第8話 戦後日本最低の出版社、その呆れたヤリくち
両親の離婚により、私は一歳の時に南埜宏・フジヱ夫婦の養子となったことや、相続放棄書の偽造という不正手段によって私の実父・中尾悦治郎に対する相続権が侵害され、実父が生前有していた不動産等に対する権利が消されていたことは既に各所で述べた。
24年前というと私が40代の時であるが、ようやくこの年に、侵害された相続権を回復し、実父所有土地の一部を私名義に書き換えることが出来た。相続権を侵害されて23年後のことだった。その回復不動産の一部・約400坪の土地につき、戦後日本最低とよぶべき区画整理が行われ、大学で行政法の講座を担当してきた私としては当然の成り行きであるが、区画整理組合が指定してきた仮換地に対する処分の取り消し訴訟を起こした。結果、不利益を被る暴力団関係者や不動産業者、それに区画整理組合関係者からの脅しや嫌がらせ、その他もろもろの災厄が身に降りかかってきたことは第4話の〈和泉市立小栗の湯事件その1〉で少し述べさせてもらった。私の生身へのトラック激突事件が起こり4カ月近い長期入院を余儀なくされたこともそこに記述して、この戦後日本最低の区画整理に興味を持たれた方は【《堺を食い物悪人》の悪事は《耳原病院が謝罪し、一千万を支払った理由》に詳しく書きました】をネットで検索してもらうと、youtube上で、驚愕の事実が広域暴力団の相談役と称する男によって語られていることも書かせてもらった。
本話ではそこで引用した、孫たちが呆れかえっている出版物に関する出版社の話題について触れたいと思う。よろず相談ネットの対象とするには、まだ具体的な相談というか働きかけはなく、異例の対象掘り起こしのような形になってしまったが、相談を持ち掛けたいと考えている多くの方々の存在が分かっているだけに、証拠を握っている私が問題提起を兼ねて、何とも呆れるほど類(たぐ)い稀な出版社を本話に登場させることにしたのだ。
「ね、ジイジ。大ジイジの医療事故を扱った本、結構評判を呼んでいて、未だにネットでもネット書店が大々的に宣伝しているけど、印税はかなり入ったの?」
以前から出版には興味津々のひなが、亡くなった大ジイジの話題が出たのを機に懸案事項を口にした。大ジイジ死亡の医療事故については、ひなもつつも生まれる前の事故で、母親の祥子と雅子の記憶には鮮明で許し難い出来事であろうが、孫たちには書物を読んだレベルの印象しか現時点では刻みつけられていない。ただ、身内に降りかかった衝撃的な事件であることから、徐々に深刻な影響が生じてくるであろうことは、ジイジたる私は覚悟している。
「さあ、どうだろうね。出版社の言い分ではほとんど、というか全く売れていないということになるのかな」
私は収集した資料とそれに基づく自己の結論を孫たちに述べるより、この類(たぐい)まれというか、およそ経験したことがなかった出版社の行為について、彼女らの分析と判断力を試してみたくなった。
「エッ! あんなに注目を浴びた書籍で、現在もネット上で売られているというのに?」
昼食後、くつろぎを兼ねた我が書斎でのコーヒーブレイク。ひながカップをテーブルに戻し、驚きの声を上げる。実際彼女の友人たちも結構買ってくれているのだ。
「な、ジイジ。現在も出版社とは契約は続いているん?」
つつもひなの隣の席から、自分の入れたブルマン(ブルーマウンティン)を一口すすって、私に怪訝顔を向けた。不正を嗅ぎつけたときの鋭い光がつつの双眸に宿っている。こういう表情のつつとひなを見ると、ジイジたる私は少々というか、可なり圧倒されてしまい、彼女らはFBIの女性捜査官か女性検事になるべく生まれてきたのではないかとの錯覚に陥ってしまうのだ。
「いや、とっくの昔に出版社とは契約を打ち切ってしまっているよ」
出版から半年後に168冊売れたとの報告があり、その分の印税が振り込まれていたが、しばらくして25冊の返本があったのでその分の金額を返金してほしいとのメールが届いた。私が体調を崩していた時期であったことから、バアバが気を利かせ、私に無断で出版社に言われた金額を送金してしまった。
