第3話 仲間のために捨てるもの

「ゆっくりと下りよう。」


飛行魔法を駆使して慎重に降りる。

ゆっくり、ゆっくりと下り続ける。目的はルシファーの勧誘であって戦闘が目的ではない。

徐々に光が遠のいていく、これでは帰ってくるときに入り口が分からなくなる可能性があるな……。


「魔物に光って大丈夫なのか?」

「別に私たちは吸血鬼や幽霊ではありませんよ……ゴースト系などまでは把握してませんが少なくとも私は大丈夫です。」

「なら問題ないな、『ホーリーライト』」


手のひらを上に向け、魔力をためると一つの白い球体が宙に浮く。

ゴムボールほどの球体はあたり一帯をLEDライトのように明るく照らす。

それでもなお、下の方は真っ暗でまだまだ谷は深いということが分かる。


「慎重に、魔物が俺たちのことを襲ってこないとも限らないしな。」

「はい!」


細心の注意を払い、音を立てずに俺たちは谷の奥深くへと降りていく。



そのまま下り続けて10分ほど経過すると、体の熱さが増していることに気づく。

地中に潜れば、当然温度は上昇するがここは異常だ、温度が軽く300℃を超えている。魔法を掛けて、ようやく人間が耐えうる体にできるほどだ。

そして、ホーリーライトを使用しなくても周りが視認できるほどには明るい。

地中奥深くでは何やら轟音と共に何かが動いているのが見える。


「これは……!」


見えたものは大量の火、燃料とするものがない中ただひたすらに燃え盛る炎。

何処を火種としたのかもわからない、強烈な炎はあたり一帯を明るく照らし、バーナーのような音を立てる。


「火の中央に何かあります!」


スルトが指をさした方向には火の中心部で、何やら黒い影が見えた。

人が座っているようにも見え、物が置いてあるようにも見える。

俺たちは魔法を強化したのちその物体のほうへと近づく。


「待っていましたよ……我が主……。」


到着をすると火の中心部にいたのは人間であった。

膝を立て、こうべを垂れる姿は忠誠、その一点に等しいものがあった。

一つ、違うものがあるとすれば人間を模した存在ではある、しかし背中からは翼の生えた、人々の思うイメージ通りの天使の姿がそこにはあった。


「久しいな、ルシファー。その炎はどうした?」

「ミカエルにつけられた制約です。私自身ではこの炎をはがすことが出来ず、勇者や魔王に準するものではないと剥がせない結界魔法です。どうかお力添えお願いできませんでしょうか?」


ルシファー、人間に仕えることを拒んだ。そこで俺と一度一対一で主従関係をかけた戦いをした覚えがある。

その時は確か天使だったはずだが……どうして今は悪魔なんだ?

まぁいい、それは後で聞くとして今はこの炎をどうにかすることが先決だ。


「首筋のあたりにミカエルの焼印が押されているはずです、これによって私の魔力が不安定になっているのです……。」


本来、悪魔と天使とは反発関係にある。

その中で両方の魔法を使えるルシファーの魔力は常に不安定な状態にあり、少しでもバランスが崩れれば身の崩壊を招く。そこを狙われたのだろう、ミカエルの力で微量だが天使の魔力が勝っている、そして焼印によって封印が施されている。


焼印これによって体が崩壊しないように強引に押さえつける。永遠に続く激痛か。」


焼印に手を添え、魔力を集中させる。

肌に触れるだけでかなり魔力を消費する、その上今から解くのは大天使ミカエルの焼印。

二重、いや三重に魔法がかけられている……。


「2つ目!」


二段階目の魔法を解除すると炎がフッと消えた。

それと同時に焼印から光が発動しだした。あたり一帯を白く染めあげる。


「とてつもない魔力だ!やべぇ!」


最期に仕掛けられていた魔力はルシファーごと粉々に消し飛ばすための装置だ。そのためにルシファーを殺さず生かしておいたのか!

転移魔法は場所を指定することが出来ない、そのため今この場で俺たちが転移しても街の中へ飛んでしまう可能性だって大いにある。


「ならば……!」


焼印に手を当て転移魔法を使用する。

飛ばすのは俺達ではなく、焼印の方ならどうだ!

空気を軋ませる音を立てていた焼印はどこかへ消滅した。

すると、光源を失ったため谷は一瞬にして真っ暗な世界へと切り替わった。


「焼印は何処まで行った!?」


飛行魔法を使い急いで外へと向かう。

このあたりに転移させられたら諦めよう、しかし焼印が街を消し飛ばす可能性も秘めている。

自分ではわかっている、人間を憎まなければならないのだ。しかし、何も知らない人間たちを手に掛けるほど俺は肝が据わっていなかった。

外へ出るととてつもない光景が目に入ってきた。


「あそこは……!」


見えたものは小さな光、何十キロ、いや何百キロ先だろうか。

その星のような小さな光が見えてから何分も遅れて音が届いた、その音は悪魔にも似た嵐のような轟音。

そして光が見えた場所はよく覚えていた。


俺が最後に剣を振るった場所だ。


何千、何万という研鑽を積み上げた目的のすべてが詰まっていた場所だ。

あそこにいる魔王を倒せば人々は救われる。魔物は全ていなくなる。

そんなことを考え、目指していた場所だった。

そして今もなお、あそこには魔王の死体がある。


「魔王……城……。」



勇者サトシあの男がいなくなってからどれほどの時間が経過したか。

魔物の住んでいた土地は人間の土地へと変わり、魔物たちは人間へと平伏を始めた。そして亜人たちは世界を救った人間に頭が上がらない。


「また死んだか……とは言っても人間より頑丈だから多少粗くても壊れないのがいいところよな。新しい魔物おもちゃを兵士に頼んで持ってこさせなくては……。」


老いた男は机の上に鞭を置くと、壁に張り付けられ動けなくなった女を見てうれしそうな顔をする。そしてその姿を肴に酒をたしなんでいた。その姿はまさに悪魔の所業とでもいう行為だ。

すると、何やらドタドタと音を立てながら慌てて兵士が入ってきた。


「王様、失礼いたします!大変です!」

「なんだ……ワシは今おもちゃが壊れて機嫌が悪いんだ。」

「元魔王城があった場所にて大爆発が発生!その後魔王城は跡形もなく消滅したとの報告です!」


魔王城だと!?奴はたしかに死んだはずだ……もしや勇者にあの時既にバレていて魔王にとどめを刺したふりをしたのか?

いや、兵士に確認をさせて確かに脈が外間っていたはず……。

老いた男は確かなものにあった自分の平和がかすかにも揺らぎ始めていることに恐怖を覚えた。


「どちらにせよ、これは由々しき事態だ!今すぐ冒険者を募れ!そしてもう一度あの勇者を召喚するから儀式の準備を進めよ!」

「ハッ!」


敬礼をした後、兵士は立ち去っていった。

ここまで築き上げた地位を手放すだと?そんなことはあってはならない。

ワシは王だ、誰よりも偉い。だから亜人たちもワシに奴隷を差し出していたのだ。絶対に魔物なんぞに世界をくれてやるものか!

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魔王は世界を救いたい カル @karu4umu

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