第2話

 学校に着いた時、兼政と西吉は全く落ち着かない気分だった。というのも今朝、いつものように細坪の部屋に行ったところ学校に間に合わない時間まで待っていても彼が出てくることは無かったのだ。

 彼らはSNSで細坪に連絡し、電話を掛けたりドアを強めに叩いてみたりインターフォンを押してみたりもしたが全く反応が無く、好きな女子に振られたくらいでは考えられないくらいの無反応にもしかして家にいないんじゃないかとすら彼らは考えたが真面目な細坪に限ってそれはあるまいと彼ら自身を納得させて、急ぎ学校に向かった。


 それだから朝、出欠を取っていた担任が少なからぬ疑問を抱きながら細坪御貴鷹の欄を欠席にしてホームルームを終えたのち、2人は急いで担任のもとに向かった。


「秋中先生。今朝、ミキタカの家に行ったんですけど全く反応が無くて。」

「そうなのか。僕もちょうど君らに話を聞きたかったんだ。いつも仲良くしている君らなら何かを知ってると思ったんだが、連絡もつかないのか?」

「つきません。」


 担任は顎に手を当て、少し考えた後に難しそうな顔をして言う。


「最近、細坪君に何かあったということはないか?」

「それなんですが先生。ちょうど昨日ミキタカが好きな人が出来たって言ってきて、俺がちょっと煽ったら急に『告白してくる』って言ってどこかに走って行ってしまったんです。それから家には帰ったと思うんですけど、ミキタカが何も反応してくれないのって俺のせいなんでしょうか。」

「そうかもしれないが、あまり気にするものではないよ。友達というのは互いに喧嘩したり仲直りしたり、そうやって仲を深めていくものだ。」


 頭をぽんぽんと叩きながら言う担任の言葉に兼政は、分からないながらも無理やり自分を納得させるような暗い顔をして頷いた。


「ともかく、昼休みにでも連絡してみるから事情が分かったら帰りのホームルームの後にでも君たちに伝えよう。」


 担任が立ち去ったあと、浮かない顔をした兼政と西吉は授業開始のチャイムに急かされるように教室に戻った。


 ◇


 2学期の中間試験が迫る九月末の授業は板書が増え、重要なマトメや試験範囲の説明をされたりなどと授業が忙しくなる。普段はノートに書き損ねた場所を細坪に見せてもらうことが少なからずあった兼政は板書をしながら先生の話を聞くのに忙しく、西吉は細坪に見せるため普段よりも丁寧にノートを取ることに神経を費やしていて、担任の連絡がどうなったのかを考える余裕は無かった。

 そしてホームルームが終わり、普段の席に細坪がいないことに一抹の寂しさを感じながら細坪についての話を聞きに行った二人を担任は、放課後に利用されることのない理科室に呼んだ。


「他の生徒の前では少し言いづらくてな。」


 と言いながら部屋の中に招く担任の深刻な顔に、2人は大きな不安を感じざるを得なかった。


「このことは本当はあまり生徒に言わない方が良いという話になっているんだけど、僕の独断で君たちにだけは伝えようと思う。だから、今から話そうと思っていることは誰にも言わないと約束してくれ。」


 2人は頷く。


「本当に、約束だ。」

「約束します。」

「もちろん、約束します。」


 先生は少しためらうような表情を見せた後、話し始める。


「細坪君のことなんだが、昨日は帰宅していないらしい。午後の時間に管理人に依頼して顔認証システムで寮の入口のところにある防犯カメラを調べてもらったが、細坪君は映っていなかった。」


 あからさまに顔を曇らせる生徒2人に、この話をするのは失敗だったかと担任は後悔しながらも、今さら後戻りは出来ないと肩を落として言葉を続ける。


「毎年この時期になるとホームシックになって親御さんのもとに帰ってしまう生徒がいる。そういった場合は学校に一報入れてもらうよう親御さんには依頼しているが、連絡を貰えないことも少なくない。ただ……」

「ミキタカの親に限ってそれはない。ですよね。あいつの父親、みのるさんは郷見能力特区の設立メンバーの一人で学校と地域住民との連携システム確立を一手に担った人ですから。」

「ああ。僕も一度会ったことがあるが、細坪君とよく似た誠実な方だった。まさかあの人が自ら作ったルールを無視するとは考えづらい。」


 わずかに残った明るい可能性が消えたことを3人は互いに再確認し、さらに暗い顔になった生徒に対して担任は言葉を続ける。


「実は昨日、別の高校生も同時に行方不明になっている。詳しいことはゆくゆく分かっていくと思うが、細坪君と彼女は何らかの事件に巻き込まれている可能性がある。そう、警察は考えているらしい。僕が話すつもりがあるのはここまでだ。君たちが独自で細坪君を調べて事件に巻き込まれるのを避けたいから僕は君たちにこの話をした。

 細坪君に関わるのは君たち自身にとっても危険な可能性がある。僕たち大人を信用して、この件には関わらないと約束してくれ。」


 2人の生徒は暗い顔を崩さないように頷いた。

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