「出版契約が打ち切られた書籍がまだ売られているというのも驚きだけど、返ってきたという25冊も提示せずに、お金だけ返せって言うのは全くもってどういう了見かしら。ね、ジイジ。そもそも一度払った印税を返せって言うのは、異例のことじゃない? ジイジはこれまで六冊出版しているけど、五冊を出した出版社はどうだったの?」
「一度支払われた印税を返せって言ってきた出版社は一社もなかったね、ひな。でも今度の出版社は、契約条項に書いてあると言い張るんだよ。だから細かいところに書いてあるんだろうけど、ま、他の出版社の担当者達に聞いてみたら、一度支払った印税を返せっていうのは普通の出版社では聞いたことがないとのことだったよ」
「な、ジイジ。ひなが言うように、返本冊子も提示せんと25冊返ってきたからお金を返せって言うんも社会常識から大きく離れるけど、書店で売れた書籍が返本を受けて、著者に支払った印税の返還を請求するっていう問題。これが起こりうるんは滅多にないことなんじゃない」
「そうだろうね。そのこと、つまり売れた本が返本を受けて著者に支払った印税の返還を請求するという問題と、自費出版の場合は著者が出版費用を負担していることから、滅多に起こりえない返本書籍の印税の払い戻しリスク。これは出版社がかぶっても、というかその程度は負担するのが道義だし、またいつか注文が入ることから、いちいち支払い印税の返還請求をするのは、再度の印税支払いを考えると二度手間になるということなんだろうね」
「じゃ、ジイジ。印税を返せっていう出版社は、見方を変えると、吸血鬼みたいなことをする出版社ってことになるんじゃない。返本書籍も提示せず返金をさせ、しかも再度の注文が入っても、そんな出版社は当然、その分の印税はまず払わないだろうからね」
確かにひなの言う通りで、既にこの段階で、出版社の実体というか本性がまる分りになってしまう。
「ねえ、ジイジ。以前、でたらめ出版社の不正についてまとめた本、追い詰めゲームの形式だったんやけど、ひなと一緒に読んだことがあるの。ちょっとひねったズルというか、小ズルをするんやけど、結局、幼稚なやり方ですぐ不正が分かってしまうんよね。けど、本を出した人たちは滅多に気付かないから不思議やわね」
確かにつつの言う通りで、かなり有名な人たちも問題の出版社から本を出しているが、私のような証拠を握っていないからか、問題にしようとする動きはまだ私の耳には入っていない。
「そうだったわよね、つつ。経営難で印税を支払えない出版社は、だんまりを決め込むか、騙して支払いを先延ばしにするんだけど、小ズル出版社は最初、疑われない程度の、ほんの少しだけ印税を支払うのよね。それから後は、だんまりを決め込むか、騙して支払いを先延ばしにする。先ほどのパターンよね。ところが強欲吸血出版社は、少し払った印税すら噓をついて取り戻そうとするのよね」
どうやら、孫たちには幼稚な出版社の謀(はかりごと)はお見通しのようである。
「な、ジイジ。その出版社って、ジイジに支払った168冊分の印税、あそうや、バアバが25冊分を返金してるから、143冊分ってことになるんやね。それすらも取り戻そうと必死になってんじゃないの?」
「そうだね、つつ。より正確には、実際に戻ってきましたって、2冊分が宅配で送られてきたので、その分の2冊を引いた141冊分ってことになるけどね」
「なんか、今までの話を総合するだけで、すごい出版社ってことが分かるね。先の25冊分は知らんぷりで、細切れに少しづつ取り込もうとする卑しさ。なんか、卑しさもピカ一ってことね」
ひなの言う通りで、紙文化の担い手なんてもんじゃなく、まさに哀れな書き手たちの生き血を吸う、吸血鬼まがいの出版社というレッテルを張られても致し方ないのかなと思う。
