第30話 キャンプの夜
カブスカウトでキャンプに行った。まだ、入隊して間もないころだ。
ちびっこスカウトらしく、青い制服姿で野外活動だ。
小刀で竹を削って箸を初めて作った。角をとって丸く仕上げる。小刀を使う入門編だ。
夕方には飯盒炊さんをした。水と洗ったお米を入れた飯盒を火にかける。薪を焚べながらじっと待つ。グツグツと飯盒の蓋が浮き上がりご飯の炊ける香りがする。蓋がはずれないように石を飯盒の上に乗せ、しばし待つ。ころ合いを見計らって隊長が飯盒を火からおろして、わざわざ裏返しに地面に置いた。底を棒でコツコツとたたく。
「こうすると洗う時、楽なんだよ」
おかずは覚えてない。きっと定番のカレーといったところだったのだろう。小学校三年生の子どもたちの集団だから、隊長の他に保護者も何名か来ていて見守っていた。
その晩の寝る場所は、カビ臭い古いバンガローだった。
そこに、子どもたちだけが泊まった。
バンガローに入って話をしたりふざけたりしていたが、電気を消されると皆静かになった。昼間、森の中で遊んで疲れていた。
夜中、何かの気配で目が冷めた。
ベットのそばに何かの影が見える。チラチラと光も見える。
枕元に何か光る影。そっと毛布を頭のほうまで引き上げる。たしかに何かいた。もう一度、毛布の隙間から除いてみても何かいる気がした。毛布を被り直して、身動きせずにじっと過ごした。いつの間にか再び眠っていた。
次の日の朝、大人たちに「誰かいたよ」って何度も言ったけれども誰も信じてくれなかった。ただ、笑っていた。
そんな体験をしても幽霊なんて信じない。だが、幽霊なんか信じてなくても、小学校三年生のちびっこには暗闇が怖かった。
父の職場までお使いを母から頼まれることがたまにあった。
職場に行くには細い路地を通って裏口から入る。路地には街灯がない。秋口から春にかけては暗闇になる。
その路地に入る時、すれ違いざまに暗闇から人が現れるとびっくりする。勇気を出して歩を進める。ちらっと見上げて顔を見ても暗くて誰かわからない。
怖い。
たいていは近所の人。
心配することは何もないはずだ。
でも、それから明るい位置から路地をそっと観察して気配がないことを確認して全速力で駆け抜けることにした。裏口までひとっ走りだ。
そして帰りも同じ様に駆け抜ける。
なぜ、あのころは暗闇が怖かったのだろう。
口裂け女とか人面犬とか、子どもの間では噂になっていた。TVとか漫画雑誌の影響だ。面白がっても怖いとは思わなかった。
キャンプの夜にみた暗闇、路地の暗闇。
いつの間にか、怖さを感じなくなった。それは、いつからだったのだろう。
1980の缶コーヒー 北見南走 @znob
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