秋の愛

@Obia

秋の愛

 短編


「何を言ったって誰も理解してくれないじゃない!それなら何も言わないほうがいいに決まってるわ!」


 夕日が差し込む教室で、珍しく声を荒げた彼女に俺は反論した。


「いいや、それでも言うんだよ!理解されなくたっていい、相手に自分の考えを伝えることが重要なんだよ!」


「どうしてよ!考えなんて理解されないなら伝えたって意味がないじゃない」


「たしかに、その場では理解されないかもしれない。でも意味はある。だって、そうすれば相手はその時は理解できなくても、時間が経ってから自分の行動を振り返る事ができるからだ」


 握りしめた拳を解きながら彼女は零した。


「それじゃあ、今苦しんでいるわたしの気持ちには気づいてくれないの……」


「どうだろうね、けれども君が何も言わないでいると、相手はそれに気づかない。気づく機会が与えられない」


「何も言わないで人と関わるのを諦めるから嫌な気持ちが続くんだよ」


「人が自分の思い通りになるよう期待するんじゃなくて、自分から行動して、相手の考えを知って自分の考えを伝えて、一緒に生活するのにちょうどいい空間を作り上げるんだよ」


「だから、逃げないで行動するんだ、自分の考えを人に伝えるんだ」


 俯いていた顔が真っ直ぐこちらを捉えた。

 諦めがついたように、決心したように彼女はか細い声で言った。


「でも、わたし今まで全然何も言ってなかったから、そんなことを考えてたのかって、自分の人間性を知られて、へんな風にに思われちゃうのが怖いわ」


「べつに相手にどんな風に思われたっていいだろ、それが自分なんだから」


 何か言われても言い返せばいい。相手が罵倒するだけで何も聞く気がなかったら、それこそ自分の考えを全部吐き出すべきだ。

 そうすれば、その場では理解できなくても、相手は成長して自分の行動を振り返る時がでてくるからだ。そしてこう考えるだろう「ああいう考え方を持つ人もいるんだな」ってね。

 また、時間がたってから考え方を理解してくれるかもしれない。だから伝えるべきなんだ、そしてその可能性を捨てちゃいけないんだ。


 行動する前から諦めちゃいけないんだ。



 次の日の学校

 俺は伝えたいことがあると彼女に呼び出された。

 彼女は昨日と同じように俺のことを待っていた。


「わたし、自分の思いはちゃんと伝えようと思ったの」

 俺は彼女が心境の変化を伝えてくれたことを嬉しく、また同時に照れくさく思い、この気持ちをごまかそうとおどけてみせようとした。しようとしたのだが。

「そっか、じゃあまずはエッセイでも書いてプロのエッセイストとか目指そう――」

「だから! 伝えるわ。 わたしあなたのことが好きよ、付き合って」


 ・・・・


「えええぇぇぇぇぇ!!!!」

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