闘士の頂点
闘士エアハルトとの戦いに勝利したエリクは、気絶したエアハルトを引きずりながら建物の正面から堂々と出て来た。
建物を包囲していた兵士達が気絶するエアハルトの姿を目にし、絶望にも近い表情と内情を見せる。
そんな兵士達に向けてエアハルトを地面に投げ捨て、エリクは兵士達に話し掛けた。
「おい」
「ヒッ……」
「コイツを、医者か回復魔法が使える者の所に運べ」
「……!?」
そう告げたエリクは再び歩き出し、兵士達は道を譲るように再び足を引かせた。
進む先は、まだエリク自身が踏み込んで居ない場所。
そしてアリアが囚われている場所を知っていそうな人物が居る場所。
城壁内の更に内側に建設された、マシラ王族が住む王宮だった。
エリクの服には兵士や闘士達の返り血が付着し、様々な汚れと共に影を落とす表情に合わさり、制止しようとする兵士達に不気味さを感じさせた。
「……ば、化物だ……」
そんなエリクを見ていた兵士が、目の前を通り過ぎる相手にそう呟く。
化物と揶揄されるエリクは気にも留めず、立ち塞がる兵士と残った闘士達に諸共せずに、王宮中央へ続く小門に辿り着いた。
再び大剣を振るって門を破ったエリクは、一本に続く道を辿り進み続ける。
その道中、立ち塞がっていた男を見た。
相手の男の体格はエリクをやや上回る。
エリクと同じく漆黒の髪と褐色より深い黒の肌に覆われた筋骨逞しい肉体が、黄色い装束を纏っていた。
その大男と対峙して立ち止まったエリクは、背負う大剣を再び右手で抜き、諦めに近い心境ながらも、呟くように聞いた。
「お前は、捕まえた女が何処にいるか、知っているか?」
「……」
「……そうか。なら、いい。……この国の王に、聞くまでだ」
目の前の大男に興味も無くなったエリクは、そのまま歩いて大男を通り過ぎようとする。
邪魔をすれば攻撃するつもりで。
そんな諦めにも似た面持ちで歩き、影を落としたエリクの顔を見ながら、闘士の大男はエリクに対して、こう述べた。
「あの女なら、俺が捕らえた」
それを聞いた瞬間、エリクは動きを止めた。
そして影を落とした顔を上げ、怒りを宿した表情と瞳を見せた。
「……お前が、ゴズヴァールか?」
「そうだ」
「アリアは何処だ」
「答えると思うか?」
「答えろ。アリアは無事か」
「……ふっ。無事だと思うのか?」
エリクの問いにゴズヴァールが鼻で笑って答えた瞬間。
凄まじい速度でエリクが飛び掛かり、目の前のゴズヴァールに向けて本気で大剣を振り下ろした。
大剣が齎す衝撃と轟音が周囲に鳴り響く。
しかし、エリクは信じられない光景を目にした。
怒り任せで力の全てを振り絞った大剣の攻撃が、ゴズヴァールの右手だけで受け止められたのだ。
地面には凄まじい衝撃が現れるように地割れしていたが、ゴズヴァール本人は無傷のまま口元をニヤリと歪ませる。
そして大剣を受け止めた手で刃を掴み、エリクごと振り回しながら正面へ投げ飛ばした。
投げ飛ばされたエリクは驚きながらも転がって着地し、再び大剣を構えてゴズヴァールに向き合う。
そんなエリクに対して、ゴズヴァールは声を向けた。
「強いな。人間にしてはよくやる」
「……お前は、人間ではないな……」
「フッ、そうだ。俺は人間じゃない」
「……」
「魔人だ」
そう答えた瞬間、ゴズヴァールの周囲に何かが巻き起こった。
暴風にも近い何かが熱気を持つように巻き起こり、大剣を向けるエリクに対して敵意として襲い掛かる。
奇怪な風を受けたエリクは、ゴズヴァールから魔獣と似た溢れ放たれる力を感じた。
その風が収まった時。
ゴズヴァールの肉体から、先ほどまで感じられなかった凄まじい威圧感を漂わせている事をエリクは感じた。
この時に初めて、エリクは目の前の男が恐ろしい存在だと認識した。
「……魔人、だと?」
「人と魔族が交わり生まれた、半魔の血。……冥土の土産に教えてやろう、力に自惚れる侵入者よ」
「……」
「魔人の……。いや、魔族の強さを、存分に味わえ」
ゴズヴァールがエリクに向けて歩み出し、咄嗟に胸の内にあるナイフを手に取ってエリクは投げた。
ゴズヴァールは苦も無くそれを掴み、素早くエリクに向けて投げ返す。
顔面に直撃しそうなナイフをエリクは紙一重で回避したが、態勢を崩した瞬間に凄まじい速度で走り寄ったゴズヴァールに胴体を右拳で打ち抜かれ、飛ばされた。
「グ、ガ……ッ!!」
拳が直撃した左脇腹が凄まじい痛みを放ち、受け身も取れずに道を転がりながらも大剣を地面に突き刺して停止したエリクは、打撃の痛みと共に喉から昇って来る血を吐き捨てた。
そして痛みに耐えながら立ち上がったエリクに、ゴズヴァールは再び話し掛けた。
「どうした、もう終わりか?」
「……ッ」
「……王宮へ無断で踏み込み、マシラの血族に害を成す侵入者。貴様は、生かして帰さん」
ゴズヴァールは凄まじい威圧感を放ちながら、エリクに向けて歩み寄って行く。
痛みに耐えるエリクは、圧倒的なゴズヴァールを見据えながら立ち向かった。
アリアを救い出す為に。
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