喧嘩の決着
貴族の子弟と知り嫌悪するワーグナーと、老人を師事するクラウスは殴り合いを始めてしまう。
互いに睨み合いながら飛び掛かるように右拳を振ると、互いにそれを左手で払い防ぎ、顔を逸れるように互いの一撃目は外れた。
「クッ!!」
「ぬぅ!!」
二人は一歩下がり再び身構え、先に態勢が整ったクラウスが左拳を素早く撃ち放つ。
それが左頬に的中し僅かに仰け反るワーグナーだったが、素早さ重視の
大振りのワーグナーの右拳はクラウスの顔面を狙うが、それは一歩引いて避けられる。
それに合わせるようにクラウスは右腕を下から振り、右拳でワーグナーの顎を打ち抜く。
それにはワーグナーも大きくよろめき、そして地面に尻を着いて倒れた。
「グ、ァ……」
「ふんっ。こんなモノか、王国の傭兵は!」
「……ッ」
クラウスは倒れたワーグナーを見下ろし、睨みながら悪態を吐く。
それに反応したワーグナーは倒れた姿勢から素早く起き上がり、クラウスはそれを僅かに驚いた。
「!」
「……ッ、こんな
「どうやら、
そう言いながらクラウスは再び迫り、ワーグナーに左右の拳を握り放つ。
それを腕で防ぐワーグナーだったが、その隙を狙いクラウスは右脚を回して蹴りを放った。
「グッ!!」
「がら空きだ!!」
左横腹に蹴りを浴びたワーグナーは、痛みに歪んだ表情を見せながらも耐え切る。
そして素早く蹴り足を戻すクラウスも、拳を撃ち放つ事を止めない。
そうした二人の戦いは、周囲の注目を浴び始める。
青年同士の喧嘩かと道端を通る者達は見やり、特に卓越した体捌きを魅せるクラウスの格闘術を見ると、興味を引かれて観衆が集まる。
近くの酒場や食堂の客が騒ぎを聞きつけて、様々な通行人も二人の青年が争い喧嘩する光景を見て、賑わいを見せていた。
「おい、どっちが勝つかな?」
「そりゃ、金髪の方だろ。強ぇぞ、アレ」
「茶髪の方も中々に
「確かに、あれだけ撃たれて立ってるのも
「賭けようぜ。俺、金髪に銅貨三枚な」
「俺も」
「俺は、茶髪の方かな」
そんな賭け事まで始まりそうな周囲を他所に、ワーグナーとクラウスの争いに変化が訪れる。
拳と蹴りを交互に撃ち放っていたクラウスが僅かに疲れた様子を見せた時、防いでいたワーグナーの眼光を鋭くさせて一気に迫った。
それを迎撃するようにクラウスは右拳を顔面に放つが、それをワーグナーは左頬で受けつつ迫る。
その勢いに負けたクラウスはワーグナーの身体で
「クッ!?」
「ッ、捕まえたぞ!!」
口を切り顔面を撃たれた部分を赤く腫れ始めていたワーグナーだったが、形勢が一気に逆転する。
この時点でワーグナーの方がクラウスよりも体格は優れており、更に装備の重さもあってクラウスの上に圧し掛かり完全に抑え込んだ。
更に攻撃を受けて僅かな動揺を見せるクラウスに対して、ワーグナーは淀み無く身体を動かし、クラウスの腹部に跨るように移動する。
相手の右腕を左脚で抑え込んだ状態で馬乗りとなり、クラウスに対して優位な体勢となったワーグナーは血を流す顔に笑みを浮かべながら右拳を握った。
「――……傭兵の戦い方を、坊ちゃんに教えてやるよ!!」
「!」
その言葉と同時に、ワーグナーは右拳を振り下ろしてクラウスの顔面を狙う。
それを防ぐ為にクラウスは守るように左手を顔面の前に移動させたが、利き腕と体重を乗せたワーグナーの右拳を防ごうとした左手ごと顔面に叩き付けられる。
