朝起きたら男女比狂って美少女に好かれた

小笠原 雪兎(ゆきと)

完結一話



 俺は赤羽翔。羽根が一杯合って五月蠅そうな名前だと自分でも思う。

 今日学校に行くと…全てが変わっていた。女子のお喋りのグループが少ない、どころかひとつしか無い。

 その周りを男共が囲んでいた。

 別に危害を加えている訳でもなさそうだし、女子も気持ち悪がっていないみたいだ…。


「よっ!翔おはよう!」

「お、おはよう…あぁ、大川。お前これどういうことだ?」

「え?」

「いや、なんで囲んでるんだ?」

「そりゃ決まってんだろ!藤原様が会話していらっしゃるんだぞ!」

「会話…?いつもの事じゃね?」


 藤原は確かに会話しているが…。


「あぁ、お前華咲さん推しか」


 いや、華咲推しかどうかってまぁ華咲推しではあるけどってそうじゃないだろ!


「あんな取り囲んで女子達よく普通にしてられるよな」

「…あぁ、そういうことか、まぁ確かに…」


 おぉ!お前も分かってくれるか!よかった!女子の比率少ないよな!?

 何でか知らんけど知らないヤツはいないし消えたと思うヤツもいないけど!


「男の身に立って考えれば異性に取り囲まれるってのはキツいかもな。でも人数が少ない女子から見ればそうでもないかもな?」


 そっちじゃ無~いっ!ってツッコミを入れられる人間はいない。

 まさか…意識的な転生か!?確かに前世の俺を思い出せない!


 いや、普通に前世を思い出せたらすげぇよ。うん。でもそもそも普通なら"転生"とか思いつけないよな?


「えっと…」

「ちょっ、お前の所為で藤原様を見る時間が減った!」


 …いやオカシイだろ…この世界では常識でも、俺は許せん…。


「おい!おまえら!」


 集団に話しかける。一斉に男共が振り返って、女子の会話も止まる。ここで話しかけるのはコワイ。

 でも…言い出したなら言い切るしかない。


「普通に考えて取り囲むのはどうだ?いくらボディタッチをしないからと言ってもそりゃないだろ!うん!

 ぜってぇオカシイって!だからさ、自席から外を眺めるのを装ってちょっと見るのが限界なんじゃねぇのか?

 それが…」


 言いたいことを言ってから、肌に刺さる無数の視線に気がつく。やっちまった…。


「それが?赤羽君、続きは?」


 清楚系、綺麗なロングストレートのブラックヘア、女子の中では高身長の華咲。

 ナニイッテンダコイツ?って顔をしていた男子共が騒ぐ前にそう促される。


「そ、それが…」


 あと…普通に言うのが恥ずかしい。


「こ、恋ってもんだろ…」


 同時に呆れた目を体中に感じた。やっぱ言わなきゃよかった。多分華咲も…。


「ぷっ…ふふふ…ふふっ…あははははっ」


 こんな笑い声…聞いた事ねぇ…いつもクールな華咲が…。


「赤羽君面白いわね。そんなの言われたの初めてだし…くくくく…。

 恋って…ハハハッ…藤原さん…」

「…私には面白さが分からないです」

「そう?じゃあ仕方ないな~。あ、作ってるのバレちゃった」


 なんだろう…冷徹な華咲像とのギャップが…ヤバい。俗に言う…エモい。


「と…とにかくっ、止めようぜ!囲むのは止めようぜ!」


 そして華咲、藤原ふくめ数人の女子を囲んでいる大量の男共を遠ざけるように押した。

 おい、微妙に抵抗するのはやめろよ…おまえら重いんだから…。


「…赤羽君、面白いわね」

「お…おう…さ、さんきゅ…」


 にっこり笑ってそう言われると、気恥ずかしくなってトイレに駆け込むしかなかった。


**


「お前毒でもくったか?」

「巫山戯んなっ、んな訳あるかよ!」

「常識人とは違うと思ってたが…今日はいつも以上だな」

「るっせぇ。ぶっころばすぞ」


 洗って濡れた手を振りながら教室に戻る。あぁ、次の授業はドッチボールか。

 別に時間割を見た訳でもないが思い出した。


**


「藤原様と同じチームとか最高すぎだろ!」


 はしゃぐ大川。10人×四チームで男女比率は丁度4:1。


「ドンマイ、華咲さんと同じじゃなくて悲しいよな」

「別に、残念ではあるけど初戦からいきなり華咲のいるチームが相手だし」

「へ~強がッ…呼び捨て!?」

「ん~呼び捨てだな。華咲でいいだろ。っし!ジャンプボール任せた。外野行きたい人挙~手!」


 身長の高い男子にジャンプボールを任せて外野を募る。呆けた大川はスタートの笛が鳴るまでボーッとしていた。


「藤原様は俺が守る!」


 豪語していた大川にボールが来ることはない。というか女子を狙う人がいない。

 あと女子投げてなくね?


