第7話

 銭湯で無駄な時間を過ごした翌日の放課後、4人は公園の噴水近くで集まっていた。


「聞き込み調査とかしたいけどね。」

「それが一番手っ取り早そうなんだが、俺ら高校生がそんな事をしたところで怪しまれるだけに終わる可能性があるし、学校に通報されるリスクを考えると、簡単に取れる手段では無いと思っている。」

「そんなこと分かってるわよ。」


 中心的な2人に険悪な雰囲気が漂い、先川原は萎縮したように黙りこくる。

 西吉はというと噴水でバシャバシャと行水するカラスをのんびり眺めていて、話に参加する気が見られない。


「西吉はどう思うのよ。」


 黙っていても自分の中から案が出てくることがなさそうだと感じた成岡は西吉に話を振る。彼が本気で友人を探す気でいるとは、成岡には全く思えない。


「僕は、やっぱり銭湯で張るべきだと思うなあ。だって1日1回は風呂入りたいもん。でも、使える風呂なんて寮か銭湯にしかないでしょ。」


 昨日の失敗を覚えていないのか、全く同じことを言う西吉に成岡は少し苛立つが、彼には何を言っても無駄だと思い口を閉ざす。


「いまいち成岡さんに共感してもらえないんだよなあ。実は風呂なんて1週間に1回でいいんじゃないかと思ってんじゃないの?

 でもやっぱり、それじゃ駄目だよ。髪が臭くなるもん。」


 地面が大きく揺れ、噴水で水浴びをしていたカラスが驚いて飛び立つ。周りから奇異の視線を向けられながら成岡は西吉を睨む。


「あんた、本気で友達探す気あるの?もしかしたら危ない事件に巻き込まれて、どこかに閉じ込められてる可能性だってあるのよ。そんな時に、銭湯で張り込みしても何の意味もないじゃない。」

「昨日は寝てたから気付かなかっただけなんじゃないの?今日も同じことしてみようよ。もしかしたら見つかるかもしれない。」

「どうでしょうね。」


 西吉は成岡をじっと見る。


「でも、良い案だと思うんだよなあ。人が社会生活をするためにいちばん必要なのってやっぱり清潔感だと思うんだよ僕はね。食べ物とかトイレとか、もちろん必要だけど、風呂に入らないと見た目で分かるし、汚い人を見ると嫌だろ。清潔感のない人からしても、誰かに嫌な顔されてたら戻ってくるのは難しいよ。」

「でもそれは、何も事件に巻き込まれていないっていう前提の話よね。」

「そうは言うけど、事件に巻き込まれていたら俺らはどうやって2人を探せばいいんだ?とりあえずは2人が何事もない想定で考えた方が……」


 兼政に口を挟まれ不機嫌そうに黙る成岡に、先川原がフォローを挟む。


「チョコちゃん、ちょっと疲れてて……」


 成岡は静かに頷く。


「ごめんなさい。私、今日銭湯に行ったら間違いなく寝るわ。昨日、全然寝れなくて。弱みを見せるようであんまり言いたくはなかったんだけど、やっぱり言うわ。」

「うん。自分の方に非があるのに苛立っちゃうことってあるよね。本当に。ただ、兼政も同じような状況なんだよね。」


 西吉の視線に促され、成岡は兼政を見る。気が立っているのか普段よりかなり鋭くなった目の下には、くっきりと隈が浮き出ている。


「今日は眠くて張り込みするのがキビしいらしい。兼政は自分のせいでミキタカが行方不明になったんだという罪悪感が消せなくて、昨日は銭湯で寝てしまった後悔もあって一睡もできなかったらしいから。」

「なるほどね。」

「すまん。」


 頭を下げる兼政に、成岡は気にするなというふうにパタパタと手をふる。


「素直だねえ。」

「何?文句でもあるの?」

「いえ、赤の魔法使いって少し頑固なところがあるので、こうやってすんなり受け入れているのを見ると変な感じがするというか。」

「私も今は強く言えないのよ。力不足なのは間違いないし、早く見つけるために不和を生まない方が良いことだってちゃんと理解してるの。あなたと違ってね。」

「すいませんね。中学時代から煽り癖が抜けなくて、僕自身も困ってるんですが。」


 軽く頭を下げる西吉の目には隈の1つも見えない。


「あなたは、友達が見つからないんじゃないかとか不安になったりしないの?」


 西吉は首を少し傾けただけで成岡の言葉をスルーする。


「今日は2人とも疲れてるみたいなので、先に寮に帰ってください。今日は僕と先川原さんで探します。進捗があればグループに連絡するので、明日の朝にでも確認してください。」


 ではでは~と手を振り、先川原を促して公園の外へと続く道を歩いていく西吉に、成岡は末恐ろしいものを感じる。ただ、それを言語化出来ないうちに西吉と先川原は歩き去っていった。

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