第51話 プラモデルの頭の行方
その夜、コジロウは家族の夢を見た。
居間の床の上に座り、ヨウジが熱心にプラモデルを作っている。広げられた新聞紙の上には仮組みされたプラモデルが置かれていた。
「ふむ、かっこいいなあ」
箱のイラストを見てお父さんがそう言う。
ヨウジはにっと笑った。
「宇宙で一番強いんだよ!」
「それはすごいね」
二人のやり取りを聞いて、台所からお母さんが言う。
「ヨウジ、塗料は外で使ってね」
「はーい」
ヨウジは立ち上がると、新聞紙ごと窓辺へ移動させ、塗料を取りに行くために部屋を出ていった。箱の説明を読んでいたお父さんも、いつの間にかいなくなっていた。
コジロウはそっとプラモデルへ歩み寄る。
新聞紙の上には仮組みされたパーツがいくつか並んでいたが、どれも小さくて軽そうだった。これのどこが強いのかとコジロウはしっぽを揺らして考えてみたが、いくら考えてもわからない。
その時、丸いパーツがしっぽに当たり、そのまま窓辺までコロコロと転がって縁側の隙間からぽとりと落ちた。
「なんだ。こいつは僕よりもうんと弱いじゃないか」
そんな独り言を呟く。
ヒアキがやってきて、コジロウをなでてくれた。
「おっ、コジロウ! 今日もふわふわだな~」
コジロウがのどを鳴らすとヒアキも嬉しそうに笑う。
しかし、平和な時間はいつまでも続かなかった。
塗料を手にしたヨウジが戻ってきて、色塗りを始める。いくらも経たないうちに、彼はパーツが足りなくなっていると気付いた。
「あれ、お兄ちゃん、プラモデルの頭知らない?」
「知らないなあ」
コジロウを抱きかかえたまま、ヒアキが答える。
「ここに置いてあったんだけど」
「しっかり組み立ててあった?」
「ううん……色塗り前で仮組みしてただけ」
「どこかに転がって行っちゃったのかな」
「さっきまで、ここにあったんだってば!」
「知らないって言ってるだろ」
「返して!」
「うるさいな!」
ヒアキが移動しようとしたとき、足がプラモデルにぶつかり音を立てて倒れた。
慌ててヒアキが振り返るのと同時にヨウジが悲鳴を上げ、二人はそのまま取っ組み合いになった。
コジロウは隣の部屋に避難し、二人が泣き叫ぶ声を聴くことしかできなかった。
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