 詰まらなさそうに棒立ちしている女子達。なんか悪いな。

 球技は苦手なんだけどっ…。

 投げられたボールをキャッチする。外野が手を上げたが渡す相手は決まってるんだよな。


「大川どけ」

「は?お前外野にパス出せよ」


 抵抗する大川を押しのけて藤原へと爽やかに笑った。。


「よっ、藤原投げるか?」

「…っ。私?」

「んぁ、当然だろ。藤原って他にいないだろ?ほれ」


 藤原にボールを軽く投げると危なげにそれをキャッチした。


「投げ方は…」

「馬鹿にしないで下さい。投げることぐらい出来ます」


 むっとした顔をした藤原がボールを投げる。が、それはぽわわわ~んとした軌道を描いて相手コートに落ちる。

 その下にには藤原ファンがいた。


「オォォォオオ!」


 そう怒号を上げるそいつの…顔面にボールが当たった。

 そのボールは跳ねてこっち側に戻ってきた。

 外野にもう1人女子がいるが詰まらないのではなく本気でやる気がなさそうなのでボールを渡すのは止めておく。


「ふふん、馬鹿にしないで下さい」

「お、そうだな。完全に向こうの不注意だが。まぁ魅力も含めてドッチボールの投げた球か」


 とぼとぼと外野に歩いて行ったそいつ。他の男子もボーとしていて、動いているのは華咲だけだった。

 にっこり笑う華咲はゆっくりと歩きながらこっちを見る。


「隙ありぃぃ!」

「私護身術もやってるの」


 俺が本気で投げたボールを手の甲で宙に跳ね上げて、そのボールを軽く片手で取る華咲。


「でも…狙ってくるのは面白いわね」


 そして繰り出される高速の球、俺の方に向かってくるそれを俺はキャッチできなかった。

 別にさっきのヤツみたいな事じゃない。普通にキャッチできなかったのだ。


「っと、かっこわるっ!すげぇな!」

「当然。早く外野に行きなさい」

「はいはい。狙ってやるから注意しておけよ」

「ええ、楽しみにしてるわ」


 華咲を指差しながら外野に向かった。俺が当たったボールを誰が取ったかというと…藤原だった。


**


「華咲強いな」

「ある程度の護身術はやってるの。なにせ最近身の危険が多いし。

 それにしても今日は赤羽君なにがあったの?」

「ん?」


 体育の片付けは当番制。運良く俺は華咲とペアになった訳だ。


「だって様子がおかしいし。昨日まで皆と一緒だったのにさ」

「…意識が乗り移ったとか?」

「ふぅん。あり得なさすぎてつまんない。非常識にも限度があるわよ?」

「うっせぇ、俺が面白いのは素だ!」

「じゃあ今のは素じゃないって事ね」

「おう、そうだと思うぜ」

「ねぇ、赤羽君」


 …突然、華咲が俺を見つめた。


「変わらないでね。絶対に」

「へ?」

「変わらないでね。私は今の赤羽君がいい」

「…ぉ、ぉぅ…」


 告白か?告白だよな?

 って違う違う!んなわけあるか!


「それって告白?」


 …アレ?


 俺は何言っとるんじゃぁぁぁ!

 やってしまった。馬鹿をした。だめだ…華咲に嫌われる…気持ち悪い自意識過剰なヤツだって…。


「…あはははははっ!はははっ!何それっ!素で言ってるのっ?」


 わ、笑ってる…あぁ、冗談だと思ってくれたのか。よかった。

 冗談だって言わないと…。


「あぁ、素で言ってる」


 よしっ、これで…?


「あ…人生オワタ…」


 華咲、違うからな!冗談だ!ごめん冗談が過ぎちまった!


