魔であり闇である存在と、女神の落とし子と呼ばれる少女の、世界の命運をかけた愛と救済のハイファンタジー。緻密な筆致により描きだされる情景と、背景に一癖二癖ある登場キャラたち、愛憎渦巻く壮大なストーリーが魅力の物語です。
闇につけ狙われ両親を失った少女・シェリルは、仇を討つため、失われた呪文である「天使召喚術」を試みます。召喚は成功したものの、現れたのは不機嫌そうな若い男性。それも、神に仕える少女ならドン引き確実な格好の。以下、本編より引用です。
「ひとつに束ねた珍しい紫銀の髪。そのさらさらの髪の隙間から覗く淡いブルーの瞳。一見するとこの世のものとは思えないほど美しく整った容姿だ。しかし背中にあるはずの翼はなく、なぜか上半身裸。そして極めつけに、首筋には言わずと知れた真っ赤な口紅の跡。」
当然シェリルは彼が本物の天使か疑うわけですが、カインという名の不良天使は契約の影響ですぐには天界に帰れず、なし崩しのまま二人は行動を共にすることになるのでした。
序盤はシェリルとカインのやり取りにほっこりさせられることも多い本作ですが、中盤以降、物語はシリアス度を増し、悲しみや犠牲が積み重なっていきます。敵は容赦なく、味方は内側から崩されてゆき、絶望が世界を覆ってゆく。
そんな過酷な運命にあって、恋も知らぬ少女だったシェリルは、愛を知り救いを願い、本物の聖女へと成長していきます。
命を賭けた戦いの先、彼女は愛するひとを救えるでしょうか。大長編ではありますが、完結していますので安心です。ぜひご一読ください。
先が予測できそうでできない物語はこれです。
まず何から話せば良いのか、それすら分からなくなっている。
光と闇の戦いが繰り広げられる話はいくつも読んだ事がある。
でもこれは違った。
もっと内部に……それこそ奥底深くに入り込み、もっと感情をかき乱す感じなのだ。
初めは何故? という感情でいっぱいになるのだけれど、そのうち主人公が歯痒くなっていく、それでも次には脇役であるはずの別な人物が心の中に住み始め、彼らの生き様とその理由を知る事になる。
苦しい気持ちの中に何があったのか、知るうちにもう抜け出せなくなるのです。
この感情の揺れや思いを共有している気にさせられ、救いを求めるようになる。
光はそこにあるはずなのに、何故手に届かないのか……
手にしているのに何故救われないのか……
読むうちにどんどんその理由を知ることになり、そして……
彼らの中にあるものを確認してほしい。
その理由と彼らの行動と思いを知った時、きっと何かが見えるはずです。
彼らは救われるのか否か……