次の旅へ
皇都を旅立った次の日。
大陸西側の港へ向かうアリア達は朝を迎え、休憩を行う為に野営を行う。
眠っていないケイルや睡眠の浅いマギルスは荷馬車の中で眠り、エリクは魔力の制御と抑制を行う為に座り込んでいた。
そして見張りを兼ねて保存食で朝食を摂るのは、アリアと『黒』の七大聖人の少女。
二人は互いに対面し、こんな話を交えていた。
「――……それで。本当のところを聞きたいんだけど?」
「本当のこと、ですか?」
「貴方が私達に付いて来たいと言った、理由と目的を確認したいの。『黒』の
「貴方達と旅をすると楽しそうだから、では駄目ですか?」
「マギルスじゃあるまいし、そんな理由じゃないでしょ。……貴方も私と同じ事を考えているはずよね?」
「アリアさんが考えていることは、何ですか?」
「……ルクソード皇国に対する侵攻は防げた。でも貴方が生き続け転生を繰り返す度に、【
「そうですね」
「貴方がルクソード皇国内に留まり続ければ、再び【結社】が組織立って動く。……今のルクソード皇国に貴方を匿う余力も対応力も無い。だからこの国を立ち去るしかなかった。それが私達に同行する主な理由という認識でいい?」
「はい。彼等は必ず、私を殺す為に刺客を送り込むでしょう。そういう事は、今までにも何度とありました」
「これからも【結社】の追撃に対処しなければいけないわけね……。まったく、とんでもない危険人物を抱え込まされたものね」
改めてそう呟くアリアに対して、少女は不思議そうな表情を浮かべる。
その表情の理由を、少女自身が聞かせた。
「私と同行しなくても、貴方達は私と同等かそれ以上の脅威として狙われると思いますよ?」
「え?」
「『聖人』に至った
「……ッ」
少女の言葉を聞き、アリアは改めて自分達がこの人間大陸でどれ程の存在かを考えさせられる。
ここにいる面々は、各国が一人でも抱えていれば重要な戦力として見做されるだろう能力を持った者達ばかり。
それが一箇所に固まり、各地を転々としながら騒ぎを引き起こせば否応無く注目が向く。
そして今回のルクソード皇国での騒ぎは、【結社】や各国に対して重大な打撃を与えた。
組織の運び屋であり傭兵ギルドの特級傭兵バンデラスが死に、【結社】の一端を率いホルツヴァーグ魔導国の実質的な指導者だった『青』の
更にフラムブルグ宗教国家を擁する尖兵と共に攻め込んだ『黄』の
この事実がとある一集団の介入により行われた事を知れば、脅威に考えない方がおかしいだろう。
それを考え表情を渋くさせるアリアに対して、少女は微笑みながら話した。
「そろそろ私も殺されるばかりではなく、
「……前にも似た事を言ってたわね。力が戻るって、どういうこと?」
「私は一定の年齢が経つと、聖人としての能力を完全に復活させる事ができます。しかし今の私はまだ幼く、その歳になるまで自分自身の身を守れません」
「あれほどの時空間魔法を披露しておいて?」
「あれは副作用のようなものです。……私は自身に課す『
「!」
「他者が向ける魔法や魔術の類いは、私に全く効果はありません。勿論、私自身の魔法も自分に作用されません。私が魔法を使い作用できるのは、私自身と関わりの無い対象だけ。つまり、『空間』と『時空間』に作用する魔法だけしか使えないんです」
「……それはそれで、十分に凄いんだけど?」
「私の聖人としての身体能力や耐久力も、貴方や他の
「……」
「そういう意味で、私は
「それって、私達に護衛の依頼をしてるの?」
「はい。受けて頂けますか?」
「……始めにマギルスに近付いたのも、それが狙い?」
「いいえ。彼に話し掛けられるまで、私は貴方達の事を何も知りませんでした。私は彼との巡り会いを、運命だと考えています」
「……運命ね。私が大嫌いな言葉だわ」
「昔、同じ事を言っていた人がいました。……貴方達でも守りきれないと判断した場合には、私を置いて行くなり引き渡すなりして頂いて構いませんよ。また私が死んで新たな転生体となり、貴方達も生きる限り追われ続けるだけですから」
「……ッ」
「決めるのは貴方です。アリアさん」
そう微笑みながら伝える少女に対し、アリアは眉を顰めて渋い表情を浮かべる。
そして食事を終えたアリアは立ち上がり、溜息を吐きながら答えた。
「……はぁ、分かったわよ。勝負に負けたからには、ちゃんと連れて行くし、守るわよ」
「そうですか。ありがとうございます」
「ただし、依頼報酬は前払い分で貰うわ」
「何を対価に?」
「貴方が使ってる魔法よ。『空間魔法』と『時空間魔法』。私に教えなさい」
「この中で唯一の
「『
「覚えるのは難しいですよ? 付け焼き刃な技術ほど危険なモノはありません」
「私にそう言う高説を垂れて来た大人達は、すぐに教えられる側に回って恥を掻いてたわね。次の大陸に着く前には、自分のモノにしてみせるわよ」
「分かりました。それじゃあ、改めて宜しくお願いします」
「ええ」
改めて『黒』の
交わした握手を離した後に、ふと思い出すアリアは少女に尋ねた。
「……そういえば、貴方の名前を教えてよ」
「名前ですか?」
「旅をするなら名前が無いと色々と不便だし。どう呼べばいいかしら?」
「そうですね。どんな名前が良いですか?」
「……ちょっと。私に決めろっての?」
「死んで生き返る度に自分で名前を決めていましたが、それも飽きたので。それとも、百五十年以上前の古めかしく覚え難い名前で良ければ、名乗りましょうか?」
「……はぁ、分かったわよ。……そうね……」
少女の名付けを催促され、アリアはしばらく悩む様子を見せる。
それを楽しそうに微笑みながら見つめる少女に対して、アリアは浮かんだ名前を口にした。
「……『クロエ』で、どうかしら?」
「クロエですか。良いと思いますが、どうしてその名前に?」
「随分昔、何処かで読んだ絵本に出てた黒い髪の女の子。それを思い出したの」
「そうなんですか。じゃあ、今日からそう名乗ることにしますね」
『黒』の
そしてマギルスが起きた事で、アリアとエリクは仲間達と共に港町の道を走り抜けた。
こうしてルクソード皇国の波乱を終え、『黒』の
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