「って口に出すことを心の中で言ってどうするんじゃぁぁぁ!これも心の中で叫べよ!」

「…へぇ…まぁ薄々感じてたけど赤羽君も私のこと好きなんだ。へぇ…」

「…新ってなんだよ新って」


 もういいや…会話してくれてるだけでもういいや。全部曝け出しちまおう…。


「性格変わったから?」

「なんだよそれ。…あぁそうだよ!俺はお前が好きなんだよっ!なんか文句あるか!」

「っ…!す、凄い告白ね…いままでそんな情熱的な告白なんて受けたことない…」

「るっせぇ!はい振ってこのまま殺してくれ!」

「…私のことを惚れさせたら付き合ってあげなくもないわ」

「はいはい!これからも友達としてよろしくお願いします!自分の恋が見つか…は?」

「えっと…よろしく。友達として?」

「違う!マジかよ!チャンスくれんのかよ!」

「…話聞いてなかった?」

「予想してなかった!聞いてなかった!惚れさせればいいんだな!」


 俺は脳内が崩壊していた。そして早口に叫ぶ。


「待ってろ華咲!お前のことを惚れさせてやる!」


 そして…訳も分からず体育倉庫から飛び出して、雄叫びを上げながら走っていた。


**


「っしゃぁぁぁ!」


 俺は雄叫びを上げながら廊下を走っていた。なんと!華咲が惚れるかも知れないのだ!素晴らしい!


