第2話 魔王と少女の契約
この世界そのものが狂っているのかを見定め、選定をする。
俺はあまりにもこの世界を知らな過ぎた。
魔物がいて、人間がいる。
武器と魔法があり、戦いがある。
その程度の知識しかないのに不相応な力を得たがゆえに驕り高ぶり、結果として王に操られた。
「君は……この世界をどうしたいんだ?何のために俺を召喚した?」
「復讐です……自分が弱いから他人に任せ、使命を全うしようと目論んでいたからです。復讐のために―――――——」
「私に操られてください。」
その目は涙を溢れながらも真っすぐと見据え、憤怒の業火をのぞかせていた。
あぁ……この目だ……何度も見たことがあった。俺が気づくことのなかった目だ。
魔物の首をはねるとき、ほとんどの魔物は理性を持たないため無機物的存在の物だった。しかし、まれに自我を持った魔物が現れた。当然、俺はその魔物も切り伏せた。その時に現れる表情は2つだ。
最終的には戦意を喪失し、恐怖におびえる。
そしてもう一つがこの目、復讐心に取り憑かれ、怒りにすべてを飲まれた目だ。
「俺は人間だ。お前ら魔物を切り伏せた復讐の対象だぞ。」
「良いです。今の私はあなたにどうやっても勝てません。ならば今この場であなたを掌握するか、死ぬことを選びます。」
強き志、今の彼女が生き延びられてきたのは幸か不幸かこの目があったからだ。
彼女を支えている物はこれしかないのだろう。
なら、いいだろう……ノッてやるよ!
「分かった。君の名前は?」
「私の名は『スルト』です、魔物に姓は必要ありません。」
ポケットからクシャクシャになった紙を取り出す。今日の昼までは高校で計算用紙として使っていたものだが今の俺にとってはもうそんなことはどうでもいい。
紙を広げ地面に置き、その上30㎝ほどのところで人差し指を伸ばし魔力を込め始める。
「ジョカラムの勇者、北条慧の名をもってここにスルトと悪魔の契約を結ぶ。」
右手に持っていた刀の刃を左手指の腹部ににあてがい、横に引き抜く。
シュッ!
鋭い音と共に鮮血が指から垂れだす。
ポタポタと血の雫が地面に置いた紙へと垂れ、付着した血はすぐに紙に吸い込まれることなく徐々に文字のような形を成形しながら紙へと吸収される。
「あとは君次第だ。君がここに血でサインを書けば俺は君に
返事をするまでもなかった。
私の世界はすでにここで終わっている。もう友も、親も、すべてを失った。
後は壊し、再構築する以外の道は残っていない。
「舐めないでください、私はすでに凄惨な最期を迎えました。肉体的苦痛などでは測り得ない、精神の限界です。」
歯で思い切り人差し指の腹を噛みちぎる。
血が出しながらサインをする。
私は勇者がどんなやつかを知っていた。当然、王に操られているということも。
しかし、止めることはできなかった。
事情も知らない勇者が真実を知った時の大罪を背負わせるのが怖くて。
でも……復讐をせずにはいられなかった。
無知であることを呪え。
強いことを呪え。
勇者として選ばれたことを呪え。
「これが私の復讐の一つでもあります、勇者様!」
これが彼女の俺に対する復讐であり、その復讐の対象を使って更なる復讐を企てようとする
*
「魔王様、本日の予定はいかがなさいますか?」
「そうだな……とりあえず、このダンジョン改築して人がなかなか入ってこられないようにするか、仲間を増やして少しでも対抗できるようにするか。」
俺とスルトの共同生活が始まったわけだが、関係が複雑すぎて説明するのが面倒になるほどだ。
召喚儀式によって呼び出された関係というのもあるので、俺が主、スルトは従者というのが基本となる。その中で、俺は彼女の復讐の駒となる契約を交わしているので、『絶対に人間は滅ぼさなくてはならない』という約束を背負ってこの世界を生きなければならない。
主:俺
職業:魔王勇者?
