イカロスの羽
かけ出し
イカロスの羽
ヤァ、イカロス君じゃないか。
そんなに急いでどこへ行くんだい?
ナニナニ…?蝋の翼を作って空を飛ぶために?蝋を調達してるところだって?
アハハ!何をバカなことを言っているんだ君は。蝋で作った翼なんかで空を飛べるわけがないじゃないか…
相当な重さになるだろうし、硬くてうまく翼を動かせないよ。第一太陽に近づいたら蝋が溶けて落ちて仕舞うじゃないか…
ナンだって?地面から離れれば離れるほど気温はどんどん下がるだって…ナニを言っているんだ君は。太陽に近づくんだからどんどん暑くなっていくに決まってるじゃないか。
じゃアあの山の雪はなんで年中解けないんだだって?ソリャアお前、あれは氷で出来ているからさ。この世は大きなコップになみなみと注がれた海、そして浮いている氷の上に出来ているからだよ…
…何をそんなに高笑いしてるのかね。失敬なやつだな君は。じゃあ地面も冷たくないとおかしいだって?フン、そんなことか。この氷はね。特別な素材でできていて、水に近づくと暖かくなって、上に行くほど冷たいのだよ。もしこの地面が氷じゃなかったら、潮の満ち引きはなぜ起きるのか説明できるか?できないだろう。やはりこの地上は特別な素材の氷でできているのだよ。
…これでもまだ一笑する気かね。マァいい。話を元に戻そう。
そんな蝋で出来た出来損ないの翼なんかで空は飛べないよ君。仮に飛べたとしても太陽の熱で溶けて地面に叩きつけられるのがオチだ。第一翼なんか作らなくたって人間は羽を持っているんだよ。
オヤ、やっと興味を示してくれたね。
人間は長い年月で飛び方を忘れてしまっただけなのだよ。背中の肩甲骨がその名残さ。
本来人間はそこに羽があって、自由に空を飛んでいたんだよ…
嘘みたいな話だって?でも事実なのさ。
ただ、素人は勘違いしやすいが、肩甲骨は羽が退化した姿なんかじゃないってことなんだ。
あすこに入っているのは羽を作る卵なんだ。
何をバカなことって?マァマァ年寄りの話はゆっくり聞くもんだ…
人間が進化する上で退化してしまった羽は卵という形に姿を変えてね…いつでも羽に変わる機会を待っているんだ…
でもこの羽の卵を返すのが至難の技でね。暖かい場所でじっくりと育てるんだ…そうさなぁ、大体5年といったところだ。
ナニ?そんなに待てないだって?そりゃそうだ。肩甲骨は皮膚のすぐそこにあるから冷えやすくてね。だから大抵の人はすぐに冷ましてしまうんだ。卵を返すには5年間ずっと同じ暖かさで育てないといけないからね…
でもいい方法があるんだよ。これなら2年足らずで卵を返せるんだ。
…マァそう急かさないで。チャンと教えてあげるから。それは肩甲骨の卵を、お腹の中にしまってしまう方法なんだ。この方法を使うと、肩甲骨がスッカリなくなって、のっぺらぼうのような背中になるのがブサイクなんだがね… でも実際卵を二年と三ヶ月で返した男がいるんだ。私が方法を教えたんだがね。
キミちょっと肩のところを内側にもぐりこむように回せないかね?…ちがうちがう。もっと内側に…ソウソウ。うまいじゃないか。この体操を三ヶ月もしていれば、卵はスッカリお腹にしまい込めるようになるよ。
ただ、その男は卵をうまく返せたはいいが、かえる段階で肩甲骨に戻せなくてね… このままだとかえった羽が内臓を圧迫して死んでしまうので、私が背中のところをザクザクと切ってあげたんだ。幸い羽はうまく出たんだが、彼はショックで死んでしまったんだ… ちょうど羽が赤く濡れて、悪魔のようだったよ ハハハ…
…エッ?もしかしてそれは二年前の事件で死んだミノスのことじゃないかって?
そうだとも。よく知っているね。ただこれは失敗例でね。キミのようなガッシリした体格だと間違いなく成功するはずだよ…フフフ…
なんだね?そんなに青ざめて。ア!チョット待ちなさい!…行ってしまった。
マッタク。最近の若者は年寄りの話をチャンと聞こうともしないからいけない…
サテ。今日は沢山喋って疲れてしまった。もう帰ってお茶でも飲んで休むことにしよう…
とはいえ、ヤレヤレ…最近の若者はマッタク ブツブツ………
イカロスの羽 かけ出し @KATAZURI
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます