魔石の価値


 互いの武具を買い終えたアリアとエリクは、続けて旅の必需品を買い揃えようとする。

 幾度も商店や市場を覗き込むアリアに対して、エリクは次に必要な物を問い掛けた。


「――……今度は、どんな物を買うんだ?」


「まずは野宿用のテント。それから寝る為の寝具……は、流石に無理だから。枕代わりに出来たり敷ける毛布とか。ここに向かうまでの野宿生活で思ったけど、ちゃんと汚れずに横になって寝たいもの」


「俺は別に、座ったままでも寝れるが」


「私と貴方じゃ、慣れが違うのよ。宿で思ったけど、私はベットでぐっすり眠りたいわ。疲れの取れ方が違うもの」


「そういうものか」


「そういうものよ」


「そういえば、君と会った時には手荷物くらいしか持っていなかったが。逃げる準備をしたのに、他の荷物は持って来なかったのか?」


「……馬が途中で倒れた話は、したわよね?」


「ああ」


「その時に、抱えきれない荷物は大半を置いてきちゃったの。旅用の品をほとんど、馬を埋めた近くに隠したままよ。持っていけたのは、食料と水と金銭。後は最低限必要なモノと、私自身だけ」


「そうなのか」


「今度は外で野宿する事になっても、絶対に横になっても汚れずに寝れるようにするのが最低条件! それから、魔石を売ってる場所も探しましょう」


「魔石か」


「魔石は、流石に知ってるわよね?」


「それは知っている。魔物や魔獣の心臓部にある石の事だろう」


「そう。魔石には魔力が内包されていて、魔力を流して使用できる魔道具に設置して使えば様々な効力を発揮できる。魔石は基本的に使い捨てだけど、魔道具さえあれば誰でも簡単に使えるのよ」


「……よく分からないが、便利なものだというのは分かる」


「王国に、そういう魔道具モノは無かったの?」


「……そういえば、貴族の住んでいる貴族街や城は夜中でも明るかった。そういう道具を使っていたのかもしれない」


「他の場所は? 平民とかが暮らす場所とか」


「そういう物は、見当たらなかったと思う。夜中は暗く、必要なら火を灯していた」


「そう。……貴族だけが魔道具の技術を使って、平民には行き渡らせてないのね。本当に嫌な国ね、ベルグリンド王国って」


「そうか?」


「そう……思うけど、貴方の出身国なのよね。あんまり悪口を言っちゃうのは気分が良くないわよね、ごめんなさい」


「別に、謝らなくてもいい」


「そう?」


「ああ」


 そんな会話をしながら歩く二人は、見回る店で必要な物を見つけては購入していく。

 するとそうした中で、魔石を取り扱う彫金屋を発見した。


 アリアは安く小さな灰色の魔石を麻袋に入れられるだけ購入し、エリクが提げる鞄に持たせる。

 そして店を出た二人の中で、エリクは疑問を浮かべながら問い掛けた。


「……この魔石は、灰色だな。他の色は買わないのか?」


「あら、色の違いがあるのは知ってるのね」


「ああ。だが、色が違うと何が違うのかは知らない」


「私が買った灰色の魔石は、魔力がほんの少ししか入っていない安物の魔石よ。でも私が魔力を込めれば、簡単に属性魔石になるのよ。それに各属性の魔力を込めれば属性魔石として元出より遥かに高く売れるし、構築式を刻んで魔法の能力ちからを込めれば魔道具アイテムとしても使えるのよ」


「属性? 魔法のちからを込める?」


「ああ、それも知らないのね。魔法師が魔法を使う時には、それに合った魔力が込められた属性魔石が必要なの。『魔力』っていうのは空気中に存在する気体よりも遥かに細かい粒子っていうモノでね、その粒子を意図して人工的に保存する事がほぼ不可能なんだと云われてたんだけど。私はそれがおかしいと思って、人工的に魔石を作る技術を開発したのよね。魔法師は自身の体を媒介にした構築式を用いて魔力を集められるから、魔法師が魔石に触れながら魔力を流し込むことで魔力を保管できるようにした――……」


「……ぁ、ああ……そうか……」


「……分からないわよね。ようは、魔法の力を溜め込めるのよ。魔石って」


「魔法を溜められるのか。凄いな」


「ええ。天然物の魔石には魔力が込められた魔石があるんだけど、豊富な魔力が込められてるわけじゃない。でも簡易的に魔石を作るだけなら、魔法師が魔力を魔石に込められる。使い捨てだけどね。でも前もって属性魔力を込めた魔石を準備しておけば、色んな事に使えて便利なのよ」


「そうなのか。……君が持っている杖も、そうなのか?」


「そうよ。私の杖に取り付けてあるのは、光属性の魔石。私がその系統魔法を呪文として唱えただけで、貯蔵している魔力を代価に発動できるのよ。魔力自体は私が溜め込んだものだけど、この杖に使っているのは上級魔獣の魔石だから、短時間に過剰に魔石を酷使しない限りは、私がお婆ちゃんになる頃でも十分に使えるわ」


「便利なんだな、魔石とは」


「そうよ。弱い魔獣の魔石でも銀貨一枚。上級魔獣ハイレベル王級魔獣キングから出る高純度の魔石だったら、下手すると金貨を積んで数千や数万にも及ぶ金額になるわね」


「そ、そうなのか?」


「……貴方、魔獣とか倒してたのよね。倒した魔獣の魔石は、国に渡して売ってたの?」


「ああ。だがどんな魔石でも、どれだけ多く大きな魔石を取ってきても、貰える金はさほど変わらなかったと思う」


「うわっ、ピンハネもいいとこじゃない。前言撤回。王国ってやっぱり最低最悪だわ」


「そ、そうか」


 魔石の価値について話すアリアは、エリクの話を聞いて王国に関する嫌悪と悪態を吐き出す。

 そして二人は必需品を買い揃え、自分達が持つ鞄に詰め込んだ。


 大荷物となった為に宿屋に戻った二人は、荷物を置いてから昨日の診療所に向かう事を決める。

 再び宿を出て夕暮れの港町を歩く二人は、報酬を貰う為に診療所へと向かった。


 その際、宿屋を出たエリクは周囲から奇妙な視線を幾多も感じる。

 それが自分達に向けられた視線であると気付き、周囲を見回しながら気配を探り始めた。

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