闘う者の決着


対立する闘士の序列上位者達。


首無し騎士デュラハンの姿へ変貌した少年闘士マギルスと、

光と土属性の上位魔法を操る魔法師テクラノス。

この二人の戦いに結果が訪れた。


首無しの馬に跨り駆けるマギルスが、

大鎌を大きく振りテクラノスの首を狙う。

それを予期したテクラノスが長杖を振り、

駆ける馬の進行上に土の杭を刺し生やした。


それを無視するようにマギルスは大鎌を振り、

前方を塞ぐ土の杭を一瞬で切断した上で、

切断した杭の上を馬に飛び越えさせ、

テクラノスを馬の蹄で踏み潰そうとした。



「そぉれッ!」


「なんのォッ!!」



テクラノスは魔力障壁バリア物理障壁シールドを同時に展開させ、

魔力で生み出された馬の蹄を結界で防ぐ。

しかし結界を踏み台にした馬はその上を駆け、

首の無い鎧で覆われたマギルスが飛び降り、

結界へ大鎌を振り下ろして攻撃を加えた。


大鎌と結界が魔力の火花を生み出し、

互いに耐えながら嬉々と鬼気の顔を浮かべた。



「硬いねぇ……!!」


「この程度の事で……ッ」



マギルスは結界を破れない事を察し、

結界を自らの足で踏みながら飛び退き、

控えていた首無しの馬に飛び乗った。


再び馬に跨ったマギルスと、

光の輪を十数個ほど展開させたテクラノスが、

互いに睨み合い構えた。


その時、別方向から凄まじい怒声が二人を襲った。



「マギルス、テクラノス!!」


「あっ、ゴズヴァールおじさん」


「……チッ、厄介な」



その場に現れた闘士長ゴズヴァールが、

破壊された通路の脇から出てくると、

互いに戦闘態勢となっている二人に、

静かに怒鳴りながら詰め寄った。



「マギルス、お前は謹慎中だったはずだが?」


「あははっ。今日、出ても良いって言われたんだ」


「誰に?」


「四番目の人に」


「ケイティルか。……テクラノス、この惨状はなんだ?」


「……」


「闘士同士で戦う事を咎めてはいない。だが、王宮を守れと命じていたはずが、破壊しているように見えるが?」


「……その小童が侵入者と手を組み、玉座へ入ろうとしたのを阻んだ結果。それだけのこと」


「マギルス。あの女と手を組んだのか」


「えへへ。そっちの方が面白そうだったから」



それを聞いたゴズヴァールは、

苦い表情を見せながらも厳つい顔は隠さず、

二人の顔を見ながら静かに怒鳴り聞かせた。



「この戦いは俺が預かる。テクラノス、貴様は破壊した建物を修復しろ」


「そんなぁー、もう少しで勝てそうだったのにぃ」


「マギルス、お前は部屋でまた謹慎だ。今度は俺の命令だ」


「えー、やだー!」



駄々をこねるマギルスの声を他所に、

命じたテクラノスが動こうとしない様子を見て、

ゴズヴァールは鋭い視線と圧を放ちながら喋った。



「テクラノス。俺の命令が聞けないか」


「……侵入者は。あの小娘は御主が倒したか。ゴズヴァールよ」


「その件は後でいい。テクラノス、今は俺の命令に従ってもらうぞ。それが契約だ」


「……承知よ」



ゴズヴァールの命令に反論を返さず、

従うテクラノスは破壊した建物を土魔法で修復に入る。

マギルスは青黒い魔力の光を放つと、

首無しの馬と鎧姿を解除し、元の少年の姿へ戻った。


元の姿に戻ったマギルスに、

ゴズヴァールは問うように聞いた。



「マギルス。ケイティルは何処だ?」


「多分、あっちでエアハルトお兄さんと戦ってるよ」


「そうか」


「あっ、僕も見に行っていいかな。四番目の人がどれくらい強いのか見たいんだ」


「それが終わったら、謹慎だ」


「えー、やだー!」



ゴズヴァールは指し示された方角へ向かい、

それに追従するようにマギルスも後を追う。

そうした二人から外れて壁を修復するテクラノスは、

苦々しい表情を浮かべて舌打ちを漏らしていた。


一方その頃、ケイルとエアハルトの戦いは膠着していた。


