黒駒
二人で裏の
じっと見つめていたからか、黒馬がこちらに気がついた。見慣れない止利に耳を立てると、誰だと言いたげに鼻を鳴らす。
「黒い馬なので
止利と黒馬の目が合ったことに気がついたのか、調子麻呂が笑う。
「ほら、黒駒。
言葉を理解しているのかいないのか、こちらを伺うように立てられていた耳が些か柔らかさを取り戻す。そのまま歩み寄ってくると、鼻をひくひくとさせて止利の顔周りを嗅ぎ回った。
「ふふっ、可愛い」
かかる息はくすぐったいが、温もりは人のようだった。調子麻呂は「そうでしょう?」と心底嬉しそうな顔をする。
「皇子さま自慢の愛馬なんです」
調子麻呂は本当に
「黒駒のことはずっと調子麻呂さんがお世話しているんですか? だいぶ長い付き合いのように見えますけど」
「そうですよ。彼が皇子さまの元へ来てからずっと、私がお世話しております。もうかれこれ四年ほどになりますかね」
四年だと? その言葉に首を捻る。厩戸はまだ十歳だと言っていた。そうなると黒駒に出会ったのは六歳の頃ではないか。さすがに馬に乗るには幼すぎると思った。その事を問えば、調子麻呂も「そうなのですよ」と頷く。
「初めは
「おーおみ?」
「ええ、この飛鳥をまとめる豪族の一人で、
大臣や大連というのは、
現代の我々から見ると当時の氏姓制度は中々理解しにくいのだが、それは止利にとっても同じだった。身分が低い彼にとって政治のことはよく分からない。しかし蘇我馬子と物部守屋という二人の男が強いのだということは辛うじて理解した。
「大臣は、皇子さまにとって大切なお方です。皇子さまの母君は蘇我家に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます