それぞれの対峙


マシラ王を目的に侵入したアリアとケイルは、

闘士である第二席エアハルトと、

魔法師の第五席テクラノスの待ち伏せを受けた。


その窮地に現れたのは、

同じ闘士であり序列三位の少年闘士、マギルスだった。



「お姉さん達、待った?」



そのマギルスがアリアとケイルに向け、

笑いながら尋ねて聞くと、

文句を漏らすようにアリアが答えた。



「待ったわよ。いつまで高見の見物してるのかと思ったじゃない」


「ごめんごめん。でも危ない時に助けに登場した方が、女の人は嬉しいんでしょ。その相手に惚れちゃったりさ」


「頭がお花畑ならね」


「えー」



辛辣なアリアの言葉に苦笑いするマギルスは、

笑いながら改めてエアハルトとテクラノスを見た。

ケイルと一旦離れたエアハルトは、

マギルスを見ながら呟くように聞いた。



「……どういうことだ、マギルス」


「僕、アリアお姉さん達に味方するよ。その方が楽しそうだから」


「ゴズヴァールを裏切るのか」


「違うよ。ゴズヴァールおじさんは大好きだけど、アリアお姉さんの事も気に入ったんだ。だから助けるの」


「……」



そう笑って告げるマギルスに、

エアハルトは眉間に皺を見せるほど眉を吊り上げ、

怒りに近い形相を見せた。


そんなエアハルトを見据えて笑いながら前へ歩き、

マギルスは笑って後ろに居るアリアに話し掛けた。



「アリアお姉さん、さっさと結界を解除して進んだ方がいいよ。エアハルトお兄さん、本気で怒っちゃった」


「とっくにやってるわよ」


「四番目の人。エアハルトお兄さんは任せちゃっていいんだよね?」


「ええ」



ケイルの居る場所に並び立ったマギルスが、

同じく並び立つエアハルトとテクラノスを見た。


闘士序列二席と五席を相手に、

序列三位と四席が相対する事となった現在、

その情勢がどちらに好転するか分からない中、

アリアは玉座の扉を覆う結界を解除した。



「ケイル、マギルス。後はお願い!」


「頑張ってねー」


「頼みます」



玉座の扉を押し開けたアリアを背中で見送りながら、

ケイルとマギルスは短い言葉を送った。

扉の中に入り、扉が閉じた音が響いた後に、

エアハルトが敵対したケイルとマギルスに告げた。



「……こうなった以上、手加減はしない」



エアハルトが自身の体内にある魔力を開放し、

人の姿から人狼の姿へ変貌した。

狼獣族の姿となったエアハルトは凄まじい魔力圧を放ち、

目の前のマギルスとケイルに向けて敵意を発する。

テクラノスも光の輪を十個ほど展開し、

周囲に漂わせながらマギルスを見ていた。


五席から二席までの闘士の上位者達が集う中で、

マギルスが笑いながら話した。



「そういえば、初めてだね。五番目から二番目の人達がこうして揃うのって」


「……」


「六番目から十番目、そしてゴズヴァールおじさんは単純な力量差で席順されてるけど、僕達は強さ順じゃなくて、適当に並んでるだけだもんね」


「……」


「テクラノスお爺さんは、その数字が好きだから五番目。僕は三番目の人が抜けたから三番目。エアハルトお兄さんは誰もやりたがらないから、二番目になったんだよね。あれ、四番目の人はなんだっけ?」