更にワーグナーは躊躇せずに左拳も握り、クラウスの顔面を狙う。
右腕を抑え込まれ自由に動き防げるのが左手しかないクラウスは、そのままワーグナーの両手の拳を防げず撃たれ続けた。
しかし、クラウスもただ撃たれ続けてはいない。
顔を撃たれながらも抑え込まれた右腕を必死に動かし、更に両脚を必死に上げて何とか拘束を逃れようと暴れ続ける。
それを抑え込んでいたワーグナーだったが、撃つ拳に力を注ぎ過ぎた瞬間に左脚の抑えが緩み、その隙にクラウスは抑え込まれた右腕を解放した。
「ゥ、ォオッ!!」
「グッ!!」
低く唸るクラウスは解放された右腕を素早く振り、その拳を下からワーグナーの顎に的中させる。
先程よりも踏ん張りも威力も少ない無いが、下から突き上げられて顎を上げてしまったワーグナーは上体を僅かに仰け反らせた。
その隙をクラウスは見逃さず上体を起こし、金髪の頭部でワーグナーの顔面に狙い突く。
それに押される形でワーグナーは更に上体を仰け反らせ、馬乗りの状態が解けてしまった。
その隙にクラウスは抜け出し、素早く引いてワーグナーから離れる。
クラウスの金髪は乱れ、顔面は赤い鮮血と赤い腫れが起きており、息を乱しながら起き上がった。
顎と顔面を打ったワーグナーも顔と口から流血しながらも、その身を起こす。
互いに満身創痍の状態で立ち上がると、鋭い視線で睨むように視線を合わせた。
「ハァ……ハァ……ッ!!」
「グ、ハァ……ハァ……」
互いに闘志は衰えず、再び構えるように腕を上げる。
どちらかが倒れ伏すまで終わらせる気が無い二人は、決着させる為に右拳を握った。
そしてワーグナーは大振りに迫り、そしてクラウスはそれに合わせてカウンターを放つ為に待ち構える。
その瞬間、二人を囲んでいた観衆から凄まじい怒声が響いた。
「――……ワーグナァァァアアアッ!!」
「ひっ!?」
「!!」
その声を聞いたワーグナーは殴り掛かろうとした勢い止め、その声が聞こえる方を振り向く。
同じく身構えていたクラウスもその怒声が聞こえた方を向き、二人は声の出した人物を見た。
そこには観衆を掻き分けるように進み、怒りの表情を向けた黒獣傭兵団の団長ガルドがいた。
「お、おやっさん!?」
「何処をほっつき歩いてるかと思って探して見れば、路上で喧嘩とは楽しそうだなぁ!!」
「い、いや。これは向こうが、喧嘩を吹っ掛けて来て……」
「言い訳すんじゃねぇ!!」
ワーグナーはそう言いながら腰を引かせたが、迫るガルドは怒声と共に右拳を振り上げる。
それがワーグナーの頭頂部に激突すると、凄まじい勢いでワーグナーは地に伏した。
更にガルドはクラウスを睨み、左拳を握る。
「テメェも、うちの団員に手ぇ出してんじゃねぇぞ!!」
「ぅえ!?」
そうガルドは怒鳴りながら左拳を素早く振り上げ、そしてクラウスの脳天に直撃させる。
クラウスはその素早い動作に反応し切れず、避ける間も無くワーグナーと同じように地に叩き伏せられた。
更に周囲を見るガルドは、睨みながら観衆に一言だけ伝える。
「……おい。見せ
「ぁ、はい……」
睨みながら怒声で唸るガルドに、観衆達は引き気味に散らばる。
それに溜息を吐き出したガルドは、地に伏した二人を見て更に大きな溜息を吐き出した。
こうしてワーグナーとクラウスの喧嘩は、ガルドの拳によって両成敗となった。
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