第14話

 商店街には細い車道が1本だけ交差し、両端と合わせて4つの入り口がある。先川原は車道と交差する入り口に2人を置こうと考えていたので1人欠けたことに不満を感じていたが、西吉を呼び出すのは面倒くさそうだと思い3人だけで張り込みをすることにした。


 グループで通話を繋ぎ、兼政と成岡にそれぞれ商店街の片端ずつを任せて先川原自身は交差点の入り口に立つ。


「出来る限り身を隠す感じで、出来ればアユネとか細坪くんにばれないようにして欲しい。……2人が警戒してここに近寄らなくなっちゃったら、もうどこにいるか探すのは難しくなるから。」

「了解。初めて会ったときはもっと自信なさげな感じだったけど、今日は随分自信満々だ。」

「本当に、最近いきなり変わったわね。」


 先川原は別に自信があるわけではない。自覚していなかったが、多分、頼られているから頑張らなきゃと無意識で考えていたのだろうと思う。それに、精神的に弱っている成岡と兼政には、支えが必要だろうと思う。

 交差点には2つ進入口があるので、先川原は周囲に怪しまれない程度に左右を交互に見ていく。せっかく半透明になる能力があるのに、左右を見張るためには隠れるわけにもいかず、普通に視界に入る場所で半透明になっても逆に目立ってしまうので能力を使うわけにもいかず、もどかしい限りだ。


「せめてハルカがいれば……。」


 わざわざ左右を確認する必要なかったのに、と先川原が呟くと、イヤホンから苦笑する声が聞こえる。


「最近、西吉のことばかり考えてるわね。」

「呼び方も親密な感じだしな。」

「ええ。」


 そんなことはないだろうと先川原は思う。今のだって要は4人全員いれば良かったのにという意味でしかない。それにいつ、西吉のことを考えていただろうか。

 機械的に右を見て、通り過ぎる女子高校生を眺めながら、先川原は記憶をさかのぼる。そして、そのせいでその女子高校生に抱いた既視感を見逃しかける。服がよれ、髪型こそ違えど、あの体格の感じは卯辰ではあるまいか。


「あ、いた……かも……。」


 先川原の呟きが聞こえたのか、それとも違う何かが気になったのか、振り向いたその女子高校生の目がはっきりと先川原と合う。驚いたように見開かれた美しい青と緑の目はまさに、卯辰のものに違いなかった。

 卯辰は瞬時に身を翻し、もと来た道に走り去っていく。


「アユネいた!追う!」


 先川原は成岡と兼政に素早く報告し、走り出す。少し幼稚な感じだったかと、いつもと違う口調に若干の気恥ずかしさを感じながらも、速度は緩めない。


 ◇


 そして先川原が卯辰を追い始めた頃、細坪は黒と白の目をした少年と対面していた。


「よう。」


 フランクに声を掛けてくる、着崩した制服の少年に細坪は嫌悪感を抱く。金と黒の虎柄の髪、派手な金属のピアス、そして無骨な指輪。髪染めや金属製アクセサリの着用はどこの高校でも校則で禁止されているはずだ。


「俺に何か用か?」

「ああ。お前を仲間に招待しようかと思って来たんだ。」

「仲間?」


 何を言っているんだという目で細坪は少年を見る。


「そうだよ。お前、不良だろ?俺のボスはな、今の社会に不満がある人間を集めてんだ。」

「なぜ。」

「えーと、何つーかあれだよ。でかいことをしたいんだよ。」

「そのでかいことというのはきっと犯罪行為だろ。俺はそういったものは嫌いなんだ。」


 少年は驚いた顔をする。まさかあんなに当たり前のように門限を破っていたやつが、よくもこんなに聖人みたいなことを言えたものだ。


「まあいい。そんなことを言っても、お前は不良に向いているはずだと思うぜ、俺は。」

「そんなことはない。」

「ほう。当たり前のように門限を破り、神社なんて神聖な場所に忍び込んで、さらには不純異性交遊までしておいて、犯罪行為に向いてないというのかお前は。」


 細坪は顔を赤くする。少年の言っていることは正論だ。確かに正論だと納得がいく。この感情は、そのような犯罪を行っている自覚のなかった自分自身への恥だろう。しかしなぜ、そこに怒りのような感情が混じっているのだろうか。


「……確かに、君の言うとおりだ。」

「そうはいっても、納得はいってないだろう。表情で分かるぜ。」

「ああ。こういう感情は生まれて初めて感じたな。」


 細坪は拳を握りしめる。自分の感情を、自分自身でコントロールできないことがこの上なく恐ろしい。少年は細坪を煽るように手招きする。


「来いよ。」

「ああ。」


 細坪は握りしめた拳を少年の腹めがけて振るおうとする。少年は冷静に、拳の当たる位置を守るように平手を置く。

 吸い込まれるように少年の手に当たる拳は、細坪の予想に反して、それ以上進むことはない。少年はにやりと笑う。


「そういえば、名を名乗り忘れていたな。おれは第三高校1年C組所属の山廣やまひろ弘樹ひろきだ。ヤマキって呼んでくれ。」


 細坪は山廣を睨みつけるが、山廣の馬鹿にしたような笑みはぴくりとも動かない。


「俺は……ミキタカだ。」

「よろしくなあ。」


 細坪は拳に力を籠めるが、山廣の体は一切動かない。


「能力使わずに止められる拳なんて久々だぜ。」

「それは黒の……そもそも”力の強い”遺伝子を継いでるからだろ。俺だってまだ能力を使ってない。」

「そうか。なるほどな。俺のダチはみんな黒の魔法使いばっかだからか。」


 すっと山廣の思考が逸れる。そのタイミングを見計らい、細坪は能力を発動する。

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