第58話 猫たちの集会
昼過ぎになり、コジロウはそろそろと空き地に戻った。
男の乗ってきた車はすでになくなっており、コジロウはそろそろと空き地を見回す。
いつもの廃車の上にクロの姿はなく、かわりにハチがじっと待ちかねていた。
「コジロウ、ボスを見かけなかったでやんすか?」
「それが……」
恐る恐る、コジロウは経緯を話した。
聞き終わると、ハチはひとつも顔色を変えることなく呟いた。
「あいつにいなくなられると面倒だな」
コジロウは心臓に冷たい水をかけられたようにひやりとしたが、次の瞬間にはハチはいつもの表情に戻っていた。
「ちょっと心当たりを探してくるでやんす」
「あの……僕も一緒に探させてください」
「いや、コジロウはまだこの辺不慣れだから、ここで待っていて欲しいでやんす」
「でも、ボスは僕のせいで……」
「また迷子になったらどうするでやんす?」
「…………」
返す言葉もなく、コジロウはうなだれた。
「せっかくボスが危険を顧みず助けたのに、もしお前さんに何かあったらおいらが大目玉くらうでやんす」
そう言い聞かせ、ハチは空き地を去って行った。
その夕方、珍しく早めの時間に猫たちの集会が開かれた。
ハチが廃車の上に乗り、皆に状況を伝える。その様子は堂々としたもので、いつものとぼけた様子とはずいぶんと違って見えた。
「静粛に。今晩限りボスにかわってここへ立たせていただくでやんす。既知の通り、ボスが人間によって連れ去られたそうでやんす。本来ならば彼の弱さが招いた結果であり、その結果は彼自身が追うべきところでやんすが、今回は事情があってのこと」
そこまで説明すると、ハチはコジロウの方へ視線を向けた。
空き地中の猫たちの視線にさらされ、コジロウはいたたまれない気持ちになった。
「ボスは、新入りであるコジロウを助けようとして捕まったとのこと。これまで
空き地に猫たちの歓声が上がった。
猫たちは情報収集のために散り、空き地は静かになった。
コジロウはハチに駆け寄ると、懇願した。
「ハチさん、僕にもボスを探させてください」
しかし、ハチは承諾をしなかった。
「お前さんはそういうの、向いていないでやんす。無理することはないし、何も心配はいらないでやんす。おいらがなんとかするでやんすよ」
「なんとかって……」
「それと、公園を伝令の拠点のひとつにするでやんすから、もしボスが戻って来たら急いで公園に行って菊姐に知らせて欲しでやんす。そうしたらこの町の猫たちに伝達が行くようになっているから、重大な役目でやんすよ?」
「でも、ハチさん……」
「返事は?」
「……わかりました」
コジロウはしぶしぶ頷いた。
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