第14話 会敵:少女

 イェンドに着いてからは、とにかく情報を探した。天使に関すること、悪魔に関すること、なにかしら知っている人がいるかもしれないと思ったからだ。成果は芳しくなく、交易都市ならばと期待していただけに、落胆した。

 イェンドは中央に、豪商イェンドブレナ家の館が聳え立ち、それらを見上げるように、港で働く人たちの住処が取り囲んでいる。イェンドブレナ家は歴史が長く、古くからこのあたりの海を取り仕切ってきたらしい。要は、この地域の王様なのである。そんな由緒正しい家柄ならば、何か天使に関する伝承でも知っているかと考えたけれど、イェンドブレナ家の警備は厳しく、外部の人間が取り入る隙はなかった。僕は路頭に迷って、ベンチで頭を抱えてうんうんと唸るしかなかった。


 「ねぇ、なにしてるの?あなた」

 頭上から声をかけられた。頭を上げると、薄いゴールドの長髪を携えた少女がこちらを覗き込んでいた。よそものだと一見して分かる僕に遠慮なく声をかけるとは、肝の据わっている。

 「ねーえー、なにしてたのー?」

 「いや別に何も…ただ、おなかが空いてて…」

 適当な嘘でごまかしたが、これがよくなかった。

 「おなか空いてるの!?それは良くないわ!いいお店を紹介してあげる!」

 彼女は僕の手を取って、強引に歩き出した。

 「私、ミラ。よろしくね!あなたは?」

 「…レドだ。」

 ミラは大股で商店街へと向かっていく。


 「ここはね、イェンドの港で取れた魚介類と、交易品の香辛料を使った料理が楽しめるお店なの。特におススメはイェンドタラとアルネール貝のアクアパッツァね。貝のダシと香辛料の風味が丁度よくマッチしていて、本当に絶品なんだから!魚介のほかにも、交易で流れてきたチーズ料理も美味しいわ!とろとろのチーズとブレッドの相性ときたら、ボルド神とケルド神も嫉妬するくらいよ!それとそれと、デザートも美味しいわよ!ここのミルクはね…」

 ミラの話は留まることを知らなかった。ど、どうしてこうなった…

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拝啓、祖国が滅ぼされたのであなたの国を滅ぼし返しに参ります。 グッドバイ左衛門 @goodbyezaemon

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