第四話 幽霊 3
翌日は土曜日だった。
ククルは早速朝早くに、高良家に電話して
そわそわしながら、ククルはユルにずっと付き添っていた。幽霊もまた、現れている。
インターホンの音が鳴り、ククルは飛び跳ねるようにして立ち上がった。
階下に下りると、既に伊波夫人が応対しているところだった。予想した通り、高良ミエが玄関に立っている。
「おやおや、ククル様。どうも」
「ミエさん、来てもらってすみません」
「いえいえ。上がらせてもらいますよ」
戸惑う伊波夫人の横を通り、ミエはククルに歩み寄る。
「して、状態は?」
「うーん。とにかく、見てもらった方が」
ひそひそと話しながら、ククルとミエは二階に上がった。
ユルの部屋に入るなり、ミエは顔をしかめる。
「こりゃあ……しっかり、憑かれとりますね」
「……何度も祝詞を唱えたんですけど、だめなんです。何かやり方が悪いのかも……」
「それじゃ、私が一旦やってみますね」
そうしてミエは、ククルのように祝詞を唱えたり、札を使ったりして、何度も幽霊を祓おうとした。
しかし、幽霊は大した動じた様子もなく、ユルの傍に存在し続けた。
「――ククル様、ちょっといいですか。一旦部屋から出ましょう」
「え? う、うん」
二人は部屋から出て、廊下で向き合った。
「あれは多分、本体が別にあるんでしょうね」
「本体?」
「ええ。ユル様に取り憑いたきっかけがあると思うのですが……おそらく、何か物に憑いていたんじゃないでしょうか。それを、ユル様が手に入れてしまった」
「……なるほど」
ククルは納得して、頷いた。さすが、経験豊富なノロなだけはある。彼女を呼んでよかったと、心の底から思う。
ククルは霊力は十分でも、あまりノロとしての務めはしていなかったので、経験が足りないのだ。こういうところで差が出るのか、と感心する。
「ユルに聞いて来ます」
ククルはユルの部屋に戻り、ベッドの傍に膝をついた。思い切って、ユルを揺さぶる。
「ユル、ごめん。起きて。聞きたいことがあるの」
「……何だよ」
ユルは、渋々といった様子で目を開いた。
「ユル、大和で幽霊が憑いてそうなもの買った? 多分、それに幽霊が憑いてたんじゃないかと……」
「……何、か……」
ユルはふと、思い至った様子だった。
「一昨日、キョウトで……お前の土産にと――
「簪?」
そうだ。ククルがユルに頼んだ土産物の一つが、簪だった。
「簪……どんな店で買ったの? どんな簪?」
「古物商の店があったんだ。そこで買った。赤い簪だ」
そういう店になら、幽霊の憑いた簪があっても不思議ではないだろう。
「わかった。それ、今どこにある?」
「机の上に置いたはずだ……。土産は一旦、全部出した。食べ物は、おばさんに預けたけど。それ以外は机に」
ユルの答えに頷いて、ククルは机に向かった。
おそらく、これらは帰ってすぐククルに渡してくれるつもりだったのだろう。しかし、ユルが寝込んでしまったせいでここにあるというわけだ。
頼んでおいた、あひるのぬいぐるみや、扇子など……ククルが頼んだ品は全部置いてあった――簪を除いては。
「ユル、簪ないよ!」
血相を変えて振り返ったが、ユルはもう眠り込んでいた。彼の上を漂う幽霊は、うっすらと笑う。
(近くには、ないか)
どうやってか、簪は隠してあるのだ。だからこの幽霊は、こんなにも余裕たっぷりなのだと気付く。
捜してみせる、と誓ってククルは幽霊を睨みつけた。
その後、ミエと共に家中探し回ったが簪は見つからなかった。もちろん、ユルの荷物も何度も確認したのだが……
「はあ」
落ち込みながら、ククルはユルの傍で食事を取っていた。ミエは、また明日来ると約束して高良家に帰ってしまった。
ユルが起きたら食べさせようと、おかゆなど食べやすい食事が載った盆が傍らにある。しかし熱がひどくなっているらしく、ユルは起こしても起きなくなってしまった。
(このままじゃ、祟り殺されちゃうよ……)
ククルは、ユルの傍に漂う幽霊に目をやった。
どことなく陰のある美女。
先ほど何度問いただしても、簪の在り処は教えてくれなかった。
そうだ、とククルは閃く。
(強硬的に行くから、だめなのかな……?)
幽霊にも色々ある。話の通じない幽霊なら、問答無用で祓うことが求められる。しかし、話が通じるなら、本人に納得して成仏してもらうのが一番だ。
「あの」
話しかけると、幽霊はうろんげにククルを見た。
「あなたの事情を、聞かせてくれない?」
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