「そんな出版社は、在庫の保管でもあくどい儲けをするんが通常やけど、出版契約を打ち切ったんは、それと関係があるんやよね、ジイジ」
まさにつつの言う通りで、保管費用として年、10万円余りを請求してきたので、私が契約を打ち切るというと、返本のたびにその分を着払いで清算すれば安価で収まると提案してきた。それが先ほど述べた2冊分の宅配で、この段階で、出版社の実体や意図が鮮明に私の脳裏に描くことが出来たのだった。もっとも、孫たちは私よりはるか以前に出版社の実体や意図を読み切っていたのだから恐れ入ってしまう。
「で、ジイジは出版社の幼稚な数合わせの出鱈目に気付いた段階で、出版社の実体と意図が明確に把握できて、出版契約の解除という結論に至ったわけね」
まさにその通りで、その後は宅配で送られてきた返本書籍と称するものも、すべて受け取りを拒否したのだ。
「結局次に出版社が打ってくる手は、在庫分を引き取れっていうことやろけど、その点ではどんな不正でジイジからお金を巻き上げようとしたん?」
正につつの予想通りで、出版コードであるISBNコードを持つ東京の出版社の倉庫から直接送ることになるから、送り賃として10万円程度の請求額を提示してきた。が、何故か堺の本社へ取りに来てくれと主張が変わってしまった。
「その理由は、ジイジにはもう分っているんでしょ」
ひなの苦笑いに、私も苦笑いを返してしまった。孫たちはジイジたる私より数段頭の回りが良いようで、逆に言えば、当方の頭がかなり錆び付いていることがよく分かったのだった。
「結局、その出版社は契約数よりかなり多くを刷って、その分を着服するつもりやったんやけど、先手を打たれて、契約を解除されたんで、慌てたんやろね。だけどまだ売れる本やから、東京の倉庫から送らせるより、自分とこで保管してた分を取りに来させた方が得やと思って、そういう手段を取ったんやろね。大体、そんな出版社は格安印刷所を支配してるか、格安印刷会社の子会社であることが多いんで、簡単に著者に無断で印刷できるんやよね。だから注文が入るたびに一々東京へ送るより、東京に置いてある在庫で処理した方が安くつくし手間もかからへんてことやね。でもまあ、ホンマに、えげつないな」
つつが呆れ顔でため息をついた。卑しさもここまでくると、何とも言い表しようがない。もう少し頭をめぐらし欲もほどほどに抑え、しかも小学校レベルの算術計算能力を身につけていれば、何とか逃げ切りを図れたかもしれないのだが。
さて、戦後日本最低の出版社の行く末やいかに。明らかに刑法犯罪としての詐欺罪を繰り返し、大量の被害者を生み出してはいるが、起爆のきっかけが読み辛い。被害者が生活に困窮した社会的弱者なら未だしも、文士気取りの教養人(?)が被害者なのだ。
―――どっちも、どっちか。
騙すアホウに騙されるアホウ。同じアホなら、騙さな損、損という訳には行かず、早々と出版契約の解除という形で踊りの輪から抜け出はしたものの、詐欺罪での告発に対する私の腰の重さは一向に変わらなかった。
「ね、ジイジ。最後に聞きたいんだけど、そんな出版社に特徴的な行動態様があるのよね。まず第一に、評判本の出版契約をするに際して、さほど大きくない出版社なのに、社長が契約に顔を出さないというか、立ち会わないのよね。もちろん不正をする腹つもりなので、出来れば親しくなりたくないって意図でしょうけど。ただ、もっと恥知らずの強欲出版社の場合は、社長自ら立ち会う場合もあるけど、そのときは表情なんかで、意図が読み取れるのよね。それから次に第二の行動態様として、そんな出版社は担当者をころころ変えるのよね。実際に売れてる部数が知られると困るし、著者と親しくなられると不正発覚の可能性が高まるから。ジイジの出した出版社は、第一、第二の行動パターンはどうだったの?」
ひなの問いに、私は脱帽の思いで、苦笑いを返すしかなかった。
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