「おいうるせーぞ赤羽」

「チっす!先生、今日はいい天気ですね!」


 同時に雷が鳴った。が、翔はそのまま走り去っていった。


**


「なぁ大川」

「なんだ。ようやく落ち着いたか」

「うるせぇ、それよりさ、どうすれば惚れさせることが出来るんだ?」

「は?気でも狂ったか?華咲さんと…ってあるなら俺が知りたいわっ」

「大川、静かにしろ」

「はいすいませ~ん…お前の所為だぞ」

「ふぅん。しらねぇのか。じゃあいいや」


 どうしようか…。しっとりとした空気と、窓ガラスを強く叩く雨の音が耳に響く。


「チッ…しゃーねーな。教えてやるよ」

「おっ、知ってるのか」

「まずぐいぐい押せ。押して押して押しまくれ。俺たちはまず見てもらうことが重要なんだよ」

「もうそれは出来てる」

「マジカッ…次は押せ。ぐいぐい押しまくれ。そして退け」

「…お前に聞いた俺が馬鹿だった。自分で考えるわ」

「お前人に聞いておきながら!」

「大川っ!この問題を解け!」

「はいっ!その問題の答えはA君が勝つ確率です!」

「…巫山戯てんのか!その数値を聞いているんだ!授業受ける気ないなら出てけ!」

「すいません!」


 どうやって惚れさせるか…。


**


「雨が強いですね!送ります!」

「いえ俺が!」


 校門前…華咲が傘を忘れたみたいだ。俺は去年から放置していた水泳用のバスタオル(洗濯済み)をリュックから取り出した。

 柄付きだからひっくり返して無地の方を広げる。


「…私は大丈夫だから。しかも…」

「おまえらは馬鹿か」


 俺はタオルを華咲に羽織らせ、荷物を奪う。男共を退かせ、華咲を軒下から出した。


「傘差したら雷落ちて感電死するぞ?華咲の頭禿げるかもな」


 そして華咲の背中を押して歩く。雨が強く肩を打った。


「頭が回るようね」

「当然だ。俺は天才だからな」

「そこは謙遜するところじゃないの?」

「アイツらが雷雨の日に傘差して歩いたら危険だって知らないなら知ってる俺は天才だろ?」

「話が違うけど」

「ま、どうでもいいだろ、家はどっちだ?」

「こっち」


 華咲が指さしたのは俺の家とは少し方角が違う。


「そうか。じゃあ気をつけろよ。タオルはいつか返してくれたら別にそれでいいし。あと…」

「そこは家まで送るところじゃないの?」

「生憎ストーカじゃないからな。華咲お前変な物好きだろ」

「は?」

「特異性のあるもの。だったら俺が周りと違う人間になればいい訳だ。じゃあな」


 翔は手を振って歩く。それを結依香は見てから、バスタオルを見た。そのとき、手に何かが触れる。

 そのまま地面にひらひらと落ちた紙を拾って読み上げた。


「多分下着が透けるから前も閉じろ…っ、予想して書いたのね。やるじゃん」


 結依香はその紙を嬉しそうにポケットにしまい、タオルの前を締めて、家へと歩いた。


**


「へっくしょん…」

「あ、おにいお帰り~」

「おぉ、麻衣!ただいま!今濡れてるからギューは出来ないけどごめんな」

「うん、お風呂沸いてるから入って入って」

「ありがとうな。麻紀は?」

「まだ帰ってきてないよ」

「そうか…っとありがとう」


 俺は風呂に向かう…既にこの世界になれていた。


**


「あれ?…今日は…」

「華咲様!昨日風邪は引きませんでしたか!?」

「赤羽の野郎が変なことしませんでしたか!?」

「…えぇ、問題ないわ。それより当の赤羽君は?」

「まだ来てません!」

「お~い野郎共、席に着け~。今日は赤羽は休みだ。」


 担任が教室に入ってきた。皆が席に着くその雑音にかき消されながらもそう聞こえた。


「え?」

「風邪引いたそうだ誰かプリント届に…」

「私が行きます」


 気がついたら手を上げていた。担任の目が見開かれる。


「は?華咲が行くのか?」

「えぇ、届けに行きます。終礼後取りに行くので住所も教えて下さい」

「お、おう…」


 周りの男子が何か騒いでいるけどそんなことより赤羽君の事が気になった。


**


「えっと…ここかな?」


 それなりに裕福そうな一軒家。標識には赤羽と書いてあった。

 インターホンを押して少し距離を取る。


『はい』

「あの…赤羽君のクラスメイトの華咲結依香です」

『あらっ…翔~!』

「あ、いいです…そのついでにお見舞いも出来ますか?」

『えっと…華咲さん?』

「はい」

『うちの翔と交際し…母さん違ぇよ!ちょっと出るから華咲待ってろ…翔!女の子を呼び捨てしちゃ…』


 そこでぶつりと音が途切れ、数秒後に翔が扉から出てきた。


「よ、プリントか?サンキュ」

「えぇ、罪悪感を感じたからね。これ、ありがとう」


 プリントと一緒にタオルも返される。


「あぁ、でも風邪は俺の不注意のせいなんだけどな」

「あらそう。風邪は治ったみたいね。それにしても私に対して全然目立った変化無いわね」

「は?」

「いや、好きな人を前にしてドキドキしてないでしょう?」

「そんなことも無いぞ?特異なヤツが好きなんだろ?だから努力してんだよ」

「それ言っちゃ駄目でしょ?ま…ありがと。じゃ、さよなら赤羽君」

「おう、気をつけて帰れよ」


 なんか…もやもやする。私は背を向けて家の方へ歩き出した。

 妹さんがいると聞いてからか、それとも名前を呼んでくれなかったからか…。


「まぁ…もう惚れてるんだけどね」

「え?」


 扉を閉めかけていた赤羽君に聞こえてしまったようだ。振り返ってこっちを見ている…が、驚いてないから『何か言った?』ってレベルなんだろう。


「いや、なんでもないわ、翔君」

「っ…おう結依香」


 私の胸の高鳴りが聞こえていない事を願った。

 俺は空耳が現実になることを願った。


**


「華咲様!こんなちっぽけな俺ですけど…」

「ごめんなさい。私…」


 そこでふと止まった。今までの断り文句と違って交際する気が無い訳ではない。だって私が惚れたら赤羽君と…交際する訳だから…。


「今、交際を考えてる人がいるの。だから…お断りさせてもらうわ」

「は?…交際を…」

「…ごめんなさい。急ぎの用があるから」


 階段を駆け下りる…言っちゃった言っちゃった言っちゃった…。

 私は自分の頭をぽかぽか殴っていた。


**


「好きな人がいるのか!?」

「らしいぜ、翔ドンマイ」


 大川のサムズアップがウザい。

 風邪の見舞いの件は責任感の強い華咲なら自然な行動だとまとまった。


 それよりも…好きな人がいる?俺では…無いか。『惚れたら交際する』だから好きな人ではない。

 ってことは…好きな人がいながらも俺を誘うような発言をしたってことか?

 いや、違うか。そんな訳はないか。噂だ噂。そんな変なことで問い詰めてたらアホみたいだろ。


「お~い、悲しすぎて天界に昇っちまったか?」

「大川、華咲は今どこだ?」

「告白で呼び出されてるんじゃないか?てかお前も告白する気か?」

「は?」

「いや、今俺が惚れられてるってイキった先輩含め男共大半が告白してるからな。やめておいたほうが…」


 俺の足は勝手に屋上階段へと向かっていた。

 そろそろ授業始まるし彼氏面して取り返すのも好感度上がるだろ。


**


 ここにいなかったら…体育館裏か?