大小の剣を鞘に収め構えるケイルと、

間合いに入らず円を描くように歩く人狼エアハルトは、

互いに互いの隙を突く為に機を窺っていた。


そして、ついに立ち止まったエアハルトが、

短く息を吐き出しながら構えた。



「……埒が明かないな。それに、あの女が王の元へ向かう為の時間稼ぎが貴様の狙いだろう。ケイティル」


「……」


「だが、あの女はゴズヴァールが阻む。貴様の時間稼ぎは無駄だ」


「そうですか。御親切に教えて頂き、ありがとうございます」


「……」



エアハルトの挑発に挑発で返すケイルは、

対面したまま一歩も動かず、

腰を据えたまま構え続ける。


崩れないケイルに業を煮やしたのか、

歯を剥き出しにして唸るエアハルトが、

脚に力を入れ始め、爪を伸ばし構えた。



「……」


「……」



互いに言葉は既に無く、

一瞬の緩みを狙い意識を研ぎ澄ませる。


先に飛び出したのはエアハルトであり、

人間には反応できない速度で飛び掛かり、

自身の右爪を仮面の顔に突き刺すように迫った。


その瞬間、エアハルトは悪寒を感じた。


獣の勘とも呼ぶべきそれは、

駆けるエアハルトの脚を停止させ、

瞬く間に後方へ飛び退いた。


そして飛び退いた瞬間、

エアハルトの眼前に何かが通過する。


極限まで研ぎ澄ませた意識と視覚と嗅覚で、

エアハルトが目の前を通過したそれが、

ケイルが腰に収めた長剣だと知った。


飛び退き顔を引かせたエアハルトの鼻上を掠め、

ケイルが抜き放った剣の刃がエアハルトに僅かに食い込み、

斬り裂き通過した事を自覚しながら、

エアハルトは剣の間合いから離れた。


そして自身の毛と鼻を切り裂き、

鼻の上に小さな一文字が出来た事を傷の熱さで感じながら、

長剣を引き抜き再び鞘に収めたケイルを見て、

エアハルトは漏らすように呟いた。



「……アズマの国に、様々な技を継ぐ者達が居ると聞く。その中に、鞘を収めた状態で剣を引き抜き、相手を切り裂く剣術があると聞いた事があった。それがコレか」


「……トーリ流術、『またたき』」


「貴様、アズマの国から来たのか」


「……」


「……確かに恐ろしい速度と切り込みだった。常人であれば、顔が飛んでいただろう。……だが、相打ちだ」


「!」



鼻の上から血を垂らすエアハルトがそう告げると、

ケイルが着けた赤い仮面に亀裂が発生した。

そして仮面が縦に割れ地面に落下し、

ケイルの素顔と赤い髪が見えるようになった。



「……ッ」


魔力斬撃ブレードは、使い手次第では指を動かすだけでも離れた相手さえ切り裂くという。俺はまだ、腕を振り手首を効かせる必要があるがな」


「……放っていたんですか。あの時に」


「間合いの取り合いなら、俺の方に分がある」



両手に力を込めたエアハルトが爪を伸ばし、

離れた位置から魔力斬撃を放つ為に構えた。



「貴様の実力は十分に理解した。第四席ケイティル」


「……」


「貴様は、俺に及ばん」



そう告げた瞬間、

エアハルトは両腕を振りケイルに魔力斬撃を飛ばした。


その場から走りだしたケイルは、

横に移動しながらエアハルトの魔力斬撃を避けていく。

ケイルが通過した場所にある木々や壁が破壊され、

爪痕を残すようにエアハルトは容赦無く斬撃が続いた。


その中でエアハルトは意図して狙い、

ケイルの進路を塞ぐ為に魔力斬撃を飛ばし、

ケイルを追い詰める為は端へと追いやられる。


そして追い詰められた先で左右の壁が斬撃で崩れ、

逃げ道が塞がれたケイルの正面に、

エアハルトが構えたまま立ち阻んだ。



「終わりだ。裏切り者」



そう告げたエアハルトは容赦無く両腕を振り下ろし、

魔力斬撃をケイルに向けて放った。


高速で放たれた魔力の斬撃がケイルを襲う時、

垣間見えるケイルは瞳を閉じ、

僅かな動作で腰を据えて構え、

