第七話 再会 3
それから三日後、心配そうな高良夫妻に空港で別れを告げ、ククルは空港のゲートをくぐった。
パスポートは修学旅行のために取ってあったので、助かった。修学旅行には行けなかったけれど、あの時にパスポートを取った甲斐があったというものだ。
「ええと、ナハ行き……」
八重山からトウキョウ直通の飛行機はなく、必ず本島にある琉球の首都・ナハ経由となる。
(ナハかあ。昔の首都はシュリだったのにね)
琉球王国の時、首都はナハではなくシュリだったが、シュリは一大商業都市になったナハに呑み込まれてしまったそうだ。かつての世界との違いに思いを馳せながら、ククルは歩き続ける。
そもそも以前は、本島に行くだけでも大旅行だったのに、一時間もかからずに行けるとは――現代の文明は本当に不思議だ。
ククルは何とか搭乗手続きを済ませ、飛行機に乗り込んだ。
飛行機は、そこそこ空いていた。
席が窓際で、少し嬉しくなる。
飛行機の離陸時は動揺したものの、混乱状態に陥らないようにぎゅっと目をつむった。けれど好奇心に駆られて、窓を覗く。遠ざかる八重山諸島が見えて、思わず声をあげてしまう。
紺碧の海に、散らばる緑の諸島。
(綺麗だなあ――)
故郷だから、とかそういう感傷を抜きにしても、空から見下ろす故郷の海はこの世のものとは思えぬぐらい、美しかった。
ナハ空港に降り立ち、ククルは国際線に乗り換えることにした。
ナハ空港は、巨大な空港だった。天井が異様に高くて、ハラハラしてしまう。外国人も多く、色んな国の言葉が飛び交っていた。
(……不安になって来た)
現代文明には、まだ慣れない。特に、広い空間に来ると緊張してしまう。
ガラガラとスーツケースを転がしながら、広い通路を歩く。
『いいかい、ククルちゃん。わからなくなったら、絶対に誰かに聞くんだよ! 空港のスタッフはたくさんいるから!』
高良に必死に言い聞かされたことを思い出したが、特に道を聞くこともなく目的の搭乗ゲートまで来ることができた。
ホッとして、ククルは空いていた椅子に座る。広い窓からは、飛行機が見える。その大きさを見ていると不安になるので、視線を外す。
(ユルは、平気だったのかな)
ユルも、一人でトウキョウに向かったはずだ。こんな慣れない広い空間でも、彼は泰然としていたのだろうか。
(……ああ、そっか。ユルは初めてじゃなかったんだよね)
ユルは、修学旅行で大和に行ったはずだ。ククルは行けなかったけれど……。
何で、と呟きそうになる。
いつから、ユルはククルを避け始めてしまったのだろう。「帰りたい」と言ったのが、悪かったのか。あれで修復不能なまでに、関係が壊れたのか。
考え始めると、泣きそうになってしまって、ククルは鼻をすすった。
(考えるのは、大和に行ってからでいい)
今は無事にたどり着くことを、考えないといけない。
トウキョウ行きの飛行機も幸い窓際の席だったので、離陸の時にククルはまたも下界を覗いた。
(わあ、本島だ!)
琉球国の中心であり、かつての琉球王国の中心地――本島の形が、くっきりわかる。テレビや地図では何度も見ていたけれど、こうして実際に見るとやはり違う。
ここは、ユルの故郷。ユルの生まれた島。
同じ琉球でも、ククルとユルは随分離れたところで生まれたのだ、と実感してしまう。本島の言葉と八重山の言葉は、今はそうでもないけど昔は随分と違っていて。文化も少し違っていて。
島を囲む青い海も、八重山と少し色が違うように思えた。こちらの方が、少し深い。
でも、大和の海はもっと違う色をしているのだろう。
綺麗なところだな、と素直に思う。八重山も宮古も本島も、綺麗だ。
琉球という国名は、この国にそぐわしい。琉球という字面も、リュウキュウという音も、紺碧の海と緑の島々で構成された国に、相応しいと思った。
こんなことを考えてしまうのは、初めて琉球の外に出るからか。
怖くないわけではない。でも、恐怖感よりも使命感が勝っていた。
(私の
嫌われても怒られてもいい。ただ、ティンの時のように、後悔して泣くようなことがあってはならない。
決意を新たに、ククルは琉球の海を見下ろした。
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