第12話
1日目の聞き込みを終えた翌日、噴水近くのベンチに向かった西吉と兼政を待ち構えていたのは、満面の笑顔で親指を立てる成岡とドヤ顔のキラキラした目で2人を見つめる先川原だった。
「ちなみに、兼政くんの方はどうだったの?」
自らと兼政の表情の差から答えの分かり切っている質問を、成岡は笑いながら投げかける。その言葉にムッとする兼政の肩に西吉が手を置き、宥める。
「こっちは成果なしだよ。そもそも家出中に行く必要のある店も殆どなかったしね。それこそエグチフーズくらい。ちなみにエグチフーズの店員の人は卯辰さんのことを知ってたけど、そもそもあんまり見かけないって言ってたよ。」
成岡は納得したように頷くと、自らの聞き込みの結果を話す。
数軒の店番の話を集約すると一昨日、卯辰が商店街に来ていたことは間違いなかった。そしてここ数日、門限近くに商店街に来る高校生が3人いるらしいということも分かった。
「一人は歩袮でしょ。そして赤い目の真面目そうな少年。そして黒と白の瞳の少年の3人。」
「商店街の人たちの話をまとめると……その3人が最近良く来てるらしいよ。」
成岡は話を続ける。商店街の人によると卯辰と細坪らしき少年は隔日に来ていて、2人を同時に見ている人はいなかった。一方で黒と白の目の少年はここのところ毎日商店街を歩き回っているらしい。
「つまるところ、門限近くに商店街にいれば歩袮か細坪くんに会えるはずってことになるわね。」
「でも、商店街は寮から遠いし、門限近くまでは残れないぞ。」
兼政の指摘に成岡は深く頷く。そして難しい顔をする。
「そうなのよね。」
4人は黙りこくる。話の流れから当然ぶつかる壁ではあったが、担任にバレずに行動したい西吉と兼政、そして極力問題を起こしたくない先川原と成岡にとって門限の壁は相当大きなものだった。
「まあ、野宿を覚悟すれば門限を過ぎることもできるけど。」
学校からの連絡がある前に細坪の失踪に気付かなかったように、寮の管理人が全ての寮生の行き来を把握しているわけではない。門限を過ぎると寮のドアには鍵がかかってしまい出入りするためには管理人に連絡しなければならなくなるが、朝になれば当然ながらドアは開放されるので出入りしても管理人にはどうとも思われない。
「けど、1日でも風呂に入らないと耐えられない人に野宿は厳しいかもね。」
「確かに。ミキタカも卯辰さんも無事だって分かったし、僕は寮に帰ることにするよ。」
西吉が笑いながら手を振って公園の外へ歩いていく。あっというまに声の届かないところまで行ってしまう西吉に3人は引き留める暇もない。
成岡は理解できないという顔をして兼政を見る。
「どういうこと?」
「さあね。何か気に障ったんじゃないか?」
成岡はますます意味が分からないという顔で先川原を見る。
「多分、何か一人でしか出来ないことをしに行ったんだと思うよ。それも……今は私たちに言わない方が良いんだと思ったとか。」
「そんな風に見えた?」
「見えなかったけど……そう考えるしかなくない?」
成岡は心にしこりがあるような顔をし、少し声を落として言う。
「実は、歩祢が居なくなったのに西吉が関わってる可能性はない?」
「……どういうこと?」
「友達が居なくなってすぐにあんなに明るく振舞えるものかしら。しかもずっと、まるで細坪くんと歩祢が家出だって、無事だって分かり切ったような言動ばかりしてたじゃない。」
先川原は西吉の行動を頭の中で振り返る。成岡の言葉は否定できないが、西吉が卯辰の失踪に関わっているというのは考えすぎだという気がした。
「そもそも、家出なんじゃないかって言いだしたのは……私だったと思う。それに、明るく振舞っていたのは多分、ことの重大さをあまり深く考えてなかったからだと思うよ。一昨日、私と2人で行動してた時は……すこし焦っているように見えたし。」
「そう。」
「高校に入ったばかりから仲良かったアユネだって何をしたいのか私たちには理解できないんだし、ハルカのことが分からないのも当然だと思うよ。……けど、今はアユネを探すために手伝ってくれてるんだし、疑う必要はないと思うよ。」
成岡は頷き、兼政の方に向き直る。成岡の後ろから2人の会話を聞いていた兼政は驚いたような顔をする。
「俺も、西吉を疑う意味は無いと思うよ。確かに西吉はいつも意味の分からないことばかり言ってるし時々1人になりたがったりするけど、根はかなりちゃんとした奴だって俺は良く知ってる。」
自信満々にそう言う兼政と、同意するように強く頷く先川原を見て、成岡は西吉を信用することに決めた。
「それで、今日はどうするの?」
「あれ、もう2人で計画を立ててたのかと思ってた。で、今日はどうする予定?」
当然のような顔をして自分を頼る兼政と成岡に先川原は苦笑しながら、あらかじめ考えていた、3人で商店街を効率的に見張る方法を話し始める。
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