駒
馬子の右腕だという
「この方は
「まあね」
怪訝な顔をした駒に対し、河勝はあまりにもあっさりと頷いた。彼は楽しそうに駒に近づくと、顔を覗き込みながらにやりと笑う。
「さすがは駒だ」
飄々とした河勝の様子に、傍観していた竹田と調子麻呂が顔を見合わせる。同意するのならば何故止利に朝廷の話をしたのか。駒も同じ疑問を抱いているようだがわざわざ口にすることはない。元々寡黙な男なのだろう。
しかし、瞳は確実に河勝に注がれていた。行動の意図を必死に探ろうとしているようにも見える。
「でもね、僕は止利くんにこの話をしておきたいんだよ」
河勝はそう繰り返した。
「僕はつくづく思うんだ。止利くんは必ず大物になるってね。鞍作部で終わらせちゃあいけない。僕は止利くんを仏師にするよ」
駒や竹田、調子麻呂までもが目を丸くした。しかし一番驚いたのは止利である。それを悟ったのか河勝はくるりと止利の方を向いた。
「前は君の判断に任せるって言ったけどね、正直僕は選択させるつもりもなかったよ。何がなんでも君には仏師になってもらう。そうじゃなきゃ僕が困る」
河勝は悪びれもなく言った。止利が抗議の声をあげる暇さえなかった。
なんて勝手な人だ。自分はまだ仏師になると決めたわけではない。その覚悟だってない。どうして彼は
「それは······ようございますな」
「えっ」
突然同意したのは駒だ。止利は驚いて顔を上げる。何故初対面の駒が頷くのだ。そもそも「それは」の後の絶妙な間は何だ。どう考えても彼は何かを言おうとしていた。しかしのみこんだ。そのくらい止利にだって分かる。
助けを求めるように竹田と調子麻呂に目を向けると、どこか心配そうに見つめ返された。やめてくれ。そんなに不安そうな顔をされたらますます怖くなってしまう。
「まぁ、とりあえずは昔話でも聞きなよ」
河勝は相変わらずの胡散臭い笑みで笑いかける。それが鬼のようにも見えた。
「なんで僕がこんなことを言い出したのかはいずれ分かるよ。まずは君も飛鳥の現状を知っていた方がいいからね。話してもいいよね、駒。蘇我に不利益なことはない」
「どうぞご自由に」
駒が静かに頷くと河勝は止利の前に座った。河勝の瞳の奥がキラリと光る。圧倒されるのも束の間、河勝は昔話を語り始めた。
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