬢様、御目覚めになられましたかっ!?』
『……』
『急いで、クラウス様に御連絡を!』
一人の侍女は慌てながらも近付いて私の様子を確認し、若い侍女にそう伝える。
それに従う侍女は部屋の扉を出て行き、私は複数の侍女達に囲まれながら容態を確認された。
その時に侍女達が話す言葉から、私が数日間も眠り続けていた事を理解する。
それから虚ろな瞳が徐々に光を宿し、眠る前の記憶を鮮明に思い出した。
『……わたしは……』
『御嬢様?』
『……そうだ、クロエ……。あの子は、どうなって――……!!』
『お、御嬢様っ!?』
私は重傷を負わせて治癒したクロエオベールの事を思い出し、侍女達の抑えようとする手を振り払いながら
とにかく
その時、部屋の扉を開いてある人物が怒りの形相を見せながら現れる。
それは私の父親である、ローゼン公爵家当主クラウス=イスカル=フォン=ローゼンだった。
『――……何処に行くつもりだ? アルトリア』
『……ッ』
『お前はもう、今後は屋敷から出さない』
『!?』
『お前が持つ
『なんでよッ!?』
『言わなければ分からないかッ!!』
『!?』
『お前は私の約束事を全て破り、自分の
『……』
『我が娘だからこそ、今までお前の横暴な振る舞いを許したこともある。……だが今回は、流石に我が娘だとしても許せん』
激怒するクラウスは静かに怒鳴り、私に失望の目と言葉を向ける。
それを聞いた私は、不思議と動揺はしていない。
逆に胸の奥に戻っていた何かが表面に溢れるように滲み出てきながら、怒り混じりの笑いと声を向けた。
『……ふっ。許せない? それはこっちの
『!』
『約束がどうの、人を傷付けただの。……アンタは結局、帝国貴族としての体面を気にしてるだけでしょ?』
『アルトリアッ!!』
『私はただ、友達を守っただけ。私のことを大事に思ってくれる友達を傷付ける奴等を、そしてそんな奴等を生んで貴族にしてるような
『!』
『あの子はたった一日だけの出会いだった私の事を、ちゃんと大事にしてくれた。思ってくれてた。……でも、アンタはどうなのよ?』
『……』
『私を抑え込んで、他の劣った奴等と並べて、ただ自分の
『ッ!!』
私から再び滲み出る敵意と憎悪が、今まで
自分を抑え込み、他者と並べて同じ事をさせようと制限させ、様々な縛りを課す
そして私の本音を向けた時、
それは父親に向けられた、初めての
その平手打ちを受けた一瞬だけ、私の思考は真っ白に染まり、ただ今まで知らなかった頬の痛みを感じていた。
しかし真っ白だった思考が再び鮮明となった私は、今まで胸の奥に
『――……ふふっ。……アハ……アハハハッ!!』
『……ア、アルトリア……?』
『……結局、アンタもアイツ等と同じなのね。……自分に従わない人を貶めて、
『……!!』
『――……だったら私も、親のアンタに見習って、
私はこの瞬間、再び
その殺気が周囲の
そんな私の殺気を真正面から受けた
それが開戦の合図だと受け取った幼い私は、幼い自分の肉体に白い輝きを纏わせながら
それからの事を、私はよく覚えていない。
ただ憎悪と憤怒に身を任せて
私の
しかしその戦いも、僅か数分で決着を終える。
例え歴戦の猛者として名高く鍛え抜かれた
『――……グ……ッ。ハァ……ハァ……ッ!!』
『――……
『ク……ッ』
倒壊した屋敷の一画で戦い続けた私と
身体に大量の傷を負った父親は崩れるように膝を着き、手に持っていた赤い槍を落とす。
その前に無傷の私が立ちながら
防具が無いとは言え、たった二歳の
それは言葉として聞けば、まさに
私はそんな
そして娘として、最後の別れを告げた。
『……さようなら』
『……ッ』
私は躊躇せずに
しかし次の瞬間、私は幻覚のような声と感覚を味わう。
それは
『――……ダメだよ。アリス……』
『!?』
『あなたのお父さんを、殺しちゃダメ……』
私はその時、クロエオベールが何を言おうとして私を止めようとしたのかを思い出す。
あの時は
そしてその
それは自分の心に
『……!』
私は
するとそこには、屋敷の中に居た数多くの従者や使用人が私達のことを見つめていた。
そこには七歳になる兄セルジアスも佇み、ただ皆が無言のまま目を向けている。
そして私に視線を向ける全員が、まるで
『……そうか……。……わたしって……
私はその時になって初めて、自分の大事な
そして憎悪と憤怒を上回る孤独感と悲哀が私の心を支配し、完全に戦意も殺意も喪失させながら光の無い青い瞳で顔を伏せた。
その後、私は駆け付けた騎士や領兵達に捕まる。
そして負傷した父親の指示によって、領地の隔離塔に在る地下牢に幽閉された。
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