 足を止めて耳を澄ます。と、声が聞こえてきた。


『華咲、俺のことがすきなんだろ?』

『…言いたいことはそれだけですか?』

『まぁ付き合いたいって言うなら俺の横にいることを…』


 脳内の記憶が騒ぐ。クソイケメン、金持ち、天才…で性格ブスの男。女子生徒にモテモテだ。


「私は貴方のことを好きだなんて思っていないわ。さっさと帰って下さる?」


 偶にこういう男もいる。顔はいいし高身長だし頭もいいらしい。

 でも…赤羽君のような格好良さを持ってない。


「ツンデレもいいなぁ、どうだ?拒否できないだろ?」


 手首を掴まれて壁に押しつけられる。力が強くて抵抗できない。この馬鹿男…頭がオカシイっ。


「叫ぶわよ」

「はっ、その素直じゃな口塞いでや…ぐっ…うっうぅぅ…」


 顔が寸前まで迫ったとき、馬鹿男がいきなり蹲った。

 その後ろには…ピシッと手を構えた赤羽君が立っていた。


「獲物を前にして周りを見れなくなるあたり宛ら馬鹿なゴキブリだな」

「う"っ…お"まえ"ぇぇ"…」

「さ、華咲、行くか」

「え、えぇ…赤羽君、大丈夫なの?」

「多分午後の授業にはでれないだろうな。今みたいにされたら膝蹴りだ。それでその男の愚息たたき割れば…」

「分かってるわ。でも…潰れて体液が飛び散ったら気持ち悪いじゃない」

「飛び散らねぇから安心しろ」


 赤羽君はさっきの馬鹿男よりも格好いい。やっぱり私の…れた男だ。


**


「ねぇ翔君」

「な、なんだ?」

「ふふっ、なにそのキョドリかた。この坂上がったところにクレープの店があるんだけどどう?」

「ん?じゃあ行くか。俺がおごろうか?」

「いや、いいわ。奢らせたらそこら辺の男と一緒でしょ」


 そのちょっとあざといような笑みにドキッとくるぐらいは許してくれるだろうか。顔に出さない為に舌を噛む…が。


「顔赤いわよ?熱でも出した?」


 俺の額に手を当てようと手を伸ばしてくる華咲。


「馬鹿野郎っ、絶対態とだろっ」

「あははははっ、生まれて初めて馬鹿って言われたけど意外と心地いいものね」

「お前マゾかよ。馬鹿や…」

「あはははは。わいせつ罪で叫ぶわよ?」

「笑わずに笑うな!怖い!あとわいせつとか関係ないしっ」


 坂を並んで登る。


「なぁ、どうしたらお前は惚れてくれるんだ?」

「それを私に聞くの?」

「あぁ、それが一番手っ取り早くて正解だろ?押して引けとか引いてから押せとか言われてるけど訳分かんねぇし」

「そうね…名前呼びとかは結構ドキッてくるわよ。強引なのもポイント高いかもね」

「…強引にキスされそうになって嫌がっていたお前が言うなよ」

「あら。名前呼びじゃないのね」


 …意を決する。結依香の手を掴んでそのまま壁に結依香を押しつける。所謂壁ドンだ。


「結依香、俺はお前のことが好きだ」

「っ!」


 結依香の目が一瞬、見開かれる。が、それもすぐ戻って俺の首に手を回してきた。目がトロンと溶けている。


「なっ…おいっ!」

「イヤなら避けなよ?」


 顔が近づいてくる。なんだよこれ!壁ドンしてる側がキスされるとかオカシイだろ!顎クイを忘れたせいか!?触れる訳無いだろ?

 壁ドンが限界なんだよ!


「あと3センチ」


 もう華咲の目しか見えない。結依香の呼吸を唇に感じる。

 っ…避けるべきだろ!


 俺は壁ドンを解いて、華咲の隣にもたれて、ずるずるとしゃがんだ。顔を抑えるも指の隙間から夕日が目を刺す。


「俺…ウブだからさ…やめてくれ…」

「ふふっ…面白いわね。そういう所好きよ」


 その言葉はよく耳に響く…目の端をスカートがひらりと舞った。





^^^^

 

字数制限のせいで終わり方が気にくわないが許せ!

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朝起きたら男女比狂って美少女に好かれた 小笠原 雪兎(ゆきと) @ogarin0914

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