なぞなぞ
王宮からの脱出を図るアリアは、魔法を使用出来なくする魔道具を身に付けたまま、少年闘士に追い詰められる。
時には少年が持つ大鎌が投げ放たれ、アリアはそれを回避しながら転がり、地面や庭園の草や枝で擦り傷を増やすも、魔法で癒す事も出来ずに逃げるしかない。
「お姉さん、まだ逃げるの?」
「ハァ……ッ、ハァ……」
「僕、飽きてきちゃったよ。反撃してもいいんだよ? ……あっ、そっか。魔道具で魔法を使えなくなってるんだっけ?」
「……ッ」
「魔法師って不便だよね。魔法っていう力があっても日に何度も使えないし、使うとすぐ疲れて倒れちゃうし。でも魔法が使えないと、とっても弱い人と変わらないよね?」
「……ハァ。ハァ……」
王宮内の庭園を走り続けるアリアに、少年闘士は鎌を回収して歩くように後を追う。
二人の距離が離れない理由。
それはアリアが王宮内の地理を理解しておらず、進路を妨害する為に少年が大鎌を投げる、少年闘士の絶妙なタイミングのせいだった。
少年闘士は遊んでいた。
そして、とある場所へ追い詰めるように誘導する。
アリアはそれを自覚しながら、意思に反して袋小路に追い詰められていく。
そして庭園の端へと追い詰められたアリアは後ろを振り返り、歩き追ってくる少年闘士と向かい合った。
「……ハァ……」
「あーあ。追いかけっこ、終わっちゃったね。遊びは終わりかな? お姉さん」
「……元々、遊んでるつもりはないわよ」
「そうなんだ。でもね、僕もあんまり楽しくなかったんだ。だって、お姉さんがつまらないんだもん」
「……」
「メルクっておばさんを、お姉さんが倒したでしょ? あの人ね、僕達の中では一番弱い人なんだ。でも、闘士の中ではそれなりに強い人だから、お姉さんは強いのかなって思ったんだよね」
「……闘士の中で強くて、僕達の中では弱い?」
「うん、闘士には序列があるんだ。その中で序列十席までの闘士が、闘士達の隊長を務める事になってるんだよ。メルクおばさんは序列十位。闘士長のゴズヴァールおじさんが序列一位で、次長のエアハルトお兄さんが序列二位なんだよ。ゴズヴァールおじさん、とっても強いんだ。僕がもっと強くなったら、絶対に勝ちたい相手でもあるんだよね」
「……そういうアンタは、序列何位なのよ?」
「僕はね、序列三位だよ」
「!?」
「そう。僕は闘士の中で、三番目に強いんだよ。驚いた?」
「……」
「でもね。僕はまだ子供だから、ゴズヴァールおじさん達みたいに、部下はいないんだ。でも部下なんていらないよね。だって弱っちい人と一緒にいても、つまらないし面白くないもん」
「……そう。それで、アンタは私をどうするつもりなの?」
「うーん、ゴズヴァールおじさんの命令だとね。お姉さんが逃げたら、捕まえるか殺しちゃっていいんだってさ。……お姉さん、どっちがいい?」
「どっちも嫌ね」
「お姉さん、僕より年上なのにワガママだなぁ。大人なんだから、どっちか決めないといけないんだよ?」
「大人ってのはね、二択を迫られたら、三択目も考えて選ぶものなのよ」
「三択目?」
「アンタを倒して、この王宮から逃げる。それが三択目よ」
そう告げたアリアは、向かい合う少年闘士に対して走り出した。
少年闘士はそれを驚きながらも、すぐに冷やかな視線へ変化した。
「僕を倒す? ……そういう冗談、好きじゃない」
両手鎌を構えた少年闘士は、走って近づいて来るアリアに怒りを含む視線を向ける。
そして十メートルの距離に接近したアリアは、手錠で固定された両手の中に潜めていた何かを摘み、両手を振って何かを少年闘士に投げ放った。
「!」
少年闘士はそれを回避した時、投げられた物の正体に気付く。
アリアが秘かに持っていたのは、一本の鉄釘。
何処でそんなモノを得たのかを考えた時、少年闘士は最初に鎌を投げた時に破壊した、木製で出来た物置の事を思い出した。
「あの時に剥ぎ取ったのかぁ、でも残念。外れたね」
投げ放たれた釘を回避して余裕の笑顔を見せる少年闘士だったが、走り向かって来るアリアに対して溜息を吐き出した。
「もう武器も無いのに。つまらないなぁ」
そして少年闘士はアリアの首を両断する為に、躊躇も無く大鎌を振った。
確実に大鎌の刃はアリアの首と体を分断できた……と、思えた。
しかし、少年闘士の大鎌は思わぬ形で防がれた。
「!?」
「誰が、魔法を使えないですって?」
アリアの体の外側を纏う何かが大鎌の刃を防ぎ止め、攻撃を阻んだ。
そして少年の懐に入って力強く踏み込んだアリアは、手錠で不自由な両手を敢えて使い、少年の顎へ掌底を喰らわせた。
「ッ!?」
「ハァッ!!」
精神的な衝撃と顎へ直撃した掌底の攻撃で、脳を揺らされた少年闘士は肉体的にも思考的にも硬直し、更に追撃としてアリアの右蹴りを胴に受けた。
少年闘士の体は後ろへ傾き、手に持っていた大鎌を離して地面に倒れる。
そんな少年闘士を見下ろしながら、アリアは吐き捨てるように述べた。
「何よ、アンタも大したことないわね」
そう呟いた時、少年闘士は笑顔を見せながらすぐに立ち上がった。
アリアはそれを見て数歩下がり、少年闘士と距離を素早く広げる。
笑いながら大鎌を拾い上げた少年闘士は、不思議そうな声で聞いた。
「お姉さん。さっきの、魔法の
「……」
「手錠の魔道具で、魔法が使えなくなってるはずなのに。どうして魔法が使えるの?」
「さぁね」
「教えてよ。僕、お姉さんにすっごく興味が出て来たよ」
「私はアンタに興味なんて無いわよ」
「酷いなぁ。僕に教えてくれるまで、絶対に逃がさないからね?」
大鎌を再び構え直した少年闘士は、今度は自分からアリアに攻め入る。
少年の華奢な体と不釣合いな大鎌が素早い速度でアリアに迫り、下から上へと鎌の刃が薙ぐ。
アリアはそれを飛び退いて回避すると同時に、再び少年闘士との距離を保った。
それを見た少年闘士は、アリアを見て笑いながら聞いた。
「今度は、
「……」
「手錠を嵌めたままでも
「……」
「ということは。さっきは使えて、今は使えない理由がある。そういう事だよね?」
「……ッ」
「当たりなんだ」
無邪気に微笑む少年闘士に不気味さを感じ、アリアは身構えながら前傾姿勢になる。
再び大鎌を構えた少年闘士は、微笑みながら攻撃を仕掛ける様子のアリアに尋ねた。
「あはっ。さっきは使えなかったけど、今は魔法が使えるの? それとも、ハッタリ? 教えてよ、お姉さん」
「教えないわよ、自分で考えなさい」
「ちぇ、ケチんぼ」
「謎ってのはね、人に教えられるより、自分で解くからこそ面白いんでしょ?」
「そっか、そうだね。じゃあ、お姉さんが死んじゃう前に、僕が絶対に解いてみせるからね」
そう微笑み伝える少年闘士に、身構えたアリアは再び突っ込んだ。
庭園で行われる二人の戦い。
この戦いの結末は、アリアが使う不可解な魔法が鍵を握ることになった。
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