目的:スルトの目的である人間を滅ぼす、というのを達成すること
従者:スルト
軽く説明をするとこんな感じだろう。
といってもこの辛気臭いダンジョンを華やかにするのはいささか気が引ける。
何よりも魔物にあったアットホームな職場を目指す俺からしてみれば魔物を中心としてダンジョンを考えなければならない。
魔物と言えば一つ気になることがあったな……
「なぁスルト、俺を魔王として召喚したのって俺が勇者と分かってて召喚したんだよな?」
「はい、そうですが。」
「なら……死んだ魂たちをこの場に魔物として召喚することは可能か?」
俺は既にこの世界に魔物として、定義された状態でこちらの世界にやってきた。ならば俺のようにあいつらを復活させることも可能なのではなかろうか?
「それはYESともNOともお答えしかねます。もともと私はあなたを勇者サトシを召喚しようとしました。しかしこの世界では勇者を魔物が呼ぶことなどできません。ですからあなたを『魔王サタン』と定義づけたうえで肉体のみを召喚をしました。」
「だったら俺の肉体はそのままで中身はサタンになってしまうのではないのか?」
「しかし、魔王サタンは勇者の肉体に魂が宿ることを拒んだのです。故にあなたは自分の意思であなたの肉体を操作することが出来るのです。よって肉体及び精神は勇者であるが、魔王の性質をもととしているので勇者の魔法に弱い等ということです。」
勇者の癖に光の魔法に弱いとは如何なものなのか…?いや、今では魔王か。
そしてもう一つ分かったことがある。
俺が勇者の魔法を使う分には問題ないということだ。
先ほどの魔法で等価性を持つ錬金術は勇者の魔法だ。ということは問題なく勇者の魔法を使用することは可能ということだな。
成るほど……では人間の体でもいいから復活をしたい!って魔物がいた場合はただ乗っ取られて終わりか……そのとき俺が殺した魔物が主従関係をそう簡単に結んでくれることはないだろう。
腕組をし、これからどうしようかと考えていると思いついたかのようにスルトが耳打ちをしてきた。その内容は驚くべきものであった。
しかし仲間を増やさないことには始まらない、それどころか今の状態はかなりまずい。俺は激情に流され兵士を叩き切った。この兵士たちが街に帰ってこないとなると2日から3日後には1師団がこちらへ来る可能性だってないわけでは無い。
すでに戦争の火蓋は切って落とされているのだ。
「仲間を増やしておきたいのでしたら、こんなうわさを聞いたのですがいかがでしょうか?」
「行ってみる価値はあるな……準備しろ、直ぐに出発をするぞスルト!」
「ハイ!」
*
俺は肉体は勇者なので飛ぶことが出来ない、なんなら使う呪文も光系統でまったく魔王らしくない。
いたしかたないので飛行魔法をかけ一気に空へと飛び立つ。
久しぶりに使った魔法にしては随分とバランスが取れて、進むのも大して苦労はしなかった。しかし、酔いには勝てないもので空中から嘔吐物をまき散らしてしまった。
魔王がする報復にしては随分とみみっちいことしてんな俺。
「着きました、ここが『グロムの谷』です。」
到着したのはそびえたつ山の上にある巨大な亀裂、そしてその奥には球形の空間。
本来、山というのは地殻運動で地面がぶつかり形成されるものだがここだけは違う。
山にあるマグマもなければ火山灰もない。
中はただの空洞なのだ、真っ暗ななにも存在しない世界。
どういう原因なのかいまだに学者たちでは議論が交わされている不思議な谷だ。
「中に入って探すしかないか……。本当にここにいるんだろうな?」
「はい、確かに召喚されていることが確認されています――――――」
「大天使でありながら神との戦いに敗れ失墜した存在、ルシファーが」
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