第22話 それぞれの言葉

 ラルと別れた後、コジロウは呆然とした。

「い、犬と喋った……」

「ん? 猫が喋るのと同じで、犬だって喋るでやんすよ」

 ハチはさも当然とばかりにそんなことを言う。

「それはそうですが……」


 コジロウがまだ戸惑っていると、ハチはふぅとため息をついた。

「人間だって喋るし、鳥だって喋るでやんすよ。それだけじゃなく、鼠だって、虫だって、ちゃんと意志や気持ちがあるでやんす。あとは相手さえいれば喋るのは当然でやんす」

「相手、ですか……」


 コジロウはふと昨日のことを思い出した。

 トンカツを食べ損ねた時、カラスたちは仲間同士でやり取りをしていて楽しそうだった。

 コジロウにはカラスの言葉はわからないが、彼らを羨ましいと感じたのは確かだ。


「もしかしたら、植物や星や風だって喋っているのかもしれないでやんす。自分だけが喋っていると思うのは愚かなことでやんすよ」

 ハチの話はあまりに壮大過ぎて、その一方でどこか現実味があって、コジロウは新鮮な空気を求めて空を仰いだ。

「……そう考えると、犬と喋るなんてたいしたことないですね」

「そうそう」

 ハチはにっと笑った。


「でもやっぱり、みんなが聞いたら驚くだろうなあ……」

 コジロウは親しい猫たちの顔を思い浮かべた。

「まあ、あそこの犬もね、ずーっとつながれっぱなしみたいでやんすから。ストレス溜まってるのかもね。自分より弱そうなお前さんを見て、八つ当たりしたんでしょ」


 コジロウは、狂ったように吠え続けていた犬を思い出した。

 門扉の隙間から見る姿は、まるで檻の中に閉じ込められているみたいだった。

 いや、実際それと変わらないのだろう。

(なんだか……可哀想だなあ……。)


 恐い思いをさせられたはずなのに、コジロウは相手のことを気の毒に思った。

 それを見透かしたのか、ハチがふんと鼻を鳴らす。


「だからといって吠えて脅していい理由にはならないけどね」

「せめて、話し相手でもいれば違うのでしょうか」

 そんな言葉を漏らすと、ハチは呆れ顔をして歩を速めた。

「まずは自分の心配でやんすよ」

「は、はい!」

 コジロウは遅れまいとハチの後を追った。

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