第10話

 西吉は銭湯で自分を律し、頑張って閉店時間まで目を覚ましていた。そしてその結果、6限目の国語の先生が李徴の心情の読み取り方を説明しているところで机の上に顔を突っ伏し、意識を失った。

 そして先川原は三角関数の応用公式の1つ理解するのを諦めた代わりに、1授業分の時間全てを費やして、友達を探す有効な手立てを1つ思いついた。


 そして放課後、いつもの公園の噴水の近くに4人が集まると、西吉と先川原は昨日の張り込みの結果を話した。すなわち、長い時間張り込みを行ったが、卯辰も細坪も見当たらなかったという結果を話した。


「そっか。ごめんね、4人で分担すれば見つかったかもしれないよね。」


 と、落ち込んだ成岡はネガティブなことを言い、兼政も口には出さないが似たような考えを抱く。


「そんなこと言ったって、来なかったものは来なかったんだ。今日は4人で分担して張り込めばいい。継続は力なりだ。」


 そう西吉が言うと、先川原が小さく首を横に振る。


「そのことなんだけど、もしかするともっといい方法かもしれない方法を考えてきたんだ……。だから、昨日の案も良いんだけど、一回……私の考えてきた方法でやってみない……かな?」


 そして先川原は、やはり張り込みでなく聞き込みの方が有効だと思い、聞き込む相手に怪しまれないようなカバーストーリーを考えてきたと話す。


「私と、チョコちゃんとハルカと兼政くんと、あとアユネは幼馴染で、中学2年生までは一緒に遊んでいたんだ。」

「ミキタカは?」

「いいから、ちょっと続き聞いてて。」


 予想よりも強い口調で質問を制止され、やや驚いた顔をして西吉は黙りこくる。


「それで、偶然そのうちの4人がこの郷見能力特区にいると知って久しぶりにつるむようになった。」

「なるほど。」

「でもって、アユネだけ少し遠くに住んでたから郷見能力特区には来てないだろうと思ったけど、チョコちゃんの友達の澤谷くんがたまたま特区内でアユネらしき子を見かけたって聞いて、もしかしたらアユネも同じ特区にいるんじゃないかと思い探している。っていう設定なんだけど……どうかな。」


 西吉が顎に手をやり、成岡が首を傾げ、兼政が納得したように頷く。三者三様のリアクションの後、西吉が話し始める。


「おそらくだけど、ミキタカじゃなくて卯辰さんだけを探すつもりでいるってことだよね。」

「うん。そのことなんだけど……」

「中学2年生から2年も会っていなかったら印象がかなり変わると思う。背が伸びやすい男子だと特にそうだ。だからよく見かける赤い目に無難な風貌のミキタカを見て、幼馴染だと確信したというのは嘘っぽい。というかストーリーに引っかかる部分が出来る。」

「だから、青と緑の目っていう目立つ特徴を持つアユネを対象にした方がストーリーが通りやすいってこと。」


 西吉と先川原は我が意を得たりといった様子で口角を上げ、西吉が突き出した拳に、先川原が小さな拳をコツンと当てた。


「……話は分かったけど、もしかしたら忘れちゃうかもしれないから文字で貰えると助かるわ。」


 先川原は頷き、携帯の画面をポチポチと操作し始める。先程話した内容を文字起こししているのだろうと西吉は考え、邪魔しないようにと兼政、成岡に話を振る。


「昨日はゆっくり休めた?」


 西吉の言葉に2人は中途半端な顔をする。


「俺はイマイチ。ミキタカが自分からいなくなったにせよ誘拐されたにせよ、分からないことが多すぎてどうにも眠れないし、ハルカみたいに出来ることと出来ないことを割り切ることも出来ないから、気が焦るんだ。」

「私は単純に不安なんだ。歩祢は大人しいタイプだから何の理由もなしに家出するとは思えないし、聞いたところ細坪くんも真面目なタイプだと思うから、2人で家出するとは考えづらいの。だから、本当は2人とも事件に巻き込まれたんだと思ってて、いまごろ歩祢が危険な目に合ってるかもしれないと考えると休める気なんてしないわ。」


 2人の言葉を聞き、西吉は悲しい顔になる。西吉は何においても感情を抜きにして計算してしまう性格であり、細坪を助けたいと強く考えている一方で、西吉の探すことの不可能な場合、例えば2人が誘拐や殺人の被害者になっている場合は簡単に諦めることができる自分自身を理解していた。その点、友達のために熱くなれる2人のことを羨ましく感じた。

 一方で、自らの言葉を文章に纏めながら2人で聞いていた先川原は表情には出さないものの、2人の考えはあまり良い傾向でないと感じた。高校生で3日間しか行方をくらましていない人のうち9割が家出である事実を考えれば卯辰と細坪は家出の可能性が高く、今は無用な心配するよりも2人を全力で探すためにコンディションを整えることを優先すべきだと先川原は考えていた。


 先川原はカバーストーリーを簡単に纏めた文章をグループに送り終えると3人に向き直り、これからの計画を立てようと切り出した。


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