<秋の夜長の月明かり>
ゆき
秋の夜長の月明かり
秋の夜は長い。
なぜだろう。冬の方が夜の時間は長いはずなのに、秋の夜がやたらと長く感じるのは、冬至に向かって日ごとに日照時間が短くなっていくからか。
秋は別れの季節などとも言われるが、なんとも言えない切なさと、それから鬱々とした不安や恐怖のようなものを運んでくるような気がするのは、私だけだろうか。
そもそも、人間は夜闇を恐れる。
夜は人の心を不安と恐怖で支配する。生まれ持った本能からか、我々は暗闇を恐れるようにできているのだ。
そして、不安や恐怖を煽るのは夜の闇だけでなく、北風が運んでくる寒さも一役買っているように思う。
暗く寒くなっていく、この変化が説明のつかない不安や恐怖を心に忍ばせてくるのだ。
秋の夜長、うすら寒い部屋の中で独り佇んでいると、漠然とした不安に襲われる。
何の前触れもなく、急にこれから先の自分の人生がどうなるのか分からないという未知なる不安にかられるのだ。
原因がはっきりしないのが余計に不安を増幅させる。
蛍光灯の冷たい明るさが、ますます寒さと夜の暗さを引き立てるようで、私はぶるっと身震いした。
静けさも良くない。
そう感じた。
思えば、夏の終わり頃には夕陽とともに沢山の虫の音が響き渡っていたものだが、秋も深くなると、賑やかだった虫の音もパタリと止んでしまい、微かに風の音が聞こえるかどうかなのだ。
寒さと暗さと静けさと、三拍子揃ってしまうというわけだ。
こんな夜には、何か賑やかなもので気を紛らわすのが良い。
ふと窓の外を見やると、満月とまではいかないが、まるまると太った月が澄んだ光を放っていた。それはまるで一 昔前の映画の光のようで、レトロな映画館を彷彿とさせた。そうだね。
こんな夜には映画のひとつでも観るのが良いね。
私は心の中で月にそう話しかけ、気に入って何度も繰り返し上映している映画のディスクを 1 枚手に取った。
暖房を入れるほどには寒くなっていない部屋の中。
それでも私は心身を温めるために、厚手の上着を羽織り、それから湯を沸かして温かいココアを入れ、映画のディスクを差し込んで、それからふかふかのソファに身をゆだねた。
月は、相変わらず窓から僅かに部屋の中に光を送り、秋の夜長に独りで映画鑑賞を始めた私の背中を穏やかに照らすのだった。
<秋の夜長の月明かり> ゆき @yukikkuma38
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