第8話

 エストレリャの港を出発してから五日、いろいろあったけどソルに着いた。ソルはエストレリャと違って港町で、でもエストレリャと一緒で活気のある国。

「わあ、ここがソルですか。お店がいっぱい出てますね。」

「ああ、ここはいつも出店が出ているんだ。荷物を置いたら見て回ると言い、案内しよう。」

「わあ、ありがとうございます!楽しみですね、アルクトスさん。」

「ああ、そうだな。」

 そんなことを言いながら歩いていると、周りの人が私たちを見ているのに気付いた。どうしたんだろう?

「太司様、その方々はもしや…?」

 そう言って近づいてきたのは、少し年配の女性。期待を込めた眼差しに太司様は頷いた。

「ああ、この女性がクリューチを助けてくれる星神様の使いだ。一緒に居るのは付き人。これからしばらく滞在し、町も見て回るだろう。失礼のないように頼む。」

「そうですか、この方が…。」

 年配の女性は、私を見るとにっこりと笑った。

「初めまして、私はここら一帯のまとめ役のものです。何かあったら遠慮なくお尋ねください。」

「初めまして、星神様の使いのアステールというものです。これからお世話になります。」

 そう頭を下げる。アルクトスさんも頭を下げるとまとめ役だといった女性は「まあまあ、ご丁寧に…。では、私はこれにて…。」と言って去っていった。

「さて、屋敷に向かおう。」

「はい。」

 こんな話をしている時、私はこの後何が起こるかなんて想像もしていなかった。


 太司様の屋敷は、海辺の高台にあった。

「わあ、素敵なところですね!」

 お部屋に案内されると私はすぐ窓辺に行った。

「海が見えますよ、アルクトスさん!」

「そうだな。…とりあえず、荷物を降ろそうか。」

「あ、はい…。」

 と言ってもアルクトスさんがほとんど持ってくれていたんだけど…。

「二人とも、いいか?」

 部屋の外から太司様の声がした。どうしたんだろう?

「太司様、どうぞ。」

 私がそう言うと太司様は戸を開けた。

「ついて早々すまないが、クリューチが、クリューチとは俺の恋人なんだが様子がおかしいんだ。意識がなくなってから初めてで、どうしたらいいのか…。」

「そうなんですか…。わかりました行きます。」

「俺も行きます。」

「ありがとう。案内する。」

 そう言われて案内されたのは結界の張られた部屋。その中で、女性が寝ている。あの方がクリューチ様かな。

「意識を失った後、陽神様が結界を張るように言ったんだ。」

 そう言って太司様は結界の一部を解いた。

「キャ!」

 一歩中に入った途端クリューチ様が起きて私の腕をつかんで投げられた。

「アステール!」

 私をかばうように前に立った。

「ア、アルクトスさん…。」

「貴様が、今の星神様の使いだな?」

 クリューチ様から発せられた言葉だけれど、その言葉はクリューチ様本人の言葉ではないことがすぐに分かった。

「あなたは、異の神様ですね?」

「ほう、分かるのだな。そうとも、私が異の神だ。」

 そう言った異の神様は笑った。

「結界が解かれた瞬間に合わせて目を覚まし、貴様を殺すつもりだったんだが…。これまた優秀な騎士がいたものだ。」

「おほめにあずかり光栄です。」

 そう言うアルクトスさんの顔には怒りが混じっていた。剣に手をかけている。止めないと…。

「太司様の恋人の体か…。傷つけるわけには…。」

 私が止める前にアルクトスさんはそう言って、剣から手を離した。

「ほう、賢明な判断だな。ここでこの体を傷つけると、あの者が黙ってはいないだろうからな。」

 異の神様は太司様を見ながらそう言った。太司様は結界の入り口で呆然としていた。

「クリューチ…。」

「太司様、今はクリューチ様では…。」

「いや、分かっている…。」

 そう言いながらも受け入れられていないような気がした。

「さて、おしゃべりはここまでだ。星神様の使いよ、その命、もらい受ける!」

 そう言って異の神様はどこからかナイフを出して、私のほうに向かってきた。鞘に入ったままの剣で、アルクトスさんがナイフを受け止めようとした。すると、アルクトスさんと異の神様の間に光の壁が現れた。

「何!?」

「これは…?」

 二人が口々にそう言うとどこからか星神様の声が聞こえた。

『この者たちに手出しはさせん!!』

「星神様…。」

「これが、星神様の声、か?」

 声はアルクトスさんたちにも聞こえたようだった。

『異の神よ。この者たちに手を出すなら、我は黙ってはおらぬ。』

「星の神か。…それほどにこの者たちはお前にとって大切なものなのだな…。」

 そう言う異の神様はなんだか寂しそうだった。

「よかろう、今は見逃してやる。今はな。」

 そう言うと異の神様は道を開けてくれた。アルクトスさんに手を引かれて、私たちは外に出た。

 そこで、フッと私の意識が途絶えた。

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星神の使い 雪野 ゆずり @yuzuri

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