第3話
部活動の無い生徒の大半が帰宅し、閑散とした通学路を兼政と西吉は歩く。大人を出し抜いてやろうという気持ちと自分の手で友人を見つけ出そうという気持ちで2人の顔は力強く輝いていた。
「まずは、公園で3人組の女子を探そう。1人は長髪のハーフアップで2色の魔法使いだ。」
「青と緑の魔法使いだったっけ。」
「ああ。女子高校生で、2色の魔法使いで、しかも色は青と緑ってことも分かってる。それに髪型も分かってる。確率からすればこの都市に1人しかいないような特徴だ。すぐに見つかるに違いない。」
「うん。」
いきり立って歩を進める2人にはその計画が友人を見つけるために一番確実な方法だと思えた。しかし、計画はすぐに頓挫した。
「いないな。」
「いないね。全員、1色の魔法使いだ。見間違いでも青と緑に見えるような目の人はいない。」
「まさか初手から躓くとは。」
「うーん。どうする?……高校生だってことは分かってるし、放課後に高校を回って、知ってる人がいないか探す?」
西吉の提案に兼政は頷く。
「それがいい。とりあえず第一高校はそろそろ授業が終わるはずだから張ってみよう。第三から第六はもう授業も終わってるし、明日だな。」
「どこの高校か訊いておけばよかったよ。」
公園からそこそこ離れた第一高校まで走って向かい、同級生や先輩に話を聞くが思ったような回答は得られない。兼政は即席の設定として校内新聞で2色の魔法使いに話を聞く企画をやっているのだと説明するが、理解は得られても欲しい情報を持っている人はいなかった。
「……ところで、青と緑の魔法使いだろ? 俺の学年にはいないな。まだ1年生で初めての新しい企画を成功させたいのは分かるけど、あんまり根掘り葉掘り訊くと印象を悪くするかもしれないから気を付けろよ。」
「すいません……。」
「ごめんなさい……。」
「まあ、何事も最初は上手くいかないもんだ。他の人にしなけりゃいいんだよ。それと、俺のクラスの中野も凄い能力者だからいずれ取材に来てくれ。俺らはもうすぐ卒業しちまうから早めにな。」
手を振りながら歩き去っていったガタイの良い先輩をお辞儀で見送り、まわりに生徒が一人もいなくなったのを確認して西吉はため息をつく。
「ここにはいないみたいだね。どの学年にも青と緑の2色はいなかった。」
「それにしても案外、2色の能力者っているもんなんだな。第二高校の1年にいないからてっきり稀なのかと思っていたけど、青と緑の魔法使いってだけじゃ見つからないかも知れない。」
「まあ、組み合わせで5色×4色×男女で確率2.5%だって考えれば、そう重なることでもないと思うよ。明日に期待しよう。」
落ち込んで否定的なことを言う兼政を西吉が励まし、彼らの甘い計画が思ったよりうまく行かないことに一抹の不安を覚えながら、2人は寮に帰った。
◇
翌日、授業に身が入らずぼんやりしたままの気分で学校が終わり、西吉と兼政は分担して2つの高校に向かった。兼政は第二高校からかなり距離のある第三高校へと向かうバスを待ち、第二高校と終業時間が同じ近くの第四高校に走って向かった西吉は、息も十分に整わないままに声をかけた1人目の男子生徒から有益な情報を得た。
「2色の魔法使いなら俺のクラスにいるよ。青と緑の魔法使いで、卯辰さんって人。」
「卯辰さんって髪の長いハーフアップの……?」
「そうそう。知ってる?」
「企画を考えた人が、1人目はぜひ卯辰さんに取材したいって言っていたので。」
西吉がそう言うと男子生徒はにやりと笑い、声を落とす。
「卯辰さんは超がつくくらいに可愛いし美人なんだけど、1つ、暗い噂がある。」
「暗い噂?」
「夜な夜な寮の部屋を抜け出して、春を売ってるらしい。」
西吉は思ったより下らない話だったとがっかりした顔で男子生徒を見る。
「そういう話はよくありますけど、根も葉もない噂だってことは澤谷さんも薄々察しているのでは?」
「ゴシップとか好きそうなタイプだと思ったんだけどな。あてが外れたか。けどな、俺、実は卯辰さんと同じ寮に住んでいるんだが、ある日の夜に卯辰さんが寮のすぐ外を歩いているのを見たんだ。しかも門限なんてゆうに越した真夜中だ。」
「ほう。」
「何をやっているのかはしらないが、卯辰さんが後ろ暗い連中とつるんでるのは間違いないだろうぜ。そうでもなきゃ、管理人の目を掻い潜ってまであんな夜中に外出するなんて考えられないだろ。」
西吉は深く頷く。心の中で心配していた2色の魔法使いの女子が何の関わりもないという可能性が消え去り、細坪を探す大きな手掛かりを得たと安堵する。
「しかしまあ、学校新聞にゴシップ記事を書くわけにもいかないので、その話はオフレコにさせていただきます。とっても興味はありますが。」
「やっぱり興味津々じゃん。」
「ところで、澤谷さんから卯辰さんに連絡を取っていただくことは可能ですか?出来れば取材をさせていただきたいのですが。」
西吉は兼政に、第四高校に来て欲しいと連絡する。昨日に比べ、あまりに順調に進む話に口元が緩む。
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