「元老院が差し挟み、入り込んだ席順ですね」


「そっか。じゃあ単純な力比べって、二番目から五番目の僕等は一度だってしたことないワケだ」



そう思い出しながら話すマギルスは、

自身の大鎌の柄先を地面へ着け、

少年らしい悪戯心を含む笑みで、

大鎌を構えながら告げた。



「さっ、やろうか。みんな」



その声と共に飛び出したマギルスが、

テクラノスを大鎌を斬りかかる。

それを光の輪で迎撃したテクラノスだったが、

一瞬で光の輪を大鎌で切り裂き消失させたマギルスが、

テクラノス自身に斬りかかった。


しかしテクラノスは瞬時に結界を周囲に張り巡らせ、

更に別の光の輪を左右に飛ばしてマギルスを襲わせた。

それを払うように大鎌を切り裂いたマギルスは、

更にテクラノスが生み出し放つ光の輪を舞うように斬り続けた。


しかし光の輪は切断された後に瞬時に接着し、

光の輪はマギルスの周囲を囲みながら襲い続けた。



「アハハ!輪投げ遊びが大好きなの、テクラノスお爺さん?」


「何度切り裂こうと、貴様の鎌では、我の叡智の輪は切れぬ」


「そっか。じゃあ、こうするね!」


「!?」



マギルスは瞬時に光の輪の中に大鎌の柄先を入り込ませ、

全ての輪を束ねると同時に、柄先を床に突き刺して止めた。


それを見たテクラノスは驚きながらも、

瞬時に意識を切り替え、

光の輪を消失させて新たな輪を作り出した。



「また輪っか遊び?そんなのつまらないし、すぐ飽きちゃうよ。他のはないの?」


「……今、なんと言った?」


「え?だから、つまらないって」


「……我が手掛けた魔法が、つまらんだと……」


「だって、ただ輪っかを飛ばしてぶつけるだけでしょ。大したことないよ。お姉さんの魔法の方がずっと強かったし、不思議で格好良かった」


「……餓鬼め。我の魔法が如何に素晴らしいモノか理解もせずに……」



素直な感想を告げるマギルスに、

今まで冷静だったテクラノスが、

初めて怒りの感情を見せた。


長杖を掲げたテクラノスが光の輪を剣に切り替え、

明確な殺気を持ってマギルスと相対した。



「理解の足らぬ餓鬼に見せてくれよう。我の魔法の真髄を」


「そうそう、もっと僕を楽しませてよ」



一方でマギルスがテクラノスを自然に煽る中、

一方のケイルとエアハルトは互いに静かに見据えていた。


ケイルは腰溜めに足を広げ身を僅かに低くし、

長剣の柄に右手を覆うように付け、

全身を脱力させ静かにエアハルトを見据えている。


対するエアハルトも両手の爪の形状を伸ばし、

腰を落とし身体の力を極限まで抜いた。



「……」


「……」



王宮内の通路を破壊し、

外に飛び出たマギルスとテクラノスを他所に、

土埃が空間内を満たす中で互いの視界が遮られた瞬間、

エアハルトとケイルが同時に動き出した。


そしてケイルの右手に握る長剣が、

エアハルトの右爪に直撃する。

それと同時に左手に持つ小剣をケイルが振り、

エアハルトの胴を薙いだ瞬間にエアハルトが上に飛び、

蹴り足を飛ばしてケイルの顔面を狙った。


互いの剣と爪が身体を掠める中で、

エアハルトは右腿を、ケイルは左肩に裂傷が生み出される。


互いに互いの傷を見ようとはせず、

そのまま剣を引き抜いたケイルが駆け出し、

右手の長剣で突きながらエアハルトに追撃する。


それを回避するエアハルトは左右に身体をブレさせ、

剣の突きに合わせて蹴りのカウンターをケイルに浴びせた。


しかしそれを小剣で受けたケイルは、

飛び退きながら再び腰溜めに構え、

仮面を付けたまま息を整えた。



「ハァ……」


「……ケイティル。貴様、何者だ」


「……」


「貴様がどのような経歴を辿り、元老院と接触し、闘士の中に入り込んだかを調べた。だが、何も分からない。……貴様は、マシラ王にどんな執着を持っている」


「……貴方には関係のない事です」


「貴様の事で分かった事と言えば、王宮の近衛剣士として仕えていた僅かな間、とある女官と接触があったという、未確認の情報だけだ」


「……」


「そしてその女官こそ、アレキサンドル王子を産み落とした、マシラ王の恋人だった」


「……」


「マシラ王はその女官とは正式な結婚をせず、愛妾とし傍に置いていただけだった。……貴様とその女官、どういう関係だった」


「……」


「それが今回、貴様が裏切った理由か」


「……」



ケイルはエアハルトの述べる事に何も言わず、

再び構え迎撃に備えただけだった。

エアハルトは人狼の姿のまま鋭い眼光を向け、

再びケイルとの激戦に戻っていく。


こうして闘士同士の同士討ちに事態に発展する中。


玉座の扉を開け玉座の間に侵入したアリアの目の前に、

阻むように玉座の間にある段差で座っていた男が居た。

その男の姿を見たアリアは、

緊張にも似た戦慄を抱きつつ、静かに男の名前を呟いた。



「――……ゴズヴァール……」


「……来たか。魔法師アリア」



闘士の長であるゴズヴァールが玉座の間で、

アリアが来る事を予期していたかのように待ち、

二人は再び対峙するのだった。




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