短い呼吸を行った瞬間、腰の長剣を一瞬で抜き放った。


魔力で編まれた斬撃を防ぐ手段は、

魔法師が扱う魔力障壁のみ。

物理的な防ぐには、

分厚い壁や頑丈な鉄板でしか実質的に不可能。

細い長剣で防げるものかと思うエアハルトは、

自身の勝利と裏切り者の死を確信した。


しかし、そのエアハルトの確信は、

ケイルの技によって妨げられた。



「!?」


「トーリ流術、裏の型。『一閃ひらめき』」



エアハルトが放った二つの魔力斬撃と、

ケイルが放った剣先から魔力とは異なるモノが衝突し、

その空間を弾くように混ざり、魔力斬撃が消失した。


エアハルトは硬直し驚いたが、

その隙を突いたケイルは正面へ駆け出し、

虚を突いてエアハルトに奇襲した。



「クッ!!」


「ッ」



長剣と抜き放たれた小剣の奇襲を回避するエアハルトは、

何が起こったのか認識する為に距離を開けた。

再び鞘に大小の剣を収めたケイルは、

左右の道を確保した上で腰を低くしながら構えた。


そのケイルを睨むように見ながら、

エアハルトは先ほどの出来事を考察した。



魔力斬撃ブレードか……。いや、魔力を感じなかった。だが、確かに鋭い何かが……」


「……」


「……魔力では無い。だが、魔法でもない。アレは……」


「確かに、私では貴方に及ばないかもしれない。エアハルト」


「!」


「しかし時間稼ぎは出来る。貴方程度なら、私でもね」



鋭い視線を向けながらも挑発するケイルに、

エアハルトは思考する感情が乱されそうになる。

それすら相手の策略だと見抜きながらも、

その言葉なエアハルトの感情を逆撫でした。



「……俺を舐めるな」


「舐めているワケではない。ただ私は、貴方より強い男を知っている。それに比べれば、貴方の相手は楽だというだけです」


「それを、舐めていると言うんだ」


「……そうですね、本音を言います。格下相手にしか粋がれない男を見下して、何が悪いのです?」


「……なんだと?」


「ゴズヴァールを友と呼びながら、その実は挑み超える事さえできない臆病者。それが貴方でしょう、エアハルト」


「……黙れ」


「永遠の二番手。貴方は何処に居ても一番にはなれない。だから一番になろうとしない。そんな貴方の相手など、他の強者達に比べれば遥かに楽です」


「黙れッ!!」


「悔しければ超えてみなさい。強者への一歩を」


「……」



再び待ち構えるケイルの挑発に、

眼球を血走らせ怒りを露にするエアハルトは乗った。


両手の爪を走らせ魔力斬撃をケイルに飛ばし、

それをケイルが再び長剣を引き抜き、

見えない剣撃で迎撃する。


抜き放った長剣を収めないまま、

抜き身の状態で振り終わった剣の隙を突き、

エアハルトは魔力斬撃の後を追って走り出し、

剣を振り終わったケイルに爪を伸ばし切り裂こうとした。


しかし、その爪の腕が振り下ろされるより早く、

左手で引き抜いたケイルの小剣がエアハルトの胴を薙ぎ、

剣先も触れずにエアハルトの胸に一文字の傷を生み出した。



「……馬鹿、な……ッ!?」


「トーリ流、裏の型。『一閃之先さきのひらめき』」



胸の一文字の傷から流血が起き、

エアハルトは剣先に触れずに起きた傷を見て、

意味が分からないまま崩れ、その場で背中から倒れた。


それを見下ろしながら大小の剣を鞘に収め、

ケイルは倒れたエアハルトに告げた。



「……強者とは、常に挑む者。挑まぬ者に成長など訪れないと知りなさい」



そう告げたケイルは背を向け、

エアハルトを置いてその場から立ち去ろうとした。


ケイルが後ろを振り向き数歩ほど進んだ瞬間、

斬られたエアハルトは素早く起き上がり、

背後からケイルを人狼の口牙で襲い掛かった。


その餓狼の牙は、ケイルの首に狙いを定めていた。




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