第68話(番外編) あたしは犬

 ナナコは高いところに登るのが大好きだ。

 一番のお気に入りは本棚の上で、そこにいればリビングの様子をすべて見渡すことができる。ラルはナナコよりも何倍も体が大きいくせに、本棚どころかキッチン台の上にさえ登れない。


「あんた、こんなところも登れないの?」

 キッチン台の上から見下ろし、ナナコが呆れたように言うと、ラルはいつも少し顔をしかめる。

「だって、そこに乗るとご主人に叱られるんだ」

「そんなのどうだっていいじゃない」

「よくないよ」

 珍しくラルが強い口調で言うので、ナナコもつい語気が荒くなる。

「そんなこと言って、どうせあんたは本棚の上にも登れないくせに!」

「だって、君と僕は違うもの。君は猫で僕は犬だから」


 ナナコはラルを見下ろしたまま鼻で笑う。

「あんた本当に馬鹿ね。あたしは犬よ」

「えっ……」

 そう言ったきり、ラルは困り顔でナナコを見るばかりだ。


「だって、あんたとあたしのどこに違いがあるっていうの? あたしたちには足が四本あるし長い毛もあるし牙も爪もある。耳だってしっぽだってあるじゃない。あんたが犬なら私だって犬よ」

「でも、君と僕は違う」

「どう違うっていうのよ」

「だから……君は猫だし、僕は犬なんだってば」


 ラルが強情に言うので、ナナコはやけに寂しくなった。

「もうあんたなんか知らないわ!」

 そう叫ぶと、ナナコは自分の寝床に引っ込み、もうラルとは二度と口を利いてやらないんだからと決めた。

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